[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第五回 超分子デバイスの開発 – J. Fraser Stoddart教授

[スポンサーリンク]

第5回はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(※インタビュー当時)のJ. Fraser Stoddart教授です。
Stoddart教授は分子認識および自己集合過程を用いた鋳型合成法により、2つの状態を有するMechanically Interlocked Compound(バイステイブルカテナンとロタキサン)を合成しました。そしてそれを分子エレクトロニクスデバイス(MEDs)―スイッチとして、またナノエレクトロメカニカルシステム(NEMS)―人工モーター分子として応用することに成功しています。

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

最も小さくチャレンジングな物質レベルの一つ、すなわち分子レベルでの創造的なデザイナーおよび形状・機能のエンジニアとなれるからだ。価数、結合、それに類するものを含む、全ての見事な制御がその起点だ。かなり初期の段階から、私の想像は分子よりも彼方、つまり弱い非共有結合性相互作用を支配する精密な法則に隠れている、現代化学の根源的挑戦へと暴走していった。私は最初、複雑性や創発的現象などという、化学の皮をかぶったものを追い求めようとは、一度たりとも夢想しなかった。だが、今ではそうなってしまった。私の経験はとても進化的で、漸増的なものであった。勘と希望を頼りに取り組み始めた。化学が私を導くのは、地図にないところ・予測もしないところ―それ以外は考えられなかった。自分の嗅覚を頼りに進んでいった。しかし、私を化学にのめりこませたのは匂いなどというものではなく、いうならば爆発的衝撃だった。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

売れっ子のライターや小説家に是非なりたいと思う。私は常々、英語という言語を構成するフレーズに魅力を感じていた。実に過去40年にわたって、あまりに多くの科学論文を書いたので、自分の文章スキルを磨く機会には恵まれていた。とはいえ20代のころの私は、恐ろしく文章が下手だったよ。もし時間が十分にあるなら、「完全に、心底、化学に没頭している科学者になりたい!」との興奮をもたらすような―そんな文章を是非とも書いてみたい。地球上のさまざまな場所に住んでいる、広く一般の人たちに向けてね。誰だって少しぐらい、夢を見てもいいだろう!

writing-2

 

Q.概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

地球にとって不可欠な一部となることによってだ。物質的な意味あいとしては勿論、我々が暮らすこの星のため深く心を砕く住民としてもだ。そのために準備し、意思をもって、未来に向かう道とともにあろうとすべき。その道は人類を含めた地球上すべての生き物が有する高潔さを、価値とし誉れとする。 我々の世界の大部分は、おそらくどの他の創造的媒体よりも、化学を主体にすえている。 19世紀、化学者は染料(dye)を世界にもたらし、皆の生活をより彩り鮮やかなものとした。 20世紀、化学者は医薬(drug)を世界にもたらし、皆に長い人生を、より辛抱できる人生を与えた。 そして21世紀、、化学者はデバイス(device)を世界にもたらし、皆の人生をはるかに充実したもの、とても楽しいものにするだろう。 これら”3つのd”は、化学によって実現される。すなわち、”3つのM”―作成(Making)・測定(Measuring)・模造(Modeling)、そしてさらにはそれ以上。 化学の力によって、世界は我々にとってより過ごしやすい場所となるのだ。

 

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

ウィリアム・シェイクスピアだ。彼はエリザベス時代の発展期―そのような歴史的に短く不安定な期間にあって、非常に才気に溢れ、独創的な手法によってとても多作な作家だった。 次々訪れる締切りに間に合わせるべく、どのように時間をマネジメントしていたか、それを彼から学びとりたい。 彼が英語という言語に持ち込んだあらゆる豊かなフレーズ、それを発明しうる桁外れに生き生きとした想像力―彼はそういうものを持っていたに違いない。 「すべてを自分自身の力で成し遂げた」―彼には私にそう言って欲しい(本当かどうか私は疑問なので)。 そうすれば私がこれまで出会った全ての若者たち―彼らには今の200倍以上努力しろ、と言いたくて仕方ないが―の手本として、彼を掲げられるだろう。 また人間の振る舞いを観察・分析することから、無限の魅力を得ている人物でもある。 この主題において空前の専門家のひとりであった人物の話を聴けるのは、なんとも特権的なことだ。 おそらくBardとともにする夕食のあと、私は、自らをずっと良く知ることができるかもしれない。

William Shakespeare

William Shakespeare

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

29年前の1978年の夏にシェフィールド大学を後にして、3年間、RuncornのICI Corporate Laboratoryへと一時的な異動をした時だった。 70年代の間、私のグループは中程度の大きさだったが、NMR測定は全て私が行っていた。 というのも、シェフィールド大学の化学科では、博士研究員と(卒業後の)大学院生はNMR分光計を使えなかったのだ。 全く混まずにアクセスができるのが朝の5時。そんな常識外れの時間帯に、私はNMR室へと出かけていた。 そんなとき、私の二人の幼な娘たちは、きまって文句を言っていたね。 1982年にシェフィールドに一家そろって戻ることになるまでに、娘たちは二つ学習していた。 何がなんでも眠り続ける術と、NMR分光計が洗錬という言葉からはあまりにかけ離れたものだったこと―つまり私のように愚鈍な人物が扱える代物ではなかったということを。

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

イラスト付き(カラー刷り!)でユーザーフレンドリーな、英語の辞書を持って行く。それを使って、とても限られた私の語彙を増やしたい。 唯一無二のCDで、ビートルズ(特にポール・マッカートニーが歌う”When I’m Sixty Four”、私もそんな年齢だ)を聞きながら。 伝統的ロングランたるBBCラジオ4の番組と、砂漠の音楽を聴いた後には、シェイクスピアの全集かな・・・その島にはおそらくもうあるだろうけど。 もし贅沢品を一つ選んでよいなら、Liquiorice Allsortのエンドレス放送が良い。 私が生まれた年に、偶然にも最初の放送があったのだけど、それは番組の精神とも呼べるものだ。 もし人生で3つだけ好きなことができる、と私が言おうものなら、君はどんなものだと思うね? そう!砂漠の音楽のため、ゲストとして招待されることだよ。

[amazonjs asin=”B0002N89JE” locale=”JP” title=”When I’m Sixty Four”]

 
原文:Reactions-Fraser Stoddart

※このインタビューは2007年5月23日に公開されたものです。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第151回―「生体における金属の新たな活用法を模索する」Matt…
  2. 第三回 北原武教授ー化学と生物の融合、ものつくり
  3. 第30回「化学研究の成果とワクワク感を子供たちにも伝えたい」 玉…
  4. 第116回―「新たな分子磁性材料の研究」Eugenio Coro…
  5. 第11回 触媒から生命へー金井求教授
  6. 第二回 水中で超分子化学を探る-Bruce Gibb教授-
  7. 第170回―「化学のジョブマーケットをブログで綴る」Chemjo…
  8. 第74回―「生体模倣型化学の追究」Ronald Breslow教…

注目情報

ピックアップ記事

  1. メルク、主力薬販売停止で15%減益
  2. 味の素と元社員が和解 人工甘味料の特許訴訟
  3. なぜあなたの研究は進まないのか?
  4. バートン脱アミノ化 Barton Deamination
  5. アジサイから薬ができる
  6. 研究費総額100万円!2050年のミライをつくる若手研究者を募集します【academist】
  7. 実験の再現性でお困りではありませんか?
  8. シャレット不斉シクロプロパン化 Charette Asymmetric Cyclopropanation
  9. 原子一個の電気陰性度を測った! ―化学結合の本質に迫る―
  10. 不活性アルケンの分子間[2+2]環化付加反応

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年10月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP