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ディスカッション

博士課程と給料

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今回の記事は博士課程とお金(給料)についてです。現在日本の総勢51000名程度いる博士課程の学生のうち60万円以上の収入があるのが約25%(うち約5-7%がJSPSの特別研究員)、約25%が60万円以下、約50%程度が無給で働いています。今回の記事では現在の日本(と海外)の情勢を踏まえて、今後日本の博士課程のあり方について金銭的な面から書いてみたいと思います。尚、本記事においては各種奨学金団体から与えられる給与のことを奨学金と定義し(例えば学振DC)、後に返還義務を有する“名ばかりの奨学金”は奨学金ではなく“借金”もしくは“ローン”と定義します。

本記事は内容的にかなりセンシティブです。本記事は私が化学分野における研究者コミュニティーの一員として、今後博士課程の待遇に関してどうすべきかをディスカッションできればと言う意図で書かせていただいたもので、個人を批判するものではありません。学振も博士も取っていないGakushiがこのような内容のことを書くのは少々憚られるのですが、読んでいただけると幸いです。具体的な内容としては、現在の日本の博士課程の現状と、海外の比較、今後の大学院教育のあり方についての提言です。ちなみに、そのための財源の確保については、記事が重くなりすぎるので別の機会に書かせていだだきます。

研究の対価としての投資(給料)

scientificに面白い仕事は人の知的好奇心をくすぐり、時に素晴らしい感動を与えてくれます。(日々研究に従事されている皆さまも、実験していてごーく稀にですが、”これすげー”って思うこと、ありませんか?)そういった何か面白いものを見つけために休日でも大学にいき実験するといったことが可能である現在の大学は、サイエンスの醍醐味を味わうための理想的な場所なのかもしれません。アカデミックで活躍されている先生方の多くが、学生と同じ何かを見つけたり発見したりという感動を一緒に味わいたいと考えておられると思いますし、研究に従事するる上ではそういった純粋な気持ちを大事にするべきかと私も思います。

一方でこういった(博士課程の学生の)研究は、ともすると、物好きの勝手な道楽なのでは無いか?とも社会から批判されたりもします。しかし、私はこういった、一見”変わった” 研究を行うことは、1)産業のタネを産むのと同時に、2)人的資源を育てるためにとても重要であると考えています。

前者、Curiosity drivenな研究は社会的意義の主張が困難である場合が多くありますが、幸いにも化学に関しては過去の研究が現代社会に必須の技術となっており、長期的な視点に立って研究設備に比較的潤沢な?研究費が注ぎ込まれています。一方で、後者の人的資源を育てる投資、特に博士課程の学生の給料に関して、私は比較的不足していると考えています。それについて、私事で申し訳ないですが、私がこんな記事を書くきっかけ、留学を選んだ理由から話を進めさせていただこうかと思います。

海外の博士課程と給与

私が海外での博士課程進学を選んだ理由はいくつかありましたが、その一つが給与でした。日本の大学の修士課程に在籍していた当時の私は、そのまま継続して博士課程で研究を続けたかったのですが、業績等の理由で給与がもらえる見込みがありませんでした(早い話、私が出来損ないで学振すらも通らないカスだったわけです。実は他にも理由はいくつかありましたが、ここでは触れません)。そこで、好きな研究ができしかも給与を出してくれる現在の留学先の研究室を選びました。正直、出身研究室には研究のイロハを叩き込んでいただいたのにも関わらず、論文などのアウトプットをほとんど出すことが出来ずに出ていく時には、申し訳ないと思う部分があったことを記憶しています。しかし、研究科からのサポートも当時は乏しく自分が自立するには十分でなく、選択肢として留学しか無かったのは事実です。

その後、海外の博士課程で研究を始め、しばらく経った時に日本の博士課程の実情を現地の学生に話す機会がありました。その際に、現地の学生から何で日本の学生は給料をもらえないんだ?彼らはどうやって生計を立てているんだ?しかも授業料がめちゃくちゃ高いじゃないか?国公立の大学の学費が年間50万とかふざけているのか?と聞かれ、少々驚きました。はじめのうちは国が違えばシステムも違うし当然かとも思っていたのですが、最近になって現在の日本の状況はやはり最善ではないと考えるようになりました。一般に、海外のほとんどの国では博士課程の学生が給与をもらって当たり前です。(こちらや代表的な国での博士課程の給与についてはこのページの下部を参照)その他、内閣府肝いりで作ったOISTなどでは、(莫大な予算というのもあって)PhDの学生に対して給料が出ています。

日本の博士課程は?

現在では私は、日本でも同様に博士課程の学生には労働の対価として給与を払うべきだと考えています。所詮、世の中、金です実際、お金が無ければ生活できません。一方で、日本では博士課程は学生で、勉強する身分なので授業料を払うのは当然、しかも給与なんて。。。といった考えが残念ながら日本社会では、なぜか”常識”です。しかし、実際には、この考え方は、現実に即していません。博士課程の学生は毎日、毎日、毎日、時には週末を返上して高度に知的集約的な仕事をこなしています。博士課程終了後には博士という称号を授与されますが、それまでの期間実際に毎日行っていることは労働です[1]。それゆえ、博士課程は給料をもらいながら働く仕事であるということを認識し、勉強のために高い学費を払って自腹で行くものだという概念は捨てるべきではないでしょうか? すなわち博士課程に進学する人は学生でなく、基本的には社会で働く労働者であると考えるべきです。

博士課程の終了間際、30手前ともなれば(私も含め)、必然的に将来(結婚、出産)のことを考える必要も出てきます。博士課程に進学する場合も一般企業に就職した方々と同様に、少なくとも財政的に自立できるように大学側は学生をサポートし、学生も自らその方法を模索すべきなのではないでしょうか。加えて、大学ランキングが下がる一方の日本の大学は、優秀な博士課程の学生を国内外から引き入れ研究分野でのさらなる活性化を図るべきだと私は考えますが、給料の出ない博士課程に応募する海外の学生が居るとは思えません。よって私は博士課程の学生には給与を与えるべきだと考えています。

給与の前提条件と日本の現状

ここまで述べた給料は強い主体性をもち努力を継続できる博士学生が、自分の成長を含め、新たな発見につながる面白い結果を得るための労働に対する投資です。例えば、”学生である私は給与をが払われる対価として、教授に言われた分だけの仕事をします。”などといった、ロボットのような博士課程の学生は1)何の面白みも波及効果も生み出せない研究しかできない(アウトプットがゼロ)、2)人の成長に投資したのに全くその成長に繋がらない(将来への投資のリターンがゼロ)ため、給与の対象からは除外すべきです。実際に博士課程の学生に給料を支払っている欧米でも、このことに関しては暗黙の了解として認知されています。ですので、もし給料が支払われる場合であっても給料が欲しいからという理由で、博士課程の面接をしてもどのPIもそんな学生を採用しません。実際には一部にこういった学生もいるかもしれませんが、私の日本に居る知り合いや友達を含め、多くの博士課程の学生が自律的に研究に日々邁進しているのにも関わらず、金銭的なサポートが圧倒的に足りていないのが現状です。

これまでをまとめますと、現在の日本の研究システムにおいて、(様々問題はあれど)科学技術予算はある程度潤沢な一方で、優秀な科学者を育成するための人的資源に対する投資(給与)が比較的不足しており、今後は頑張って仕事をする博士課程の学生には給料を与えてあげるべきなのでは?という問題提起をしたかった訳でございます。

ここからは学生と大学がどうするべきかについて考えてみようかと思います。まずは学生が給与を得るためにはどうするべきかについて。

給料を得るためには我々学生に何ができるか?

博士課程の学生として給料を得るには、様々な方法が存在します。多くの博士課程進学者が応募する、学振DCもその一つです。また、枠はあまり多くありませんが民間の財団が奨学金を支給しています。その他、例えば、理研や産総研など施設や給与などが整った国立の研究施設に行く場合、かなり高い確率で給与がもらえる場合があります。その他、リーディング大学院や大学院独自の奨学金等に関してはこの記事の最後に挙げたケムステ内のリンクや各大学のウエブサイトをご覧ください。

ここからはある意味かなり偏った見方ですが、自分のしたい研究なんて、特殊な場合を除いて、今の世の中大抵どこでもできると私は考えています。ならば、労働条件の悪いところはさっさとやめて、社会的に自立でき、自分の資質に見合った、今自分が一番面白いと思うことができる研究室に行くのが一番かと思います。別に自分が面白くて仕事がしやすいと思えるなら、大学の制度や国境はあまり重要ではない。と多くの研究者の方々も考えておられると思います。私の友達でも、一度入った博士課程をやめ、別の大学の博士課程に入り直した人もいます。新学期が始まってからでも、思い切って理研や産総研などの研究所に籍を置くことにしたり、留学などで研究室を変えてみるなんていうのも可能です。修士を終えてからでも、学振に落ちてからでも、間に合う選択肢も実は結構あるのではないでしょうか?

ここまで、学生がどうするべきかについて述べてきたので、次に博士課程の学生のための給与を導入するために、各大学や研究科がどうすべきかについて考えて見たいと思います。

給与を支払う仕組みを導入する前にすべきことと前提条件

博士課程の学生に給料を支払う仕組みを導入するにあたり、大学院で考慮、整備する必要のある事が4つあります。これら4つの条件は、自律的にクリエイティブな仕事ができる優秀な学生を選抜し、働いてもらうためには必須です。さらに、大学院教育の意義を社会に理解してもらい、人件費のための予算を確保するためにも必須です。*ここからは、大学院政策についての内容です。ここに述べる内容は欧米ですでに行われていることですが、日本では一部の整備に留まっているところが多くあります。日本は講座制、部局が別れていることなど、海外の内容をそのまま当てはめるのは不可能ですし、するべきでは無いと私は考えます。ここでは以下のような仕組みも欧米ではあり、日本でも工夫次第では取り入れるともっと大学院教育が充実するのでは無いかと思われる項目を4つに絞ってお話しさせていただきます。*

1)期待された業績出せない学生や研究姿勢を示せない学生の給与を停止できる仕組みの導入[2]。一部の博士課程の学生には給与を与えるに見合わない人もいます。給与を与える分の予算が確保できたとしても、自分で研究の方針を立て、遂行できない博士課程の学生をPIはそもそも雇うべき(研究室に入れるべき)ではありません。また、学生が能動的に仕事ができなくなってしまった場合、労働契約を打ち切ることができるようにするべきで、余った予算で新たに採用する博士課程の学生に給与を支給すべきです。さらに、就職できなかったから博士課程に行くという場当たり的な博士進学はやめさせるべきです。

私は十分な資質を持たない博士課程の学生に、給与を出す必要は無いと考えています。そういった人は化学研究という社会全体からみれば小さい領域にとどまることなく、もっと他の分野で活躍できると考えていますし、もしそれでも博士号が欲しいのならこれまで通り自腹で博士号をとりに行くといいと思います。こういった資質の無い学生が博士課程に進学するそもそも原因には、1)PI(研究室主宰者)が研究室に入ってくる学生を選べない(現在の日本では大学院の入学試験に通ってしまったら、PIは学生を取らざるを得ない)、2)大学院に”入れば出れる”という大学院の出口保証や、3)博士課程では給与をもらえないものだという “常識” のために、学振が取れなくても何とかなるだろう。といった発想などもあると思われるので、優秀な学生のslectionと同時に、入試制度や雇用の条件についても検討するべきです。

 

2)単純な面接や学科試験ではなく、博士課程の出願時に学振の申請書のようなプロポーザルの提出を義務付け、それに基づき学科を含めた面接試験を科すことで、学生の研究に関する素質を見極めるような試験に変更することが必要です。博士課程の学生は指導教官の指導が必要なものの、自律的に研究をするべきだと私は考えます。自分でテーマを考え、その実行可能性を探り、予算を確保し、期限を設定、研究に取り組むことができる能力は(アカデミックや企業に関わらず)研究者として必須です。幸いなことに多くの日本の学生は学部4生の頃から研究室配属があり、博士課程進学時にはすでに3年のもの研究の経験があります。そのため、M2にもなれば少なくとも自分の研究分野に関しては精通しており、プロポーザルを書くことは可能なはずです。現在、多くの修士学生がDC1に応募していることを考えると、例えば、学振DCの申請書を大学院の博士課程の入学試験としてしまえば、新たにプロポーザルの様式を一から作る必要が無いので一番簡単に大学院入試の実施が可能です。(プロポーザルは専門的な書き方が要求されるので、大学院修士課程での申請書の書き方の授業が開講されれば、博士課程志願者がよりスムーズに提案書を書くことができると思われます。)

 

3)教授と学生だけという閉ざされた関係で研究を行うことを避けるため、(A)PhDCommittee検討会や(B)Qualification Examにより、学生の資質を研究科もしくは大学全体で担保すること。これらは博士課程における研究をより円滑にするだけでなく、博士課程の学生が研究を続ける資格に乏しい場合、給与停止などの明確な理由づけとなります。これら二つの方法はアメリカやヨーロッパの大学院をはじめ多くの大学院で既に採用されており、安定的に優秀なPhDを輩出するのに役立っています。

(A)PhD Committee検討会を半年若しくは、少なくとも一年に一回行い、研究の進行が予定どおりに進んでいるかを確認します。参加者は学生の指導教官以外に、研究科の内外から同じ研究分野の教授を二人選ぶのが一般的です。具体的にCommittee検討会では、1)これまでどのような結果が得られたのか(プレゼン)。2)今後、これまでの知見に基づいてどのような研究を展開する予定か。3)さらに知見を深めるため、共同研究などはどうするのか。4)どのように結果をまとめPublicationとして公開するのか。5)教授や准教授、助教授との関係性はオープンで、建設的なディスカッションとそれに基づいた研究ができているか。6)研究者として更に研鑽を積むために将来どうするのか(例えば短期海外留学や海外でのポスドク)。といったことが議論されます。このような研究報告により、学生は普段接する指導教官以外の第三者の意見に触れることができるのに加え、指導教官の能力以上の内容(特に分野外)に関しては特に他のメンバーに助言を求めることができるので、博士課程の研究をより発展させることが可能です。

(B)最新論文や高度な内容を含んだQualification Exam(QE)を行う。この試験は私の所属する研究科の場合、毎月研究科に所属する教授たちが最新論文や重要な化学反応、化学現象などに焦点を当て、それぞれ一人一題ずつ問題を出題、教授が採点します。内容は専門にもよりますがかなり高度で、日ごろからしっかり専門の論文のチェックはもちろん、自分の専門領域以外の化学の勉強もしていないと高得点が取れません。私の所属する研究科の場合、不斉反応の立体化学の説明、反応メカニズムの説明(例えば福山研の問題集のB〜C相当)、有機金属化学の元素の特徴とそれに基づいた反応例の例示、有機金属反応のリガンドの効果に関する説明、Bioorthogonalな反応とその利用、ジアステレオマーなどの立体化学の違いに関する説明、全合成の中間体や試薬の穴埋め、薬剤ターゲットタンパク質と小分子の相互作用、化合物の構造推定、などが設問対象です。日本の場合は、同様の研究を行っている研究室が複数研究科にまたがるため、海外のように研究科ごとに試験を行うのではなく、研究科を超えて大学の化学専攻部門として設問を作成し、専門分野の知識を問うといった工夫も必要となるかと思われます。(教授自身も誰がこの設問に答えられるか楽しみにしており、自分の設問に対する回答を見てどの学生が優秀だとか見ています。たまにそのことで声をかけられることもあります。)

QEやCommittee検討会など開かれた関係での博士課程の学生を育成しその資質を保証することは、学生とPIとの関係がこじれるのを防ぎ、一方的な給与停止や不当解雇(アカハラ)が懸念される場合への予防処置としても有効です。博士課程の学生が行う研究は “研究” である以上、うまくいく仕事、そうでない仕事というのがあり、Publicationの数やそのインパクトファクターは人によって様々です。さらに、うまくいかない時期に少々落ち込んだり、実験のパフォーマンスが一時的に低下したりというのは誰にでも起こりうることです。日本で研究室を運営されている多くの先生方は、研究の苦しみや楽しみを学生と分かち合い、こういった学生の実験がうまくいかない場合は解決策を見つけるために学生と一緒に走ってくれる方で、給与を盾に働けと学生を脅す方はおられないと思います。しかし、可能性として博士課程の学生に給与を支払う場合、給与を盾にアカハラやパワハラをするような先生も今後出てくるかもしれません[3]。そのため、先ほど述べた通り、圧倒的に仕事をしない学生の給与を停止するのを可能にするのに加え、無茶や労働をさせるアカハラを防止するためにも、QEやCommittee検討会を導入し大学院教育の透明性を維持する必要があります。

 

4) 最後の一点が、TAの拡充です。確かに多くの日本の大学でも学生実習や授業にはすでに学生の労働力が投入されていますが、私はより多くの資源を投入しても良いのではないかと考えています。海外では学生実習や補修の主役はPhDの学生です。教員の仕事は一番初めのintroductionを1時間程度したら、あとはTA Meetingなどで経過報告を受けたり、最終レポートの確認をするなどだけです。そのため、学生に教育を任せることができ、教員はさらに高度な教育をするために時間を費やしたり(例えば先に述べたQEなど)、研究に充てることができます。TAを担う学生はTA分の給与をもらうというだけでなく、学部学生の教育に従事することで、学生実験をorganizeし、どのように指導すれば有効かということを意識することもできるので、自身の成長につなげることもできます。

TAの拡大のための課題とその解決策しては、1)学生の成績評価基準の明確化。学部学生の成績をつけるためには細心の注意をはかり、公平を期す取り組みが必要となりますが、そのための基準を明確化すれば、現在の日本のように教員が学生の教育を全て担当する必要はありません。2)拡充によるTAの人件費予算の確保。TAは高度に専門的な教育なので、これまで以上に大学もしくは研究科の予算を注入してもらわねばなりません。3)奨学金受給者のためのTA免除制度の拡充。例えば、フランスなどでは奨学金受給者の場合、TAの免除を受けることができる一方で、TAをすれば給与がアップします。一方、大学や国によっては奨学金を持ってようと給与アップ無しでTAをさせられることもあるので、実際の学生の扱いは大学次第です。(学振も正直なところ、給料としてはかなり安いのでこういったことはあまりいいたくありませんが、)TA予算を奨学金を受給していない博士課程の学生につぎ込むという方法も今の日本の大学の財政状況を考えると、止むを得ないかもしれません。4)学生の研究時間の減少に対する処置。PIは普通我々学生がTAをしていることなんてほとんど忘れていて、通常通りの仕事量を要求してくることがほとんどなので、先生方が学生のプロDアクティビティーに関して心配される必要はありません。といった学生にとっては酷い冗談はさておき、多くの先生方が自分の時間を犠牲にしてでも学生に研究できる時間を用意してあげようと考えておられると思います。その対応策としては、1)大学での研究室配属を学部3年後期へ早期化したり、2)大学院講義の受講を学部学生に可能とし、その単位を学部と大学院と互換可能としたりすることはが考えられ、実際に一部大学ですでに同様の施策が行われています。このように、学生の早期習熟を促すことで、ある程度博士課程での時間が犠牲になったとしても、トータルでの業績に対する影響を最小限に抑えることが可能です。確かに、TAに関してはこのように予算や研究のための時間など慎重に議論するべき課題かもしれませんが、科学技術予算が限られてきている今日避けては通れない課題かとも思われます。

以上、長くなりましたが、今後対処すべき4つの課題と考えうる対応策を提示させていただきました。博士課程の学生も、以上のプロセスを経てco-workerとして指導教官から”選ばれ”た上で、働くことができれば、自分の成果を出そうと努力できるため、パフォーマンスの向上につながるのではないでしょうか。さらに、透明性の高い給与基準や教育課程を採用することで、大学が大学院教育に真剣に取り組み、本当に優秀な人材を育てようとしているということを社会にアピールすることができます。(蛇足で申し訳ありませんが、これらの博士に必須の要件は”論文博士制度”では十分に得られないので、今すぐにシステムを廃止すべきです。)

最後に

題材がかなり複雑なこと、内容がたくさんあったので少々分かりにくい記事になってしまったのにも関わらず最後まで読んでいただきありがとうございました。私としては、今回の記事を読んでくださった修士、学部の学生の皆様方にここで取り上げた給与の問題について考え、それぞれのキャリアに反映させる機会を提供できたならば幸いです。個人的な話で恐縮ですが、博士課程はいろいろ苦労することも多いけど、とても面白いと感じています。もしあなたも、1)自分に研究する能力があり、2)自分のやっていることがが面白いと思え、3)社会的に自立できる環境にあるならば博士課程に進学することをお勧めします。今すぐには博士課程の学生を取り巻く状況が良くなることは無いので、来年度から学振一本で全ての博士課程の学生がサポートされるとは考えられません[4]。

しかし、先に示したようにチャンス、例えばリーディング大学院、留学、奨学金、理研などのRAなど探してみれば意外とたくさんあります。はじめから無理だと思わないで、トライしてみると予想外にうまくいくかもしれません。確かに、申請書を出すことは面倒臭いし、とても大変です。しかし、結局企業に行くにしたとしても、一研究者として自立するためには自分から企画-提案する能力を養うことがとても重要になります。留学した場合に養える英語もcommunication toolとしてとても大事です。その博士課程の前段階としても、修士のうちにそういった壁に立ち向かえば、より充実した博士課程を過ごせるかもしれません。

現在博士課程に在籍されている方々で、給与をいただいておられない方はまず現在所属する研究室のPIに相談されるといいかもしれません。それなりに研究資金のある研究室の場合、RAとして給与を一部支払って貰えるかもしれません。また、奨学金関連のことについて紹介して貰える可能性もあります。一番初めに示した前提条件を満たすような優秀な学生であるにも関わらず、博士課程を家庭の財政的な関係から諦めざるを得なくなる学生が今後居なくなることは、多くの研究者の願いであるかと思います。

海外にいると、日本の修士学生がいかに優秀かがよくわかります。後半では大学院教育の制度設計に関しても書きましたが、日本は学費が安い割に(大学は学費収入が少なくて大変です。この話はアメリカ、イギリスの一流大学を比べた際での話です。欧州の大陸の大学では比較的大学の授業料はかなり安く抑えられており、その分は日本以上に交付金で賄われています。)優秀な教育が施されていると個人的には感じています(下に貼り付けたGlobisのyoutubeでの議論などを参考にしてください。)。ですが、今後さらに優秀な学生を育てるためには改革も必要です。国の科学技術関連、および教育関連支出が制限される中で、欧米の制度をそのまま導入するだけではうまく機能しない事は明らかです。そのため、様々な事例を知り、十分な議論を踏まえた上でのシステムの導入が必要です。

この記事が少しでも研究者界隈での博士課程の学生の研究環境の改善と、一般社会における、将来の科学技術を担う若手研究者に対するより深い理解、合わせて日本の化学研究の発展に寄与することを願っています。

過去のケムステでの奨学金関連の記事

日本での奨学金のソース

  • 理研産総研の大学院生リサーチ・アソシエイト
  • 吉田育英会ドクター21
  • 日本学生支援機構のローン第一種奨学金の「特に優れた業績による返済免除」による救済
  • その他各研究室の予算とそれぞれの大学独自の奨学金等
  • 短期ですが、各大学の短期留学関連の奨学金
  • 各大学における学費の免除制度
  • 最近、研究資金ですがクラウドファンディングで資金調達しようとしている博士学生もいました。

各国のPhD学生の給与

大抵の国では最低賃金程度の給与が支払われる。以下は一部例。詳細はこちらなどを参照。

  • ドイツ 1500 EUR/month
  • スイス 4000 CHF/month 年間100フラン程度の昇給。学食は8CHF程度。
  • デンマーク 年収700万円程度 医療費はタダだけど社会保障費は高いので注意。
  • フランス 1300-1700 EUR/month TAをするかどうかによって給与の多少の増減あり。
  • アメリカ 2000ドル/月
  • 中国 月4-8万円程度。学費は無料、寮がほぼ無料、学食一食100-150円程度の生活水準。

関連リンク

本記事では、博士課程をやたらめったら勧めてしまいましたが、実際に産業界で博士人材が必要とされているかという問題もあります。また、重点化や国立大学法人化による事務員の削減によって、本来クリエイティブな仕事をするべきPIが雑務に追われており、そちらに投資を先にすべきだという議論もあります。様々な議論がある中で、少しずつ状況が改善されることを願い、本記事を書かせていただきました。以下は注です。

  • [1]多くの博士課程の学生は毎日、毎日、時には週末を返上して高度に知的集約的な仕事をこなしています。博士課程終了後には博士という称号を授与されますが、実際に毎日行っていることは労働です。中学、高校などの義務教育では先生に教えてもらうことから、ほとんどが受動的な教育ですが、大学の学部、修士課程を通じて、学生は、自主性をもって研究計画を立て、社会の役に立つ研究を行う研究者に変わります。正直なところ、その研究がすぐに役に立つかは分かりませんが、より豊かな社会のためにとみんなが信じて日々働いています。今日本を支えている科学技術も戦前、戦後の研究開発があったからこその現在があると考えるべきで、現在の教育投資を渋っているこの国に未来は無いかというのは多くの方々の仰せの通りかと思われます。
  • [2]雇用契約がある場合、圧倒的に仕事をしない学生の給与を停止することが可能です。実際の運用面では、現在の日本の財政状況を考慮すると、すべての学生に給与を与えるのはほぼ不可能なので、まずは給与の停止により浮いた分の資金のほかの学生への分配するのが現実的です。私は、仕事しない博士課程の学生に給料を渡すのであれば、しっかり働いている修士の学生にRAに支給したり、テクニシャン、秘書やPDを雇ったりするほうがよほどましかと思います。
  • [3]アカデミックでは知的好奇心をベースに働いている人が大半であることから、雇用契約以上に働くのは世界中当たり前です。こう言ったモチベーションありきの労働と、強制労働とを誤解するべきでは無いと私は考えます。
  • [4]コレでもかなり昔に比べたら、状況は改善傾向にあるようですので。頑張ってくださった官僚や先生の皆様には感謝したいところです。少子化と博士課程に進学する人口が減っているというのも有りますが。

留学生と給料

余談ですが。。。最近いくつかの大学では、外国から優秀な留学生を呼び込もう躍起になっていますが、当然ながら、日本の大学の政策として海外の留学生を増やそうともがいたところで、給料の出ない博士課程なんて誰も海外からアプライしようとは思いません。いくら研究が好きでも生きていけないとどうしようもありませんから。海外からの留学生を増やすなら、OISTのように給料を出すべきです。ただでさえ、外国人にとって英語でのコミュニケーションができない日本の研究室は居心地が悪いのに(今、私はヨーロッパで英語もろくにできないアジア人です。笑)、このような状況では優秀な博士課程の学生を集めることはほぼ不可能です。本当にグローバルなリーダーシップをとれる大学を作りたいなら、しっかりと大学院に投資をし、PIが博士課程の労働者を雇えるようにすべきであると私は考えます。

2019,04,15追記

最後になりましたが、本記事を書くに当たって助言を与えてくださった先生方、ケムステメンバーの皆様にここで感謝させていただきます。ありがとうございました。

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Gakushi

東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

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