[スポンサーリンク]

医薬品

シクロクラビン cycloclavine

[スポンサーリンク]

シクロクラビン(cycloclavine)は、糸状菌Aspergillus japonicus.が生産する麦角アルカロイドである。シクロプロパン環を有するユニークな構造をしている。

麦角アルカロイドは、二つの目の菌類、三つの科の植物により生産される。麦角アルカロイドは、医薬品としても農薬としても非常に重要である。子宮収縮活性、血圧の調節、下垂体ホルモン分泌の制御、偏頭痛の予防など広範囲の薬理活性を示す。

 

シクロクラビンの生合成研究

全ての麦角アルカロイドは、共通の中間体であるchanoclavine-Iを経て生合成される。しかし、その下流の経路はまだ明らかになっていない点が多い。

2015年、Sarah O’connorらのグループによりシクロクラビンの生合成が明らかにされた。

O’connorらは、A. japonicus.のゲノム上に16.8 kbpの遺伝子クラスターを見つけた。このクラスターは8個の遺伝子から構成されているのだが、非常に興味深いことに、そのうちの7つの遺伝子はシクロクラビン類縁体のfestuclavine、argoclavin の遺伝子クラスターと予想されている配列と高い相同性を示した。(festuclavine、argoclavineともに推定の段階であり、生合成は明らかになっていない。)

O’connorらは、chanoclavine-Iを生産すると報告されているS. cerevisiaeA. japonicus. から取得した4つの遺伝子(EasA, EasD, EasG, EasH)を加え、cycloclavineが生産されることを確認した。

その後実験を重ね、以下に示す生合成経路が明らかとなった。

cycloclavine_scheme

 

異種発現・大量生産へ

O’connorらは、シクロクラビンの生合成遺伝子を酵母へと組み込んだ。この酵母発現系を用いることによって、培養液1L当たり529mg!ものシクロカルビンを得ることに成功した。一回の培養にかかる時間はわずか1週間である!!このような複雑な化合物を化学合成するには、より大量の試薬、有機溶媒、エネルギー、長い時間が必要であるため、複雑な天然物を簡単に合成することが出来るこのような異種発現系の確立は、極めて価値があると言える。

 

参考文献

  1. “Discovery and Reconstitution of the Cycloclavine BiosyntheticPathway—Enzymatic Formation of a Cyclopropyl Group”  Dorota Jakubczyk, Lorenzo Caputi, Anaelle Hatsch, Curt A. F. Nielsen, Melanie Diefenbacher, Jens Klein, Andrea Molt, Hartwig Schrçder, Johnathan Z. Cheng, Michael Naesby, and
Sarah E. O’Connor,  Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 5117-5121. DOI : anie.201410002

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. レスベラトロール /resveratrol
  2. アスパラプチン Asparaptine
  3. 亜鉛クロロフィル zinc chlorophyll
  4. ジブロモインジゴ dibromoindigo
  5. ピラーアレーン
  6. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解貴金属めっきの各論編~…
  7. ITO 酸化インジウム・スズ
  8. シラフルオフェン (silafluofen)

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ヒドリド転位型C(sp3)-H結合官能基化を駆使する炭素中員環合成
  2. 根岸クロスカップリング Negishi Cross Coupling
  3. ヘテロ原子を組み込んだ歪シクロアルキン簡便合成法の開発
  4. その構造、使って大丈夫ですか? 〜創薬におけるアブナいヤツら〜
  5. 安全性・耐久性・高活性を兼ね備えた次世代型スマート触媒の開発
  6. MALDI-ToF MSを使用してCOVID-19ウイルスの鼻咽頭拭い液からの検出に成功
  7. ハロゲン原子の受け渡しを加速!!新規ホウ素触媒による触媒的ハロゲンダンス
  8. 3.11 14:46 ③ 復興へ、震災を教訓として
  9. 現代の錬金術?―ウンコからグラフェンをつくった話―
  10. 第112回―「生体分子センサー・ドラッグデリバリーシステムの開発」Shana Kelley教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

プロトン共役電子移動を用いた半導体キャリア密度の精密制御

第582回のスポットライトリサーチは、物質・材料研究機構(NIMS) ナノアーキテクトニクス材料研究…

有機合成化学協会誌2023年11月号:英文特別号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年11月号がオンライン公開されています。…

高懸濁試料のろ過に最適なGFXシリンジフィルターを試してみた

久々の、試してみたシリーズ。今回試したのはアドビオン・インターチム・サイエンティフィ…

細胞内で酵素のようにヒストンを修飾する化学触媒の開発

第581回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 薬学系研究科 有機合成化学教室(金井研究室)の…

カルロス・シャーガスのはなし ーシャーガス病の発見者ー

Tshozoです。今回の記事は8年前に書こうと思って知識も資料も足りずほったらかしておいたのです…

巨大な垂直磁気異方性を示すペロブスカイト酸水素化物の発見 ―水素層と酸素層の協奏効果―

第580回のスポットライトリサーチは京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻 陰山研究室の難波…

2023年度第1回日本化学連合シンポジウム「ヒューメインな化学 ~感覚の世界に化学はどう挑むか~」

人間の幸福感は、五感に依るところが大きい。化学は文明的で健康的な社会を支える物質を継続的に産み出して…

超難溶性ポリマーを水溶化するナノカプセル

第579回のスポットライトリサーチは東京工業大学 化学生命科学研究所 吉沢・澤田研究室の青山 慎治(…

目指せ抗がん剤!光と転位でインドールの(逆)プレニル化

可視光レドックス触媒を用いた、インドール誘導体のジアステレオ選択的な脱芳香族的C3位プレニル化および…

マテリアルズ・インフォマティクスに欠かせないデータ整理の進め方とは?

開催日:2023/11/29 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP