[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

飽和C–H結合を直接脱離基に変える方法

[スポンサーリンク]

 

炭素—水素(C–H)結合直接変換反応は、分子内に存在するC–H結合を事前の官能基化を必要とせずに変換する反応です。特に遷移金属触媒による触媒的なC-H結合変換反応は現在の有機合成化学の一大潮流となっており、この化学者のつぶやきでも多くのC–H結合直接変換反応を紹介してきました。最近の関連する記事は以下の通り(遷移金属なしも含む)。

さて、研究者の努力によりsp2 C–H結合を変換することは比較的自在にできるようになりましたが、sp2 C–H結合に比べて不活性なsp3 C–H結合の変換は難しく、導入可能な位置や官能基に制限が多いのが現状。望みの位置のsp3C–H結合を変換するためには「配向基」(DG: directing group)と呼ばれる、遷移金属触媒を呼び寄せる “タグ”が必要となります。sp2C–H結合の変換も含めてこれまでに多くの”タグ”が見出されてきました。

最近、テキサス大オースティン校のDongらは、自身で開発した”タグ”を活用することで、アルコールβ位のsp3 C–H結合を様々な求核剤と反応しうる官能基、スルホニルオキシ基に変換する反応を見出しました。今回はこの論文を紹介したいと思います。

2015-10-13_09-18-16

Y. Xu.;  Guobing, Y.; Zhi, R.; Dong, G. “Diverse sp3 C−H Functionalization Through Alcohol β-Sulfonyloxylation”. Nature Chem. 20157, 829-834. DOI: 10.1038/nchem.2326

 

直接sp3C-H結合を使える官能基に変換する(図1)

様々な求核剤と反応しうる官能基といえば、代表的なものはハロゲン原子。例えば、ハロゲン化アルキルの求核置換反応は、分子の誘導化ならびに官能基化におけるもっとも汎用的な手法です。従来のsp3C-H結合を直接ハロゲンに変換する反応は、教科書で習う通り、ラジカル的なハロゲン化反応が主流です。しかしながら、副反応が起きやすく、反応位置の制御が困難であり、一般的に反応は基質特異的に進行します。

一方、近年では、遷移金属触媒を用いた手法が開発されており、パラジウム触媒をもちいた位置選択的なsp3C–Hハロゲン化[1]が報告されてます。同反応は配向基の効果によりカルボニルのβ位にハロゲンが導入されるため、下手をすると酸性度の高いカルボニルα位のプロトンを引き抜き、脱離反応(遷移金属が絡んでいればβ水素脱離)が進行します。つまり、オレフィンとなってしまい、せっかく入れた官能基をうまくつかえません。そのため、基質は脱離反応が起こらないネオペンチル構造に大きく制限されています。

2015-10-13_09-19-08

図1 C–H結合ハロゲン化反応の現状

 

そこで、Dongらは、カルボニル化合物を使わないsp3C–H官能基化反応の開発を目指しました。具体的にはアルコールのβ位に官能基を直接導入する反応です。官能基にはハロゲン等価体である「スルホニルオキシ基(特にトシルオキシ基)」に着目しました。

 

アルコールβ位直接スルホニルオキシ化反応への展開

ヒントとなったのは、著者らは2012年にアルコールを基質として用いた、触媒的sp3 C–H結合酸化反応[2]。配向基としてオキシム構造をもったアルコール誘導体に対して、酢酸パラジウム存在下、酸化剤にジアセトキシヨードベンゼン(PhI(OAc)2)を用い、酢酸/無水酢酸混合溶媒中で反応させる[3]ことにより、β位のC–H結合を選択的にアセトキシ化しました。N–O結合とアセチル基を除去すれば、1,2-ジオールも合成できます。

 

2015-10-13_09-20-36

図2 アルコールβ位の触媒的sp3 C–H結合酸化反応

 

彼らは配向基と反応条件を工夫し、アセトキシ基のかわりにスルホニルオキシ基を導入する反応を開発しました。配向基としては特に、DG1をアルコールに導入することで最も効率よくβ-トシルオキシ化体が得られます。ここで、スルホニルオキシ基は脱離基ですが、カルボニル化合物のように隣に酸性度の高いプロトンがないため、脱離せずそのまま残ります。最終的に酢酸パラジウム触媒存在下、酸化剤にN-フルオロベンゼンスルホンイミド(NFSI)を用い、90 ℃でトシル酸を作用させることにより、対応するトシルオキシ体を収率68%で得ています(図3)。本反応は水及び空気存在下でも進行するとのことです。

 

2015-10-13_09-21-17

図3. アルコールβ位のsp3 C–Hスルホニルオキシ化反応

 

本反応の応用

最適化した反応条件のもと、著者らは基質適用範囲を調査しました。本反応の特長は、より置換基の少ないsp3 C–H結合を選択的にトシルオキシ化する点と、アミノ基やアルケンなど様々な官能基を有するアルコールにも適用できる点が挙げられます。

 

2015-10-13_09-23-00

図3 基質適用範囲の調査

さらに本反応を、ステロイド骨格を持つアルコールに対して応用しました(図4)。その結果、計2段階、総収率42%でスルホニルオキシ化したステロイドを合成することに成功しました。スルホニルオキシ基は御存知の通り様々な求核剤と反応します。実際に求核剤との反応により、9種類のステロイド誘導体を迅速に合成しています。また配向基は、水素添加条件で、高収率でアルコールに戻すことができます。

2015-10-13_09-23-31

図4 ステロイド化合物の誘導化

 

まとめ

本反応は、本来脱離基であるスルホニルオキシ基を、求核的に導入できる点が面白いと思います。さらに、彼らが開発した配向基は、様々な置換基に変換できるスルホニルオキシ基を導入できるだけでなく、アルコールの保護(エポキシ化の抑制)としての役割も担っているところもキーポイントです。独自の”タグ”を用いるsp3C–H官能基化反応の登場でC–H結合官能基化反応に新たなレパートリーが加わりました。

 

関連文献

  1. (a) Giri, R.; Chen, X.; Yu, J.-Q. Angew, Chem., Int. Ed. 2005, 44, 2112. DOI: 10.1002/anie.200462884 (b) Rit. R. K.; Yadav. M. R.; Ghosh, K.; Shankar, M.; Sahoo, A. K. Org Lett. 2014, 16, 5258. DOI: 10.1021/ol502337b
  2. Ren, Z.; Mo, F.; Dong, G. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 16991. DOI:10.1021/ja3082186
  3. Desai, L. V.; Hull, K. L.; Sanford, M. S. Am. Chem. Soc. 2004, 126. 9542.DOI: 10.1021/ja046831c

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759813659″ locale=”JP” title=”不活性結合・不活性分子の活性化: 革新的な分子変換反応の開拓 (CSJカレントレビュー)”]

 

外部リンク

Avatar photo

bona

投稿者の記事一覧

愛知で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. イミンを求核剤として反応させる触媒反応
  2. スルホンアミドからスルホンアミドを合成する
  3. 逆電子要請型DAでレポーター分子を導入する
  4. 【書籍】「メタノールエコノミー」~CO2をエネルギーに変える逆転…
  5. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(1年目)
  6. 尿から薬?! ~意外な由来の医薬品~ あとがき
  7. 治療応用を目指した生体適合型金属触媒:① 細胞内基質を標的とする…
  8. 分析化学科

注目情報

ピックアップ記事

  1. リン–リン単結合を有する化合物のアルケンに対する1,2-付加反応
  2. 力を加えると変色するプラスチック
  3. 単一細胞レベルで集団を解析
  4. スイスの博士課程ってどうなの?2〜ヨーロッパの博士課程に出願する〜
  5. 日本にあってアメリカにないガラス器具
  6. シス優先的プリンス反応でsemisynthesis!abeo-ステロイド類の半合成
  7. 超一流誌による論文選定は恣意的なのか?
  8. もし新元素に命名することになったら
  9. 果たして作ったモデルはどのくらいよいのだろうか【化学徒の機械学習】
  10. 太陽電池バックシートの開発と評価【終了】

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

2026年度 第26回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞(GSC賞) 候補業績募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブル ケミストリー ネットワーク会議(略称: …

有機合成化学協会誌2026年9月号:水素放出型カップリング・小員環カルボニル化合物・選択的臭素化・協奏機能型銅触媒・骨格リデザイン

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年9月号がオンラインで公開されています。…

<無料試薬サンプル進呈>バイオ試薬トライアルキャンペーン2026【東京化成工業】

東京化成工業では、日々の研究活動をサポートするバイオロジー研究用試薬を対象に、「バイオ試薬トライアル…

タリンにいってきました BOS2026 前編

みなさんこんにちは。ケムステ代表です。久々にまともに記事を書きます。さて、表題の通り、6月後…

第6回鈴木章賞授賞式&第10回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

計算科学、情報科学、実験科学の3分野融合による新たな化学反応開発に興味のある方はぜひご参加ください!…

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP