[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

“結び目”をストッパーに使ったロタキサンの形成

[スポンサーリンク]

分子ノットの嵩高さを利用した新規ロタキサンを合成した。末端に分子ノットをストッパーとして形成することで、大環状分子は紐状分子から外れることなく固定される。

 分子ノットの応用

分子ノットは、1989年にSauvageらにより初めて合成された、結び目構造をもつ分子である[1]。結ぶことで引き起こされる大きなコンフォメーション変化から、新たな機能性分子の設計・創出につながることが期待できる。

これまで様々な分子ノットが合成されているが、応用例は限られる[2]。例えば、ハロゲン選択的なアニオンの取り込みを可能にした例がある(図1A)[3a]。また、結び目は右回り、左回りをもつことから軸不斉をもつが、その性質を利用した不斉触媒(図1B)[3b]、さらにはアロステリック調節によりON/OFF可能なルイス酸触媒(図1C)[3c]としての利用が知られる。いずれも、ナノスケールで起こる現象や反応に応用した例である。それに対して、我々の生活で見られるような裁縫の玉結びや命綱のような“結び目“としての機能など、マクロスケールで見られる性質を利用した例は未だない。
今回、Leigh教授らは、自ら開発したランタノイドイオンによるノットの形成[3b]を用いて、分子ノットを玉結びのように利用した新規ロタキサンの合成に成功したので紹介する(図1D)。

図1. 分子ノットを利用した反応 (出典:論文より改変)

 

“Securing a Supramolecular Architecture By Tying a Stopper Knot”
Leigh, D. A.; Pirvu, L.; Schaufelberger, F.; Tetlow, D. J.; Zhang, L.Angew. Chem., Int. Ed. 2018, Early View DOI: 10.1002/anie.201803871

論文著者の紹介

研究者:David A. Leigh 
研究者の経歴:(一部抜粋)
1987 Ph.D, University of Sheffield (Prof.J. F. Stoddart)
1998-2001 Chair of Synthetic Chemistry, University of Warwick
2001-2012Forbes Chair of Organic Chemistry, University of Edinburgh
2012- Professor of Organic Chemistry, University of Manchester
研究内容:Mechanically-Interlocked Moleculesを用いたナノマシンの創製研究

論文の概要

ロタキサンは、通常、大環状分子が棒状分子を貫通しており、その棒状分子の両末端に嵩高い骨格を共有結合でつなぎ、それをストッパーとすることで形成されている。

今回著者らは、分子ノット形成による立体的な嵩の増加をロタキサン構造のストッパーに応用すべく、一方の末端にノット形成可能なトリスピリジンジカルボキシアミド(TPCA)部位をもつ紐状分子L1を合成した。このノット形成可能なL1は大環状分子DB24C8とのロタキサン形成において以下のように機能する(図2)。

  1. 酸性条件下、L1のアミン部位をアンモニウムとすることで、DB24C8が紐状分子を通り、擬ロタキサンL1H+·DB24C8が生成する。
  2. ルテチウムイオンの添加により、ルテチウムイオンが紐状分子のTPCA部位に配位し、分子ノットを形成する。この分子ノットがストッパーとなり、ロタキサン1H+となる。
  3. 塩基により1H+のアンモニウム部位を脱プロトン化することで、大環状分子はアンモニウム部位から解放され、自由度が増す。その状態でもノット部位がストッパーとして機能し、大環状分子は紐状分子から外れることなくロタキサン構造を保持できた。
  4. 最後に、Et4NFにてルテチウムイオンを除去することで、分子ノットが解け、ロタキサン構造は消失した。各々の構造は、1H NMRやMSスペクトル解析により確認している。

詳細な解析は論文を参照されたい。
今回、分子ノットを実生活でも見られるような”結び目“として機能させることに成功した。今後、このようなプロセスが、新規機能性分子や材料設計につながるのではないだろうか。

図2. ロタキサン構造の設計 (出典:論文より改変)

 

参考文献

  1. Dietrich-Buchecker, C. O.; Sauvage, J.-P. Angew. Chem., Int. Ed. Engl.1989, 28, 189. DOI: 10.1002/anie.198901891.
  2. Fielden, S. D. P.; Leigh, D. A.; Woltering, S. L. Angew.  Chem,. Int. Ed. 2017, 56, 11166. DOI: 10.1002/anie.201702531.
  3. (a) Ayme, J.-F.; Beves, J. E.; Campbell, C. J.; Gil-Ramírez, G.; Leigh, D. A.; Stephens, A. J. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 9812. DOI: 10.1021/jacs.5b06340.(b) Gil-Ramírez, G.; Hoekman, S.; Kitching, M. O.; Leigh, D. A.; Vitorica-Yrezabal, I. J.; Zhang, G. J. Am. Chem. Soc. 2016,138, 13159. DOI: 10.1021/jacs.6b08421.(c) Marcos, V.; Stephens, A. J.; Jaramillo-Garcia, J.; Nussbaumer, A. L.; Woltering, S. L.; Valero, A.; Lemonnier, J.-F.; Vitorica-Yrezabal, I. J.; Leigh, D. A. Science 2016,352, 1555. DOI: 10.1126/science.aaf3673.
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 向かう所敵なし?オレフィンメタセシス
  2. 3級C-H結合選択的な触媒的不斉カルベン挿入反応
  3. とある社長の提言について ~日本合成ゴムとJSR~
  4. THE PHD MOVIE
  5. ポンコツ博士の海外奮闘録⑪ 〜博士,データをとる〜
  6. ルィセンコ騒動のはなし(後編)
  7. 黒板に描くと着色する「魔法の」チョークを自作してみました
  8. 生合成を模倣しない(–)-jorunnamycin A, (–)…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 抗生物質の誘導体が神経難病に有効 名大グループ確認
  2. 自律的に化学実験するロボット科学者、研究の自動化に成功 8日間で約700回の実験、人間なら数カ月
  3. 有機反応を俯瞰する ーヘテロ環合成: C—C 結合で切る
  4. ウルツ反応 Wurtz Reaction
  5. 第468回生存圏シンポジウム「CNFとキチンNF 夢と現実、そしてこれから」
  6. クリックケミストリー / Click chemistry
  7. ACSで無料公開できるかも?論文をオープンにしよう
  8. インドール一覧
  9. 名古屋メダル―受賞者一覧
  10. “マイクロプラスチック”が海をただよう その2

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

はじめから組み込んじゃえ!Ambiguine P の短工程合成!

Ambiguine Pの特徴的な6-5-6-7-6多環縮環骨格を、生合成を模倣したカスケード環化反応…

融合する知とともに化学の視野を広げよう!「リンダウ・ノーベル賞受賞者会議」参加者募集中!

ドイツの保養地リンダウで毎年夏に1週間程度の日程で開催される、リンダウ・ノーベル賞受賞者会議(Lin…

ダイヤモンド半導体について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、究極の…

有機合成化学協会誌2025年6月号:カルボラン触媒・水中有機反応・芳香族カルボン酸の位置選択的変換・C(sp2)-H官能基化・カルビン錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年6月号がオンラインで公開されています。…

【日産化学 27卒】 【7/10(木)開催】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 Chem-Talks オンライン大座談会

現役研究者18名・内定者(26卒)9名が参加!日産化学について・就職活動の進め方・研究職のキャリアに…

データ駆動型生成AIの限界に迫る!生成AIで信頼性の高い分子設計へ

第663回のスポットライトリサーチは、横浜市立大学大学院 生命医科学研究科(生命情報科学研究室)博士…

MDSのはなし 骨髄異形成症候群とそのお薬の開発状況 その2

Tshozoです。前回はMDSについての簡易な情報と歴史と原因を述べるだけで終わってしまったので…

水-有機溶媒の二液相間電子伝達により進行する人工光合成反応

第662回のスポットライトリサーチは、京都大学 大学院工学研究科 物質エネルギー化学専攻 阿部竜研究…

ケムステイブニングミキサー 2025 報告

3月26日から29日の日本化学会第105春季年会に参加されたみなさま、おつかれさまでした!運営に…

【テーマ別ショートウェビナー】今こそ変革の時!マイクロ波が拓く脱炭素時代のプロセス革新

■ウェビナー概要プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーである”マイクロ波…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP