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世界の化学者データベース

村井 眞二 Shinji Murai

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村井 眞二(むらい しんじ、1938年8月24日 -2025年6月30日 )は日本の有機化学者である。大阪大学名誉教授。奈良先端科学技術大学院大学理事・副学長。日本化学会元会長(写真:I²CNER)。

経歴

1957 大阪府立住吉高等学校 卒業
1966 大阪大学大学院工学研究科 終了
1966 大阪大学工学部 助手
1973 大阪大学工学部 助教授
1967 米国ウィスコンシン大学 博士研究員(Robert West教授)
1989 大阪大学工学部 教授
1999 大阪大学工学部長・工学研究科長
2002 大阪大学 名誉教授
2005 奈良先端科学技術大学院大学 理事
2009 奈良先端科学技術大学院大学 理事・副学長

また日本化学会 会長(2005)、 科学技術振興機構 JST イノベーションプラザ大阪館長(2005)を兼任する。

 

受賞歴

1984 日本化学会 学術賞
1997 日本化学会賞
2004 有機合成化学特別賞
2005 藤原賞
2010 日本学士院賞
2014 瑞宝中綬
2016 朝日賞
2017 文化功労者

 

研究概要

村井眞二先生は、有機合成化学において、遷移金属触媒を駆使した新規反応の開発を主軸とし、数々の革新的な成果を挙げてきた。中でもC–H結合活性化反応の草分け的業績は、世界的にも高く評価されている。

とくに歴史的な意義をもつのが、世界で初めて実用的なC-H結合活性化型触媒反応を開発したことである。C–H結合は、有機分子中に普遍的に存在しながらも、その化学的安定性のために長らく変換困難とされてきた。村井先生らは、ルテニウム触媒を用いることで、安定なC–H結合を選択的に活性化し、炭素–炭素結合形成反応へと導くことに成功した[1]。

C_Hactivation_1.gif

この研究の画期的な点は、当時主流であった「C–H結合の酸化的付加が律速段階である」という常識を覆し、律速はむしろ還元的脱離段階であることを実験的に証明した点にある。この知見は、C–H活性化分野の発展に理論的基盤を与え、今日に至るまで続く一大研究領域の端緒を築いた。現在では、C–H活性化反応は「理想的変換」としてグリーンケミストリーや創薬化学でも重要視されており、その先駆けとして村井先生の貢献は極めて大きい。

さらに、一酸化炭素(CO)を炭素源として利用する合成反応や触媒反応の開発でも顕著な成果を上げている。特に、毒性や取り扱いの難しさから敬遠されがちであったCOを、高選択的かつ実用的な合成に導入する触媒系の構築に成功しており、学術的にも産業的にもインパクトのある研究群を発表している。

これらの業績は、有機合成化学の地平を広げただけでなく、触媒反応設計における新たな概念の確立にも大きく寄与している。

コメント&その他

 

名言集

  1. 「研究室では上手くいかないのが常態です」

 

関連動画

 

関連文献

  1. Murai, S.; Kakiuchi, F.; Sekine, S.; Tanaka, Y.; Kamatani, A.; Sonoda, M.; Chatani, N. Nature 1993366,  529. doi:10.1038/366529a0
  2. Kakiuchi, F.;Murai, S. Acc. Chem. Res 2002, 35, 826. DOI: 10.1021/ar960318p

 

関連書籍

ヘゲダス遷移金属による有機合成

ヘゲダス遷移金属による有機合成

ルイス・S.ヘゲダス, ビョルン・C.G.セ-デルベリ, 村井真二
¥8,580(as of 12/13 23:10)
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外部リンク

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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