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スポットライトリサーチ

安全性・耐久性・高活性を兼ね備えた次世代型スマート触媒の開発

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第317回のスポットライトリサーチは、大阪大学大学院基礎工学研究科(水垣研究室)・山口 渉 助教 にお願いしました。

先日のスポットライトリサーチでもご紹介したとおり、生物資源(バイオマス)を工業視点から効率変換しうる固体触媒系は、持続可能な化学生産プロセス実現の観点で注目を集めています。今回紹介するのは、様々な化学原料となるマルトース(麦芽糖)を、世界最高効率にて水素還元できる固体触媒を開発したという成果です。ACS Sustainable Chemistry & Engineering誌 原著論文およびCover Pictureプレスリリースに公開されています。

“Support-Boosted Nickel Phosphide Nanoalloy Catalysis in the Selective Hydrogenation of Maltose to Maltitol”
Yamaguchi, S.; Fujita, S.; Nakajima, K.; Yamazoe, S.; Yamasaki, J.; Mizugaki, T.; Mitsudome, T.  ACS Sustainable Chem. Eng. 2021, 9,  6347–6354. doi:10.1021/acssuschemeng.1c00447

研究を現場で指揮された満留 敬人 准教授から、山口さんについて以下の人物評を頂いています。こんなマッチョな研究世界の中でも、強く生きてくださいね!(笑) それでは今回もインタビューをお楽しみください!

 気持ち悪い。こういった機会に、いいおっさんの私(44歳)がいいおっさんの山口先生(37歳)をヨイショする、定型的な言葉の羅列(優秀・研究大好き・粘り強い)を書くことが気持ち悪いです。さらに、読者の誰もがこのような茶番に心底興味がないと思うと書く気が失せます。といっても、生長先生のせっかくの好意を無下にはできないので本音を少しだけ。
山口先生はプロなので、彼が、優秀で、研究大好きで、粘り強いのは当たり前で、また、彼自身がどうありたいのか解っている人なので、とりたてて私から言うことは何もありません。山口先生は、支離滅裂な論文原稿を書いてきては私に叱り飛ばされ、翌朝には、何もなかったかのように再びヒドい原稿を躊躇なく見せに来るといった、瞬発的かつ持久的反復運動を行うため、ドM、または、何か特別な習性を持っていると思っています。山口先生は、これからも彼の自由意志に基づき、自然科学に驚き、つまずき、揺れ、迷い、そして、自身の常識が砕け散るといった、魂が動かされる研究体験を通して邁進し、その強力な推進力に、私を含め多くの学生・研究者が巻き込まれていくと思います。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

化学工業における触媒では、高い活性や選択性を示すだけでなく、耐久性や安全性などの化学プロセス全体を考慮した高性能な触媒の開発が必要です。私たちの研究グループでは、持続可能な社会の実現に向け、安全性・耐久性・高活性を兼ね備える次世代型触媒(スマート触媒)の開発を行っています。例えば、現在、化学工業で使われる水素化反応用の触媒は、安価な非貴金属を用いていますが、発火性が高く危険です。さらに、活性が不十分であるため、高温・高水素圧を必要とします。一方、私たちは最近、非貴金属の結晶格子にリンを導入したナノ合金触媒を、独自の手法で開発しました。この触媒は、発火性がなく安全で、かつ温和な反応条件で様々な水素化反応を効率よく促進します。さらに、これらの触媒は、簡便に再使用を行うことができ、高い耐久性を示します。興味深いことに、リン化金属ナノ合金は非常に優れた触媒機能を有するにもかかわらず、これまで有機合成に応用した例はほとんどありませんでした。そこで私たちは、独自に開発したこの合金ナノ粒子触媒を用いて、現行の様々な水素化反応プロセスをクリーンかつ高効率な次世代型触媒プロセスへ代替していこうと考えています。
今回私たちは、ニッケルとリンを合金化した直径5ナノメートルサイズのナノ粒子(nano-Ni2P)をマグネシウムとアルミニウムの複水酸化物であるハイドロタルサイト(HT: Mg6Al2(OH)16CO3·4H2O)と複合化した触媒(nano-Ni2P/HT、図1)を開発し、マルトース(麦芽糖)からマルチトール(還元麦芽糖)の還元反応に高活性を示すことを見出しました(図2)。食品添加物や甘味料として使われるマルチトールは、同じ糖アルコールであるソルビトールに次ぐ需要を持つ高付加価値の機能性化学品であり、マルトースの水素化反応は、マルチトールを合成する最も重要な反応です。

 nano-Ni2P/HTはこれまでの工業触媒と異なり、発火性がなく空気中で安定に取り扱うことができ、温和な反応条件下でマルトースを還元し、これまでに報告されている非貴金属触媒の中で最も高い効率で対応するマルチトールを与えます。世界で初めて常温下または常圧水素下においてマルトースの水素化反応を促進し、その活性は貴金属であるルテニウム触媒に匹敵します。また、本触媒は実用的な観点から重要である高濃度のマルトース溶液(50 wt%)にも適用できます。さらに、開発した触媒は、反応溶液から容易に分離ができ、回収した触媒を再びマルトースの水素化反応に用いても触媒の活性低下は見られず、高活性を維持したまま繰り返し使用できることがわかりました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

工夫というより、思い付きでリン化ニッケルとHTを複合化したnano-Ni2P/HTを用いてマルトースの還元反応を試したところ、出てきたHPLCチャートをみて驚きました!原料は完全に消え、生成物のみが検出されました。また興味深いことに、リン化ニッケルを単独で用いた場合と比べて、目的生成物の収率が300倍以上も向上しています。この触媒には何かとてつもない力が備わっているな、と実感できた瞬間でもありました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

上述しましたが、なぜリン化ニッケルとHTを複合化すると異常に高い触媒活性が発現したのか?その触媒機能の発現因子の解明が難しかったです。所属研究室の水垣教授、満留准教授の協力の下、様々な分光学的手法を検討し、構造-活性相関の解明を目指しました。その結果、配位不飽和サイトを多く有するリン化ニッケルナノ合金が水素を活性し、ハイドロタルサイトが基質のカルボニル基を活性化する、多元素協働触媒作用が界面近傍で発現することによって、反応が効率的に促進することが明らかになりました(図3)。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

私は学生時代に天然物化学を専門としてきました。そして今は(固体)触媒化学に取り組んでいます。これまでの経験に基づいた、自分ならではの視点を大切にしながら、学生たちともっとすごい・ワクワクする触媒研究をしていきたい、という思いをもっています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私は博士取得後、大学での研究機会を頂きましたが、その後企業に転出し、昨年度から再び大学に戻るチャンスを得ることができました。一度きりの研究者人生!悔いの残らぬよう研究したいと思い、再び大学に戻る決心をしました(でもやっぱり転居続きで家族には申し訳なかったけれども…)。会社と大学どちらも経験してきて今改めて思うのは、大学での研究は、自分の人生を懸けて取り組むことができる、非常にやりがいのある仕事だということです。そして今、研究に思い切り取り組める素晴らしい環境があります。学生の皆様にも、本気になって取り組める、完全燃焼できる事を見つけてほしいです。

最後に、このような機会を与えてくださったChem-Stationスタッフの皆様にも深謝申し上げます。

研究者の略歴

名前:山口 渉
所属(大学・学部・研究室):大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻化学工学領域触媒設計学グループ・水垣研究室
研究テーマ:環境調和型液相分子変換反応を指向した高活性固体触媒開発
経歴:
2007年: 東京工業大学工学部化学工学科 卒業
2012年: 東京工業大学大学院理工学研究科応用化学専攻(高橋孝志教授) 博士課程修了 博士(工学)
2012年4月-2012年12月: 日本学術振興会 海外特別研究員(PD)
ドイツマックスプランク分子生理学研究所 訪問研究員(Herbert Waldmann教授)
2013年1月-2016年3月: 東京工業大学大学院総合理工学研究科化学環境学専攻 助教(馬場俊秀教授)
2016年4月-2017年5月: 東京工業大学物質理工学院応用化学系 助教
2017年6月-2020年3月: 豊田中央研究所 研究員(稲垣伸二シニアフェロー)
2020年4月-: 大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻 助教(水垣共雄教授)

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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