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化学者のつぶやき

名もなきジテルペノイドの初の全合成が導いた構造訂正

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Harziane diterpenoidの全合成が初めて達成された。また、報告されていた立体構造の誤りを明らかにし、正しい構造へと導いた。

Harziane diterpenoids

Harziane diterpenoidsは、トリコデルマ菌から単離されるジテルペノイドであり、1992年にharziandione(1)が初めて構造決定されて以降、これまで17種類の類縁体が報告されてきた。そのうち13種類は6-5-7-4縮環という珍しい炭素骨格をもつ。この骨格構築の困難さから、harziane diterpenoids類の全合成の報告例は皆無である(図1A)(1)。2014年にヨーロッパイチイの樹皮由来のトリコデルマ菌から単離、構造決定されたharziane diterpenoid (2: 命名されていない)は、この特徴的な炭素骨格に加え、四級炭素を二つ含む六つの連続した不斉中心を有している(2)

今回、スイス連邦工科大学チューリッヒ校のCarreiraらは、2の初の全合成に成功した(図1B)。彼らの逆合成解析は以下の通りである。2は、3の酸化的C=C開裂/閉環反応による七員環構築を経て合成できるとした。また、4の分子内アルドールにより3の構築(六員環形成)を計画し、4は鍵反応である5の金触媒反応と6のパラジウム触媒反応という二種類の環化異性化反応により合成できると考えた。また、全合成の後に天然物と合成品2のスペクトルデータの精査より、2から2’への構造訂正へと至った(図1C)。

図1. (A) Harziane diterpenoids、(B) 2の逆合成解析、(C) 構造訂正

 

“Total Synthesis and Structural Revision of a Harziane Diterpenoid”
Hönig, M.; Carreira, E. M. Angew. Chem., Int. Ed. 2020, 59, 1192-1196.
DOI: 10.1002/anie.201912982

論文著者の紹介

研究者:Erick Moran Carreira

研究者の経歴:
–1984 BSc, University of Illinois, Urbana Champaign, USA (Prof. Scott E. Denmark)
1984–1990 Ph.D, Harvard University, USA (Prof. David A. Evans)
1990–1992 Postdoc, California Institute of Technology, USA (Prof. Peter Darvan)
1992–1996 Assistant Professor, California Institute of Technology, USA
1996–1997 Associate Professor, California Institute of Technology, USA
1997–1998 Professor, California Institute of Technology, USA
1998– Professor, ETH Zurich, Switzerland

研究内容:天然物合成、有機触媒・遷移金属を用いた不斉反応の開発

論文の概要

著者らはまず、容易に合成可能なエンイン6に対し、パラジウム触媒を用いる環化異性化を行い、シクロペンタン7を合成した。続いて、7工程かけてシクロプロピリデン5へと誘導し、鍵反応であるGagnéらの報告した金触媒による環化異性化反応を行った[3]。本反応は、ジアステレオ選択的に進行し、シクロブタン体9を収率87%で得た。その後の化学変換により得られた4に対し、DIBAL還元と分子内アルドール縮合を行い、エノン3とした。3に対するメチルクプレートの共役付加に続き、オレフィンの酸化的開裂/分子内アルドール縮合を経て七員環(10)の構築に成功した。その後、10の酸素官能基を除去して11へと導いた。最後に、11のオゾン分解、続くメチル化により、2の全合成を達成した。
しかし、合成した2と天然物のスペクトルデータに明らかな相違がみられた。この原因は2のC9位の三級アルコールの立体化学が誤って報告されているためと考えた。単離論文に記載の天然物の1H NMRスペクトルでは2のC19位とC20位のピーク(δ 2.32 ppm)が重複している。これらの重複ピークとC14位プロトン(δ 1.43 ppm)ピークにNOE相関が観測されており、著者らはこれがC14位とC20位のプロトンの相関に由来すると考えた。
そこで、11を向山水和反応条件に付すことで、C9位の立体化学が2とは逆のエピマー2’を合成した。得られた2’と天然物のスペクトルデータは完全に一致し、2の構造は2’へと訂正された。また、重ベンゼンを用いてNOESY測定することで、C19位とC20位のメチル基は重複せず、C14位とC20位プロトンとのNOEが確かめられた。

図2. (A) Harziane diterpenoid 2および2’の全合成 (B) 構造訂正

 

以上、harziane diterpenoid 2およびそのエピマー2’の初の全合成によって、天然物の立体構造が訂正された。本合成を皮切りに、類縁体の合成研究、および生物学的研究が発展していくことに期待したい。

参考文献

  1. Ghisalberti, E. L.; Hockless, D. C. R.; Rowland, C.; White, A. H. Harziandione, a New Class of Diterpene from Trichoderma harzianum. J. Nat. Prod.1992, 55, 1690–1694. DOI: 1021/np50089a023
  2. Adelin, E.; Servy, C.; Martin, M. T.; Arcile, G.; Iorga, B. I.; Retailleau, P.; Bonfill, M.; Ouazzani, J. Bicyclic and Tetracyclic Diterpenes from a TrichodermaSymbiont of Taxus baccata. Phytochemistry 2014, 97, 55–61. DOI: 1016/j.phytochem.2013.10.016
  3. Zheng, H.; Felix, R. J.; Gagné, M. R. Gold-Catalyzed Enantioselective Ring-Expanding Cycloisomerization of Cyclopropylidene Bearing 1,5-Enynes. Org. Lett. 2014, 16, 2272–2275. DOI: 1021/ol5007955

山口 研究室

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