[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

架橋シラ-N-ヘテロ環合成の新手法

[スポンサーリンク]

シラNヘテロ環を含む多環式化合物の新奇構築法が見出された。遷移金属触媒を用いず多環式化合物を合成できる本手法は、複雑アルカロイドなどの生物学的等価体としての応用が期待できる。

ケイ素を含むNヘテロ環(シラNヘテロ環)構築法

医農薬関連化学において、ケイ素架橋されたヘテロ化合物は生物活性分子における炭素等価体として活用できる可能性がある[1]。特に、Nヘテロ環化合物がファーマコフォアやアルカロイドの骨格に頻繁にみられることから、ケイ素を含むNヘテロ環(シラNヘテロ環)はそれらの生物学的等価体として注目されている[2]。そのため、現在までにシラNヘテロ環の合成法が開発されている。

最近の例では、ルテニウム触媒を用いた分子内シラNヘテロ環合成[3]やマンガン触媒によるシラNヘテロ環の酸化的ラジカル合成などがある(1A)[4]。これらを含めたシラNヘテロ環の構築法では、ほとんど遷移金属触媒が用いられている。

今回、Chang教授らは遷移金属触媒を用いずに、シラNヘテロ環を含む多環式化合物を合成できる新奇手法を開発した。本法は、2度の脱水素反応により、(sp3)C–Si結合および(sp2)C–Si結合を連続的に形成する(1B)

図1. (A) 過去のシラ-N-ヘテロ環合成法, (B) 多環式シラ-N-ヘテロ環合成

 

Catalytic Access to from Piperidines via Cascade sp3and sp2C–Si Bond Formation

Zhang, J.; Park, S.; Chang, S. J. Am. Chem. Soc, 2018,140, 13209.

DOI: 10.1021/jacs.8b08733

論文著者の紹介

研究者:Sukbok Chang

研究者の経歴:

1985 B.S.Chemistry, Korea University
1987 M.S. Organic Chemistry, KAIST (Prof. Sunggak Kim)
1996 Ph.D. Organic Chemistry, Harvard University (Prof. Eric. N. Jacobsen)
1996-1998 Posdoc, Caltech (Prof. Robert H. Grubbs)
1998-2002 Assistant Professor, Ewha Womans University
2002-present Professor, KAIST
2008-2011 Chair, Department of Chemistry, KAIST
2012-present Director, Center for Catalytic Hydrocarbon Functionalizations, Institute for Basic Science (IBS)
2018-present Appointed as a Distinguished Professor at KAIST
研究内容:C–H活性化、メタンの直接官能基化、触媒による位置選択的脱官能基化

研究者:Sehoon Park

研究者の経歴:
2008 Ph.D. Tokyo Institute of Technology (Prof. Kohtaro Osakada & Prof. Daisuke Takeuci)
2012 Posdoc, University of North Carolina at Chapel Hill
2016-present Adjunct Professor, University of Science and Technology

研究内容:ホウ素触媒を用いる触媒反応の開発

論文の概要

本反応ではクロロベンゼン溶媒中、酸化カルシウムとB(C6F5)3触媒存在下、Nアリールピペリジン1に、メチルフェニルシランを作用させることで、シラNヘテロ環2が高収率で得られる。B(C6F5)3触媒を2回に分けて加え、同時間ずつ反応させることで収率が向上することがわかった。アリール部位やピペリジン部位に種々の置換基をもつ1でも本反応は進行する(2A)

アリール部位が非対称の置換基をもつ1bの場合、2b2b’がほぼ同様な収率で2種類得られる。ジアステレオ選択性は基質によって差はあるものの概ね中程度である。

著者らは、反応時間や温度検討および重水素ラベル実験により反応機構解明を試みた。その結果、(1)NシリルピペリジニウムボロヒドリドAの生成(2)可逆反応によるイミニウム塩Bの生成(3)エナミン中間体Cの生成(4)Cのβ選択的ヒドロシリル化によるピペリジンEの合成(5)Wheland錯体を経由し分子内(sp2)C–Si結合形成後、シラNヘテロ環Fになると推定された(2B)

B(C6F5)3触媒によるヘテロ芳香環のヒドロシリル化反応[5]や、インドールの直接シリル化反応[6]などヒントとなる反応は最近報告されている。しかし、それらとは全く異なるシラNヘテロ多環式化合物を合成できることは大変興味深い。

図2. (A) 基質適用範囲 (B) 推定反応機構

 

参考文献

  1. (a) Franz, A. K.; Wilson, S. O. J. Med. Chem. 2013, 56,388. DOI: 10.1021/jacs.8b08733(b) Sieburth, S. M.; Nittoli, T.; Mutahi, A. M.; Guo, L. Angew. Chem., Int. Ed. 1998, 37, 812. DOI: 10.1002/(SICI)1521-3773(19980403)37:6<812::AID-ANIE812>3.0.CO;2-I
  2. (a)Johansson, T.; Weidolf, L.; Popp, F.; Tacke, R.; Jurva, U. Drug Metab. Dispos. 2010, 38, 73. DOI: 1124/dmd.109.028449(b)Wang, J.; Ma, C.; Wu, Y.; Lamb, R. A.; Pinto, L. H.; DeGrado, W. F.J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 13844.DOI: 10.1021/ja2050666
  3. Fang, H.; Hou, W; Liu, G.; Huang, Z, J. Am. Chem. Soc.2017, 139, 11601. DOI: 10.1021/jacs.7b06798
  4. Wu, L.; Yang, Y.; Song, R.; Yu, J.; Li, J.; He, D. Chem Commun. 2018, 54, 1367.DOI: 10.1039/c7cc08996a
  5. (a) Gandhamsetty, N.; Joung, S.; Park, S.-W.; Park, S.; Chang, S. J, Am. Chem. Soc. 2014, 136, 16780.DOI: 10.1021/ja510674u (b)Gandhamsetty, N.; Park, S.; Chang, S. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 15176. DOI: 10.1021/jacs.5b09209
  6. Han, Y.; Zhang, S.; He, J.; Zhang, Y. J. Am. Chem. Soc.2017, 139, 7399. DOI: 10.1021/jacs.7b03534
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. アロタケタールの全合成
  2. 求電子剤側で不斉を制御したアミノメチル化反応
  3. クラリベイト・アナリティクスが「引用栄誉賞2022」を発表!
  4. 第16回 Student Grant Award 募集のご案内
  5. フルオロシランを用いたカップリング反応~ケイ素材料のリサイクルに…
  6. アズレンの蒼い旅路
  7. ケムステスタッフ Zoom 懇親会を開催しました【前編】
  8. Nitrogen Enriched Gasoline・・・って何…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ファン・ロイゼン試薬 van Leusen Reagent (TosMIC)
  2. 「日本研究留学記: オレフィンの内部選択的ヒドロホルミル化触媒」ー東京大学, 野崎研より
  3. 私が思う化学史上最大の成果-2
  4. シュワルツ試薬 Schwartz’s Reagent
  5. マイクロフロー瞬間pHスイッチによるアミノ酸NCAの高効率合成
  6. 位置選択的C-H酸化による1,3-ジオールの合成
  7. R・スモーリー氏死去 米国のノーベル賞化学者
  8. 室温で液状のフラーレン
  9. 米デュポン、高機能化学部門を分離へ
  10. 連鎖と逐次重合が同時に起こる?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年11月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

【書籍】Pythonで動かして始める量子化学計算

概要PythonとPsi4を用いて量子化学計算の基本を学べる,初学者向けの入門書。(引用:コ…

ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2024年版】

今年もノーベル賞シーズンが近づいてきました!各媒体からかき集めた情報を元に、「未…

有機合成化学協会誌2024年9月号:ホウ素媒介アグリコン転移反応・有機電解合成・ヘキサヒドロインダン骨格・MHAT/RPC機構・CDC反応

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年9月号がオンライン公開されています。…

初歩から学ぶ無機化学

概要本書は,高等学校で学ぶ化学の一歩先を扱っています。読者の皆様には,工学部や理学部,医学部…

理研の研究者が考える“実験ロボット”の未来とは?

bergです。昨今、人工知能(AI)が社会を賑わせており、関連のトピックスを耳にしない日はないといっ…

【9月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】有機金属化合物 オルガチックスを用いたゾルゲル法とプロセス制御ノウハウ①

セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチック…

2024年度 第24回グリーン・サステイナブル ケミストリー賞 候補業績 募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブル ケミストリー ネットワーク会議(略称: …

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

開催日時 2024.09.11 15:00-16:00 申込みはこちら開催概要持続可能な…

第18回 Student Grant Award 募集のご案内

公益社団法人 新化学技術推進協会 グリーン・サステイナブルケミストリーネットワーク会議(略称:JAC…

杉安和憲 SUGIYASU Kazunori

杉安和憲(SUGIYASU Kazunori, 1977年10月4日〜)は、超分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP