[スポンサーリンク]

ケムステニュース

赤キャベツから新しい青色天然着色料を発見 -青色1号に代わる美しく安定なアントシアニン色素-

[スポンサーリンク]

青の食品着色料として広く使われる化学合成の「青色1号」とほぼ同じ色で、長期保存時の安定性に優れた天然着色料が赤キャベツの色素「アントシアニン」から発見された。名古屋大や米大手食品企業マース、カリフォルニア大などの国際研究チームが8日、米科学誌サイエンス・アドバンシズに発表した。 (引用:名古屋大学プレスリリース4月8日)

赤キャベツの煮汁を使って水溶液のpHを調べる実験は、簡単でかつ分かりやすいため定番の演示実験となっていますが、今回はその赤キャベツに含まれる特定のアントシアニンが独特の青色を持つことを解明し、構造の推定と酵素による大量合成を成功させた研究結果について紹介します。

お菓子や飲料の彩りを向上させ、食欲を増進させるために使われている着色料ですが、青色のみ天然由来の構造で安定な発色できる化合物がなく、ブリリアントブルーFCF(通称:青色1号)やインジゴカルミン(通称:青色2号)と呼ばれる合成着色料が良く使われています。

青色1号の構造式

青色2号の構造式

これらは日本をはじめとする多くの国では、発がん性が十分に低いことが確認され食品に一定量添加することが認められていますが、使用が禁止されている国もあります。また、クチナシの実に含まれるゲニポシドを加水分解して得られるゲニピンとタンパク質を反応させると青色の高分子が得られます。藍藻類スピルリナから抽出されるスピルリナ青もあります。これらは日本で認可されている天然の青色色素ですが、青色1号とは色合いや性質が異なり、特に黄色と混ぜて緑色を発色させるときに濁った緑色になってしまいます。このように青色の天然色素は完全な代替品とはなっていない状態であり、天然由来の安全な着色料の開発が求められています。

ゲニピンの構造式

一方、赤キャベツから得られるアントシアニンは、赤から赤柴色を付ける食品着色料として有名で、またpHの変化によって色が変化することもよく知られています。しかし青色は不安定で加熱によっても分解するため着色料として使用することは困難でした。先行研究において赤キャベツに含まれるアントシアニン色素をHPLCで分析したところ、ピーク2(P2)がpH7で640 nmに吸収波長をもつことが分かり、本研究ではこの成分の構造解析と発色機構の解明を行いました。

A:各色素の吸収スペクトルと色調 B:赤キャベツに含まれるアントシアニンのHPLC結果と各ピークで検出される化合物の学構造(引用:原著論文)

まず、構造解析ですが、ESI-TOF-MS、1H と13C NMR、1D TOCSY、COSY、NOESY、HSQC、HMBCと二次元NMRを総動員して構造を推定を行い、構造は3-O-(2-O-(2-O-(E)-sinapoyl-β-D-glucopyranosyl)-β-D-glucopyranosyl)-5-O-β-D-glucopyranosylcyanidinであることが分かりました。次に中性での錯体形成による色の変化を確認するために、アルミニウムイオンを加えて吸収スペクトルを測定しました。するとP2にアルミニウムイオンを加えると40nm以上吸収極大がシフトし、青色1号よりも長波長に吸収極大を持つようになりました。また、溶液の吸収スペクトルを定期的に測定したところ、P2-Al錯体のみが8日以上安定して発色することが分かりました。

A:各色素にアルミニウムイオンを加えた時の色の変化 B:水溶液の吸収極大の強度の経時変化(引用:原著論文)

錯体の独特な発色と立体構造を明らかにするために、CDスペクトルを測定しました。するとP2にアルミニウムイオンを加えた場合に強いコットン効果が確認され、アルミニウムに3つのP2が配位した構造はキラリティがある立体構造を持つことが分かりました。NMRでの錯体の構造決定を試みましたがすべてのピークの同定は難しく、MDシミュレーションによって構造を下のように推定しました。

P2アルミニウム錯体の推定構造、Aの青色の分子構造のねじれ角によって示す吸収極大が変わることが計算によって示唆され、角度と吸収極大波長の関係が右下のグラフで示されている。(引用:原著論文)

他のアントシアニンとは異なるこのP2独特の構造が、青色となる吸収極大を持ち、アルミニウムに水が配位して配位構造が壊れず青色が長期間保てるようにしていると主張しています。

P2の天然青色着色料としての可能性が見出されましたが、赤キャベツからは、5%以下しかP2は含まれていません。そこで酵素を使って他のアントシアニンをP2に変換することを試行しました。加水分解酵素タンパク質のスクリーニング、アミノ酸の改変によりSinapoyl基を加水分解で除去し、P6-8をP2に、P3-5をP1に変換する酵素 1AUR M73Hを発見しました。これにより赤キャベツの色素をP1とP2が一対一混合物に変換することが可能になり、この混合物を分離することでグラムスケールでP2を生産できるとしています。

A:加水分解によるアントシアニンの変換 B:書く酵素を作用させたときのHPLCのピークの変化 C:試した酵素の系統樹 D:1AUR WTとM73Hの活性点とP6の位置関係(引用:原著論文)

最後に色の評価を行いました。溶液の吸収スペクトルを測定したところ55日後でも14%の退色に留まり、高い安定性が示されました。また、種々の色素を使って青色と緑色のお菓子を作り、色合いを比較しました。するとP2のアルミニウム錯体がブリリアントブルーFCFに最も近く、緑色についてもP2のアルミニウム錯体とベニバナの色素の混合物が合成の緑の色素に最も近いことが確認されました。

A:各水溶液の一定日経過後の吸収スペクトル B,C: 各色素を使ったお菓子の色合いと色度(引用:原著論文)

本研究は、名古屋大学、UC Davis, Ohio State大学、イタリアのScuola Internazionale Superiore di Studi Avanzati、フランスのAvignon大学、マースリグレー社による共同研究であり、10年と長い期間をかけて得られた研究成果のようです。マースリグレー社は、世界的なお菓子メーカーであり、日本では、M&M’Sやスニッカーズといったチョコレート菓子が有名です。

論文の感想ですが、まず天然由来の化合物で青色をうまく表現できていなかったということで、身近なところにも困難な課題があり、そして本研究によって身近に存在する赤キャベツのアントシアニン色素が有用であることが分かり、身近な課題が身近なもので解決されたということに対して大きな驚きを感じました。本文中では、結果が簡潔にまとめられていますが、10年と長い期間の共同研究の結果であることと、Supplementary Materialsが100ページ以上に渡って様々なデータが載せられていることから多くの困難や苦労があったと想像できます。青色1号は、多くの国で使用が許可されており通常の使用量では問題ないと言えますが、このP2アルミニウム錯体が商品化されれば、天然由来の青色色素配合として食品や飲料をアピールすることができるため、大きなマーケットニーズがあると思います。もちろん、天然由来の成分=安全で、人工=危険という認識は正しくないことがより周知されるべできです。論文中では、酵素の最適化によって大量生産の可能性も示されていますが、実際に製造する際にはコストの問題もあると思います。しかしながら企業によって製造・商品化まで達成されることを期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4807915053″ locale=”JP” title=”天然物の化学II(科学のとびら64): 自然からの贈り物”] [amazonjs asin=”4769916167″ locale=”JP” title=”水産・食品化学実験ノート”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. MI-6、データ解析とノウハウ蓄積のための実験計画プラットフォー…
  2. 武田薬品工業、米バイオベンチャー買収へ 280億円で
  3. 東レから発表された電池と抗ウイルスに関する研究成果
  4. 京都の高校生の学術論文が優秀賞に輝く
  5. 元素も分析する電子顕微鏡
  6. 藤沢の野鳥変死、胃から農薬成分検出
  7. 「花粉のつきにくいスーツ」登場
  8. 木材を簡便に透明化させる技術が開発される

注目情報

ピックアップ記事

  1. 米ブリストル、仏サノフィの買収提案に備え助言契約締結
  2. 2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル保護基 Troc Protecting Group
  3. 2016年ケムステ人気記事ランキング
  4. 炭素原子のまわりにベンゼン環をはためかせる
  5. Shvo触媒 : Shvo’s Catalyst
  6. 2009年人気記事ランキング
  7. 窒素 Nitrogen -アミノ酸、タンパク質、DNAの主要元素
  8. 第58回―「集積構造体を生み出すポリマー合成」Barney Grubbs教授
  9. 化学研究ライフハック: 研究現場のGTD式タスク管理
  10. Dihydropyridazinone環構造を有する初の天然物 Actinopyridazinoneを発見 ~微生物の持つヒドラジン生合成経路の多様性を解明~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年4月
月 火 水 木 金 土 日
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

2026年ノーベル化学賞ケムステ予想当選者発表!

2026年のノーベル化学賞は、「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発…

第64回ケムステVシンポ「データとともに進化する未来の化学」を開催します!

第64回ケムステVシンポの会告を致します。産業技術総合研究所主催の化学シンポジウムシリーズ(…

品質工学とマテリアルズ・インフォマティクス ― 両技術の概要と連携事例

開催概要材料開発やものづくりの現場では、探索すべき組成やプロセス条件が増えるほど組み合わせが爆発…

大学院留学してよかったこと, 悪かったこと【英語, 経済面, オーバードクターに関するお話】

海外の大学で、その大学に籍を置く大学 (院) 生として留学することは「学位留学」と呼ばれたりします。…

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP