[スポンサーリンク]

ケムステニュース

新たな要求に応えるために発展するフッ素樹脂の接着・接合技術

[スポンサーリンク]

積水化学工業株式会社の高機能プラスチックスカンパニーは、バイオミメティクスを活用した独自の接着化合物の設計と合成に成功し、一般的に接着し難いといわれるフッ素樹脂に接着可能な粘着テープを開発しました。フッ素樹脂に限らず、オレフィンなどの難接着材料にも幅広く接着できるという特性を活かし、さまざまな用途展開を加速し社会に貢献します。 (引用:5月31日積水化学プレスリリース)

NEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」に取り組むヒロテックは、このたび大林道路、大蓉ホールディングス、海洋研究開発機構、大阪工業大学などと共同で、超潤滑・高強度でありながら難接着・難接合材料であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などフッ素樹脂とステンレス鋼板との直接接合についてレーザーを用いた新たな表面処理と接合技術の開発に成功しました。さらに、氷点下30℃~175℃と幅広い温度環境下での使用でも本技術による接合強度が維持されることを確認しました。(引用:5月31日ヒロテックプレスリリース)

接着と接合に関するプレスリリースが2件発表されましたので紹介いたします。

まず、積水化学のバイオミメティクスを活用した独自の接着化合物の設計と合成についてですが、開発の背景としてフッ素樹脂やフッ素変性ポリイミド樹脂が基板材料に使われる動きがあることが挙げられており、これらの材料は高周波帯域を利用した5Gや6Gでも低伝送損失であることが長所になっています。

一方、フッ素系材料は表面エネルギーが低く、水も油も弾くという性質から、他の材料との接合が難しいことが短所となっています。そこで積水化学では、フッ素樹脂やポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂に強く接着できるようムール貝の分泌物に着想を得て粘着テープの開発を進めてきました。

結果、ムール貝の分泌物であるポリフェノール骨格を組み込んだ分子がフッ素に粘着可能であることを見出しました。

この成分が含まれる粘着テープと一般的なアクリル系粘着テープと性能を比較したところ、特にフッ素樹脂に対しては一般のアクリル系粘着テープよりも約10倍の粘着力を発現し、接着性を大幅に改善することに成功しました。

従来は、接着性を上げるためにプライマーを使用するのが一般的でしたが、材料によっては逆に接着が不十分になることや作業工程負荷が大きいなどのデメリットがありました。そこでこのプライマーレスの粘着テープを使用することで安定した接着性だけでなく、製造プロセスの簡略化が期待されます。積水化学では、サンプルの提供を行い2023年度の製品上市に向けた市場開拓を進めていくそうです。

今年の4月には、ムール貝の接着メカニズムにヒントを得て超強力な水中接着剤を開発した論文をケムスケニュースにて紹介しましたが、今回の成果は別の角度からムール貝の接着を参考にしているようです。この件に近い内容の特許・文献は見つかりませんでしたので詳細は分かりませんが、プレスリリースの概要を見る限り、カテコール骨格はそのままで別の部位にPTFEと接着できるような工夫があるようです。

 

次にヒロテックフッ素樹脂とステンレス鋼板との直接接合の話題に移ります。本件の背景として建設・土木現場で使用されるダンプトラックの付着残土の問題があります。ダンプは荷台の土砂を下す際には、荷台を引き上げて自重落下によって下ろしますが、土砂が荷台に付着して残ってしまうそうです。その量は積載貨物の平均5%とされ、この運搬効率悪化により年間13.09万kLの車両用燃料が過剰に消費されています。作業員が手作業で清掃し付着残土を取り除くこともありますが、負担も多く転落事故のリスクもあります。

そのため、超潤滑・高強度であるPTFE樹脂などをダンプの荷台に張り付けることができれば、残土を減らすことができると考えられますが、1件目のニュースの通り、接着・接合は極めて困難でした。そこでヒロテックは、金属表面にナノレベルの酸化物粒子をクラスター状に構造配置することで、樹脂と化学的に結合させる技術の開発に成功しました。この接合技術を用いて独自の装置で接合することで非常に高い接合強度が達成されました。

このPTFEとステンレス鋼板の直接接合製品は大蓉ホールディングスのダンプトラックで使用され、関東圏の実際の運行環境下で荷台への付着残土ゼロと十分な耐久性が確認されました。また、大林道路にて実際のダンプトラックの運行環境を模擬した加速促進試験が実施され、接合耐久および潤滑性能が5年以上保たれることが確認されました。

ヒロテックでは製品の量産を始めており大蓉ホールディングスが販売窓口として本製品の販売と取付を行っているそうです。そして3社は豪雪地帯での堆雪運搬をはじめとして同技術の適用範囲の拡大に向けた検討を行っていくそうです。

ヒロテックより特許が公開されており、それによるとステンレス鋼材にパルスレーザーを当ててと鉄やクロムのナノ酸化物を形成されます。そしてこのナノ酸化物が形成された所に樹脂を密着させてレーザーによって加熱すると、樹脂のC-F結合などが解離し金属材と樹脂が強固に結合するとしています。

2件のプレスリリースに関して背景の用途は異なるものの、お互いの新技術が活用できるのではないかと思いました。具体的には、フッ素樹脂基板を金属筐体に取り付ける際にはレーザー処理での接着が適しているかもしれず、車両にフッ素樹脂を取り付ける際にも凹凸があるようなところには粘着テープが使えるかもしれません。たまたま同日のプレスリリースとなっており、何かしらのコラボレーションになることを期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4781313965″ locale=”JP” title=”フッ素樹脂の最新動向《普及版》 (新材料・新素材シリーズ)”] [amazonjs asin=”4866853328″ locale=”JP” title=”特許情報分析(パテントマップ)から見た「フッ素樹脂〔2020年版〕」 技術開発実態分析調査報告書”]

接着・接合に関するケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. <アスクル>無許可で危険物保管 消防法で義務づけ
  2. 分子素子の働き せっけんで確認
  3. 大麻から作られる医薬品がアメリカでオーファンドラッグとして認証へ…
  4. 医療用酸素と工業用酸素の違い
  5. 『夏休み子ども化学実験ショー2019』8月3日(土)~4日(日)…
  6. 東亜合成と三井化学、高分子凝集剤の事業統合へ
  7. がん細胞を狙い撃ち 田澤富山医薬大教授ら温熱治療新装置 体内に「…
  8. リン酸アルミニウムを飲んだら爆発?

注目情報

ピックアップ記事

  1. 励起状態複合体でキラルシクロプロパンを合成する
  2. 情報の最小単位がついに原子?超次世代型メモリー誕生!
  3. d8 Cu(III) の謎 –配位子場逆転–
  4. 2017年(第33回)日本国際賞受賞者 講演会
  5. 特許の基礎知識(2)「発明」って何?
  6. 岡本佳男 Yoshio Okamoto
  7. 既存の農薬で乾燥耐性のある植物を育てる
  8. ~祭りの後に~ アゴラ企画:有機合成化学カードゲーム【遊機王】
  9. 仕事の進め方を見直してみませんか?-SEの実例から
  10. 静電相互作用を駆動力とする典型元素触媒

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP