[スポンサーリンク]

I

【クリックは完了. よし壊せ!】イミノカルベノイドによる渡環および 1,3-挿入 Iminocarbenoids Derived from Triazoles for Transannulations/1,3-Insertions

[スポンサーリンク]

N-スルホニル-1,2,3-トリアゾールは Rh 触媒の作用を受け、求核的なイミノ基を有するカルベノイドを与える。このイミノカルベノイドは反応系中の基質に渡環や 1,3-挿入しうる。

基本文献

Review

背景: トリアゾールがカルベノイド前駆体になりうる

1,2,3-トリアゾールは、アジドとアルキンから合成できる芳香族化合物である[3]。この合成は、簡便に強固な結合をつくるクリックケミストリーの代名詞として知られている。

芳香族化合物は本来安定だが、N-原子上に電子求引基を有するトリアゾールは、開環-閉環の平衡反応により開環体であるジアゾイミンをごくわずかに与える[4]。そのごくわずかに生じたジアゾイミンは、一般的なジアゾ化合物と同様に、金属触媒の作用を受けてカルベノイドを与える。すなわち、炭素原子がその孤立電子対を金属に σ 供与し、続いて金属からの π 逆供与を受けて窒素を脱離させることで錯形成する[5]。こうしてトリアゾールから発生したカルベノイドは、イミノ基を持つためイミノカルベノイドと呼ばれる。

反応機構: カルベノイドが捕まえて, イミノ窒素が突き刺す

イミノカルベノイドは、強力な求電子剤として作用するカルベン部位に加えて、求核的な窒素原子も有する。その窒素原子が反応に関与することで反応系中の化合物に渡環[6]や 1,3-挿入しうる。すなわち、まずカルベノイド部位が電子豊富部位を捕捉する。つづいて C—M σ 結合電子の押し出しを受けて、窒素原子が捕捉した基質の求電子部位を攻撃する。この一連の反応機構は「捕まえて、突き刺す」と詠める。

基質の X—Y 間が多重結合であれば渡環により含窒素ヘテロ環化合物が得られ、X—Y 間が単結合であれば 1,3-挿入により鎖状アミンが得られる。

反応例

渡環反応

含窒素ヘテロ環化合物の合成に関する数多くの報告がある[2]。具体的には末端アルキン[7]、電子豊富オレフィン[8, 9]、アルデヒド[10]、ニトリル[11]からピロール、ジヒドロピロール、オキサゾリン、イミダゾールをそれぞれ得られる。

1,3-挿入反応

単純な例としては、アルコール、カルボン酸、第 1 級アミドの X—H 結合への挿入[12]やアリルまたはベンジル化合物の C—H 挿入[13]がある。ただし、1,3-挿入生成物が続いて互変異性化や転位反応を起こす例が多い。例えば水との反応では 1,3-挿入により生じたエナミンの互変異性によりアミノケトンを与える (スキーム左端, R3=H)[14]。また、カルボン酸との反応において R3 が立体的に小さい場合には分子内付加脱離反応によりアシル基が N 上に転位する (スキーム左から二列目, 反応機構は下を参照)[12]

変法: アジドとアルキンからのワンポット反応

アジドとアルキンの合成に続いて触媒と別の反応基質を加えることで、トリアゾールを単離することなくイミノカルベノイドを利用する変法もある。例えばこの手法により、アミノケトンをワンポットで合成できる[14]

クリックは完了. よし壊せ!

利用可能な原料

アジドにはトシルアジドやメシルアジドなどが用いられる。そのようなスルホニルアジドが用いられる理由は、カルベノイド前駆体であるジアゾイミンがトリアゾールが発生するには、N 原子上に強い電子求引基を持つ必要があるためである。

アルキンには、モノビニルアセチレンまたはモノアリールアセチレンが用いられる。ビニル基やアリール基が用いられる理由は、それらの π 電子系がカルベノイド中心を共役安定化するためである。

触媒

触媒には正方柱型構造の Rh 二核錯体が用いられる。なかでも嵩高い配位子を持つ触媒の方が活性が高いことが知られている[15]。そのため、金属カルベノイドを発生させる際に最も一般的に用いられる Rh2(OAc)4 よりも嵩高い配位子をもつ Rh2(oct)4 や Rh2(piv)4 がよく利用される。さらに嵩高い配位子として、Rh2(S-DOSP)4 や Rh2(S-NTTL)4 も使われる。それらの配位子はキラルであるため、その不斉な環境をカルベノイド中心に転写し、反応の立体選択性を制御しうる[8, 13]

実験のコツ·テクニック

トリアゾールの原料であるアジドは爆発性を持つため、扱いに注意する必要がある。

トリアゾールは結晶性が高いため冷暗所で安定に保存できるが、空気中でごくわずかに加水分解しうる。そのためグローブボックスで扱うのが望ましい。またトリアゾールを合成してから時間が経つと、その加水分解物がイミノカルベノイドの発生反応を阻害すると考えられている。使用する前に再結晶すると良い。

関連記事

参考文献·脚注

  1. イミノカルベノイドに関する包括的なレビュー: Davies, H. M. L.; Alford, J. S. Chem. Soc. Rev. 2014, 43, 5151. DOI:10.1039/C4CS00072B
  2. ヘテロ環合成に焦点を置いたレビュー: Chattopadhyay, B.; Gevorgyan, V. Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 862. DOI:10.1002/anie.201104807
  3. N-スルホニル-1,2,3-トリアゾールの合成: Raushel, J.; Fokin, V. V. Org. Lett. 2010, 12, 4952. DOI: 10.1021/ol102087r
  4. トリアゾールの開環-閉環の平衡について: [a] Harmon, R. E.; Stanley, F. Jr.; Gupta, S. K.; Johnson, J. J. Org. Chem. 197035, 3444. DOI: 10.1021/jo00835a057 [b] L’abbé, G. Bull. Soc. Chim. Belg. 199099, 281–290. DOI: 10.1002/bscb.19900990410
  5. ジアゾ化合物からカルベノイドが発生する機構と Rh 二核錯体の役割についての計算化学からの調査 (論文そのものは C—H 挿入に焦点が置かれている).: Nakamura, E.; Yoshikai, N.; Yamanaka, M. J. Am. Chem. Soc. 2002124, 7181.DOI: 10.1021/ja017823o
  6. 渡環は Transannulation の訳である. イミノカルベノイドによる渡環反応を付加環化 (Cyclocaddition) と表現する文献も存在する. しかし付加環化という用語は, 1,3-双極子付加環化や Diels-Alder 反応のようなペリ環状反応を指すことが多いだろう. ペリ環状反応は協奏的に環を形成するのに対して, イミノカルベノイドによるヘテロ環合成の機構はイオン的であると考えられている. そこで, それらの反応を区別するため, 本記事ではイミノカルベノイドによる環形成を, あえて「渡環反応」という用語で表現した.
  7. 末端アルキンとトリアゾールを用いたピロール形成: Chattopadhyay, B.; Gevorgyan, V. Org. Lett. 2011,13, 3746. DOI: 10.1021/ol2014347
  8. オレフィンとトリアゾールにを用いた光学選択的ジヒドロピロール合成: Kwok, S. W.; Zhang, L.; Grimster, N. P.; Fokin, V. V. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 3452. DOI: 10.1002/anie.201306706
  9. オレフィンからジヒドロピロールを与える反応は、記事中の反応機構と類似しているが異なる機構で進行することが報告されている. 具体的には, はじめに一度シクロプロパンを経由し, その開環後にイミノ窒素による分子内環化が進行する. 詳細は[8] の文献を参照.
  10. アルデヒドとトリアゾールを用いたオキサゾリン合成: Zibinsky, M.; Fokin, V. V. Angew. Chem., Int. Ed. 2013, 52, 1507. DOI: 10.1002/anie.201206388
  11. ニトリルとトリアゾールを用いたイミダゾール合成: Horneff, T.; Chuprakov, S.; Chernyak, N.; Gevorgyan, V.; Fokin, V. V. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 14972. DOI; 10.1021/ja805079v
  12. 種々の極性 X—H 結合への 1,3-挿入: Chuprakov, S.; Worrell, B. T.; Selander, N.; Sit, R. K.; Fokin, V. V. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 195. DOI: 10.1021/ja408185c
  13. アリル位およびベンジル位への光学選択的 C—H 挿入: Kubiak, R. W. II; Mighion, J. D.; Wilkerson-Hill, S. M.; Alford, J. S.; Yoshidomi, T.; Davies, H. M. L. Org. Lett. 2016, 18, 3118. DOI: 10.1021/acs.orglett.6b01298
  14. 水とトリアゾールによるアミノケトン形成: Miura, T.; Biyajima, T.; Fujii, T.; Murakami, M. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 194. DOI: 10.1021/ja308285r
  15. 嵩高い配位子を持つ触媒は, 一般的にカルベノイドを安定化させることが知られている. その理由は, 嵩高い配位子は高い分極能を持つため, カルベン炭素の σ 供与により生じた金属上の部分的な負電荷を分散して安定化すると考えられている. Rh 触媒上の配位子の種々の置換基定数によりカルベノイドの性質が変わる例については次の文献を見よ: Pirrung, M. C.; Morehead, A. T. Jr. J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 8991. DOI: 10.1021/ja00099a017
[amazonjs asin=”3527339167″ locale=”JP” title=”Click Reactions in Organic Synthesis”] [amazonjs asin=”4815806063″ locale=”JP” title=”最新のカルベン化学”]
Avatar photo

やぶ

投稿者の記事一覧

PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

関連記事

  1. アニオン重合 Anionic Polymerization
  2. ショッテン・バウマン反応 Schotten-Baumann Re…
  3. 縮合剤 Condensation Reagent
  4. ガッターマン アルデヒド合成 Gattermann Aldehy…
  5. 福山インドール合成 Fukuyama Indole Synthe…
  6. アルコールのアルカンへの還元 Reduction from Al…
  7. 有機テルル媒介リビングラジカル重合 Organotelluriu…
  8. フォン・リヒター反応 von Richter Reaction

注目情報

ピックアップ記事

  1. 不均一系触媒を電極として用いる電解フロー反応を実現
  2. 二量化の壁を超えろ!β-アミノアルコール合成
  3. 創薬懇話会2025 in 大津
  4. コーリー・バクシ・柴田還元 Corey-Bakshi-Shibata (CBS) Reduction
  5. カプサイシンβ-D-グルコピラノシド : Capsaicin beta-D-Glucopyranoside
  6. Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis 5th Edition
  7. 長井長義 Nagayoshi Nagai
  8. ピクテ・ガムス イソキノリン合成 Pictet-Gams Isoquinoline Synthesis
  9. 有機化合物のスペクトルによる同定法―MS,IR,NMRの併用 (第7版)
  10. コランニュレンの安定結合を切る

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年9月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

光でゆがむ分子 ― アルミニウム錯体の対称性の破れをコヒーレント振動分光で観測

第711回のスポットライトリサーチは、九州大学大学院理学研究院 化学部門(分光分析化学研究室)・江原…

有機合成のカラム精製に革新を 〜モノリスカラムで変わる「研究のスピード」〜

筆者の研究室では有機合成を行っています。合成も大変ですが、何より大変なのが精製操作。最近、とある…

酸素は系内に入り込み続ける【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

アンモニウム構造によりラジカル種の発生位置を完全に制御!

第710回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の榊原 陽太(さかきばら …

化学つれづれ草【ある研究者の回想】

概要物理化学者で量子機能材料を専門とする著者によるエッセイ集.化学者としての研究,教育,人生…

第60回有機反応若手の会

開催概要有機反応若手の会は、有機化学分野で研究を行う全国の大学院生を中心とした若手研究者が集い、…

ノーベル賞受賞者と語り合う5日間!「第18回HOPEミーティング」参加者募集!

申し込みはこちら概要主催:独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)開催地:神奈川…

光触媒による高効率なCO2還元の実現―まさかの光を弱く当てることが重要だった―

第709回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 理学院(前田研究室)博士後期課程2年の仲田竜一 …

「π-πスタッキング」という言葉が生む誤解【芳香環の相互作用を見直す: 前編】

芳香環が平行に並んで近接しているとき、その構造を「π–π スタッキング」と表されることがよくあります…

一重項酸素によるC(sp2)−P結合切断を用いた長波長光によるリン化合物のアンケージング

第 708 回のスポットライトリサーチは、同志社女子大学 薬学部 医療薬学科 5…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP