[スポンサーリンク]

ケムステニュース

夏本番なのに「冷たい炭酸」危機?液炭・ドライアイスの需給不安膨らむ

[スポンサーリンク]

夏本番となり液化炭酸ガスやドライアイスの需要期を迎えた。液炭は石油精製やアンモニア製造工程の副生ガスとして発生する二酸化炭素(CO2)を原料とするが、近年、老朽化による設備トラブルや製油所の稼働率減少で需給逼迫(ひっぱく)が慢性化している。今年は特に西日本を中心に4月から顕著になっており、液炭を一番多く使用する溶接や飲料用の影響が懸念されている。コスト高などを嫌気する需要家からは、早期解消を望む声が多い。 (引用:日刊工業新聞8月17日)

6月にヘリウムが不足していることを報告しましたが、液化二酸化炭素(液炭)も不足しているようです。

液炭は2018年度に国内で77万トンの需要があり、全需要のうち約半分がアーク溶接で使われ、18%が飲料用、10%が冷却用に使われまています。アーク溶接では、溶接部に空気が存在すると酸化や窒化が促進されてしまうため、それを防ぐために二酸化炭素などを溶接部に吹き込むことが行われています。冷却用というのは、ドライアイスとしての冷却を指し、例えば低温の合成実験を行う際にはドライアイスに有機溶媒を加えたアイスバスで温度をコントロールします。

2018年度の割合(出典:日本産業・医療ガス協会

過去五年の液炭の出荷量(出典:日本産業・医療ガス協会

液炭の製造は、他の合成プロセスから副生成物として発生した二酸化炭素を活用して行われています。具体的には、二酸化炭素が発生する化学プラントよりガスラインで二酸化炭素の供給を受けた後、圧縮して液化させます。その後、吸着塔を通したり蒸留することで純度を高められた後、ガスボンベに充填されます。ドライアイスの場合にはこの液化ガスをさらにプレス機に加えて圧縮することで作られます。

ドライアイス簡易製造装置、1回で1Kgほどのドライアイスを製造できる

この液炭の不足は、供給を受ける化学プラントがトラブルなどで長期間停止し、二酸化炭素の生産を中止する事態になったことが原因です。化学プラントの老朽化や日本での化学品の需要の低下によるプラントの停止など、今後も安定的に生産できないリスクを抱えており、各社新しい液炭の生産拠点を新設やドライアイスの輸入を始めています。

液炭製造設備の新設状況

  • 日本液炭:2015年に三菱化学水島事業所で発生する二酸化炭素を活用した液炭設備を新設、2017年に稼働開始
  • 昭和電工:大分石油化学コンビナート内に液炭製造設備を新設、2019年4月に稼働開始
  • 大阪ガスリキッド:国際石油開発帝石が天然ガスを都市ガスへ精製する過程で取り除く二酸化炭素を利用する液炭設備を2021年4月に稼働予定
  • 岩谷産業:6月から韓国よりドライアイスを輸入、中国からの輸入も検討中

プラントから供給を受ける二酸化炭素は、純度が高いほうが好都合です。現在はアンモニアの製造プラントや石油精製プラントから二酸化炭素の供給を受けています。アンモニアは、ハーバー・ボッシュ法によって合成されるため水素が必要で、石油精製でも中間体に水素添加するプロセスがあります。これらの水素は炭化水素の水蒸気改質などによって合成されるため、二酸化炭素のみが副生します。そのため、二酸化炭素は水素を使うプロセスがあるプラントの隣で製造されています。もちろん、二酸化炭素は他のプラントや工場、火力発電所、ごみ処理場などでも大量に排出されていて貴重な材料ではありませんが、単純な燃焼によって発生したガスには二酸化炭素だけでなくほかの成分も含まれているため、必要な純度まで高める精製コストがかさみ販売価格に合わなくなります。そのため、液炭の製造に適する化学プラントは限られているのが現状です。

二酸化炭素の排出について厳しくなる一方、産業用の二酸化炭素は不足しているという矛盾しているような状況ですが、大気中の二酸化炭素をこれ以上増加させないために地中に埋蔵する計画があります。その際にも二酸化炭素のみを地中に送り込む必要があり、二酸化炭素の精製技術が研究されています。つまり埋蔵技術が進歩すれば、高純度の二酸化炭素を得られる機会が増え、液炭の不足に関する問題も解決するのではないでしょうか。

関連書籍

[amazonjs asin=”4907002548″ locale=”JP” title=”二酸化炭素を用いた化学品製造技術”] [amazonjs asin=”4022558954″ locale=”JP” title=”炭酸ガス―命を支える不思議な物質”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 北大触媒化研、水素製造コスト2―3割安く
  2. ケミカルメーカーのR&D戦略について調査結果を発表
  3. 硫黄化合物で新めっき 岩手大工学部
  4. コーラから発がん物質?
  5. 産総研、バイオから環境まで応用可能な新しい質量分析技術の開発に成…
  6. 2010年化学10大ニュース【Part2】
  7. 芝哲夫氏死去(大阪大名誉教授・有機化学)
  8. 化学産業のサプライチェーンをサポートする新しい動き

注目情報

ピックアップ記事

  1. 「化学の匠たち〜情熱と挑戦〜」(日本化学会春季年会市民公開講座)
  2. 第11回ケムステVシンポジウム「最先端精密高分子合成」を開催します!
  3. 知られざる法科学技術の世界
  4. 第47回―「ロタキサン・カテナン・クラウンエーテルの超分子化学」Harry Gibson教授
  5. 4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサホスホラン2-オキシド : 4,4,5,5-Tetramethyl-1,3,2-dioxaphospholane 2-Oxide
  6. 企業の研究を通して感じたこと
  7. 化学五輪で日本の高校生2人が金メダル
  8. 観客が分泌する化学物質を測定することで映画のレーティングが可能になるかもしれない
  9. 米のヒ素を除きつつ最大限に栄養を維持する炊き方が解明
  10. 第27回 「有機化学と光化学で人工光合成に挑戦」今堀 博 教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年8月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

第6回鈴木章賞授賞式&第10回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

計算科学、情報科学、実験科学の3分野融合による新たな化学反応開発に興味のある方はぜひご参加ください!…

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP