[スポンサーリンク]

ディスカッション

細胞の中を旅する小分子|第三回(最終回)

[スポンサーリンク]

前回は、薬が目的細胞周辺に到着し細胞膜を通過し細胞質の世界までの世界を覗いてみました。今回の旅は細胞質から核内に入り核内の目標タンパクに到達するまでです。

 

核内へ突入

小分子は、細胞質から核膜孔を通過し、核内に入ります(Fig.6)。核膜孔は、直径39nmの分子までは能動的に拡散し核内に移行します。リボソームなどの巨大な分子はGTPを利用したエネルギー依存的な輸送系で輸送されるようです。

 

Fig6

Fig.6 核膜孔 (Mol. Biol. Cell Fig.12-9a)

 

 

一つの核に納められているDNAの総延長はおよそ2 mといわれています。

しかし、核の大きさは10 μm程度です。

どういうカラクリが存在するのでしょうか?

核内にDNAを収納するためにクロマチンという構造が重要な役割を果たしています。このクロマチンはタンパク質とDNAからなる複合体です。では、どのように折り畳まれているのでしょうか?DNA分子はとても細長いので、もつれるのを防ぐためにヒストン(4種のタンパク質からなる8量体)という筒状のタンパク質に巻き付いて構造を保持しています。DNAがヒストン8量体におよそ約1.7周巻きついた(約140ー150bp)構造をヌクレオソームといいます。このヌクレオソームの直径は11 nmです。このヌクレオソームと次のヌクレオソームを繋ぐDNAをlinker DNAと呼び、これが繰り返されることでbeads-on-a-string構造をとります。ヌクレオソームの10 nmの繊維は更に折り畳まれ、直径30 nmの繊維状の構造を形成します。次にこの30 nmの繊維構造が300 nmの幅のひだ上の構造をとり、それがさらに直径700 nmまで折り畳まれることで、最終的に細胞分裂のため最も機能的かつ効率的に折り畳まれ染色体となります(Fig.7)。

 

Fig7

Fig. 7 DNAの核内への収納法 (Mol. Biol. Cell 4-72)

分裂期以外の核内はどうなっているのでしょうか?通常の状態で、クロマチンは凝集の度合いによって、強く折り畳まれているために遺伝子発現が抑制されている領域(ヘテロクロマチン)と凝集度が低いため遺伝子の転写が活発に行われている領域(ユーロクロマチン)というおおきく2つの領域に分類でき、核内に広がっています。これが分裂をスムーズに行うため、コンパクトに折り畳まれた染色体になり、細胞分裂が始まります。

DNAの2本鎖に目を向けるとその直径は2nmであり、小分子で対応できる大きさであることがわかります。有名なP.B.Dervan(http://dervan.caltech.edu/)のminor grooveを利用した小分子でのDNAの認識からわかるように、major grooveもminor grooveも小分子で認識可能な大きさの範囲です(Fig.8)。

Fig8

Fig.8 groove (Mol. Biol. Cell Fig. 4-5)

さて最後に終着点である核内の標的蛋白について述べて旅を終わることにしたいと思います。核内の標的というとDNAに目がいきますが、他にも転写因子や核内レセプター(サイトゾルで結合し核内に移行するものもある)などが有名です。最近話題のEpigeneticの標的としては、DNA本体への修飾を標的にすることは少なく、ヒストンのひげ(〜30AA)への翻訳後修飾、アセチル化、リン酸化、メチル化、ユビキチン化等が標的となっていることが多いようです。ヒストンのヒゲへの修飾・認識は、修飾酵素の阻害も含めて、蛋白蛋白相互作用(PPI)が重要な働きをしていることが多くあり、創薬targetとして注目を集めています。

終わりに

Fig9

Fig.9 summary (Mol. Biol. Cell Fig.9-1)

まとめとして、Fig.9の両図に生体内における小分子薬の大きさを緑の枠で示しました。細胞内の標的に作用する生理活性物質のすごさが少しはわかっていただけたでしょうか?実際の創薬では、細胞から動物に効く化合物を見出す事が次のステップとなります。いずれ、説明できればと思います。本寄稿が、化合物の分子レベルでの細胞内の動きの具体的なイメージ化に寄与できれば嬉しく思います。

参考文献

1.Molecular biology of the Cell (5th edition, Garland Science)

2. D.S.Goodsell, Trends in Biochem. Sci. 1991, 16, 203-206.

[amazonjs asin=”0815344325″ locale=”JP” title=”Molecular Biology of the Cell”]

[amazonjs asin=”453206239X” locale=”JP” tmpl=”Small” title=”パワーズ オブ テン―宇宙・人間・素粒子をめぐる大きさの旅”]

[amazonjs asin=”0123741947″ locale=”JP” tmpl=”Small” title=”The Practice of Medicinal Chemistry, Third Edition”]

Avatar photo

MasaN.

投稿者の記事一覧

博士(工)。できる範囲で。

関連記事

  1. 群ってなに?【化学者だって数学するっつーの!】
  2. ゲルマニウム触媒でアルキンからベンゼンをつくる
  3. 第93回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part II…
  4. がん細胞をマルチカラーに光らせる
  5. アメリカ大学院留学:研究者キャリアとライフイベント
  6. 難分解性高分子を分解する画期的アプローチ:側鎖のC-H結合を活性…
  7. 複雑なアルカロイド合成
  8. 結晶構造データは論文か?CSD Communicationsの公…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 日本にノーベル賞が来る理由
  2. 提唱から60年。温和な条件下で反芳香族イソフロリンの合成に成功
  3. シリカゲルの小ネタを集めてみた
  4. マツタケオール mushroom alcohol
  5. 第93回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part III
  6. 2007年文化勲章・文化功労者決定
  7. 東レ、ナノ構造制御技術を駆使した半導体実装用接着シートを開発
  8. マイクロ波プロセスを知る・話す・考える ー新たな展望と可能性を探るパネルディスカッションー
  9. 2007年10大化学ニュース
  10. 持続可能社会をつくるバイオプラスチック

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP