[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

Cleavage of Carbon-Carbon Single Bonds by Transition Metals

[スポンサーリンク]

 

内容

Edited by leading experts and pioneers in the field, this is the first up-to-date book on this hot topic.
The authors provide synthetic chemists with different methods to activate carbon-carbon sigma bonds in organic molecules promoted by transition metal complexes. They explain the basic principles and strategies for carbon-carbon bond cleavage and highlight recently developed synthetic protocols based on this methodology. In so doing, they cover cleavage of C-C bonds in strained molecules, reactions involving elimination of carbon dioxide and ketones, reactions via retroallylation, and cleavage of C-C bonds of ketones and nitriles.
The result is an excellent information source for researchers in academia and industry working in the field of synthetic organic chemistry, while equally serving as supplementary reading for advanced courses in organometallic chemistry and catalysis.

(ワイリーHPより)

 

対象

大学院生以上、有機化学者

 

解説

炭素ー炭素(C–C)結合活性化反応に関する書籍。全271ページ。現在行っている研究が本分野に近いため、興味をもち購入。類似本にSpringerから発行されている「C-C Bond Activation」がある。編者はこの分野の第一人者である京都大学村上正浩教授と大阪大学茶谷直人教授である。著者はすべて日本人であり、国際的な英語で書籍をつくる意義は重々承知な上で、日本語で書いてもいいのではと思った。

2015-12-06_15-50-38

村上教授と茶谷教授

 

さて、そもそも、分子の「結合活性化」という分野は日本の有機化学者が中心となって進めている一大研究分野であり、最近まで茶谷教授を領域代表とした新学術領域「分子活性化」で多くの研究者が本研究に参画していた(関連書籍レビュー:【書籍】合成化学の新潮流を学ぶ:不活性結合・不活性分子の活性化)。

全世界を含めてもっとも精力的に行われていたのが、(遷移金属)触媒により分子に普遍的に存在する炭素ー水素(C–H)結合を活性化する「(触媒的)C–H結合活性化」反応。

大阪大学の村井 眞二名誉教授が1993年に提唱した本関連研究は、ここ数年で急速に普及し、現在、有機金属および有機反応の学会に参加すると半分近くの研究者がこの分野の研究を行っていることがわかる。このような多くの研究者の努力の末、かなり実用的な域に達している反応も見受けられる。

対して分子の主骨格であるC–C結合を触媒的に活性化する反応は、C–H結合活性化同様、かなり古くから研究が行われているにもかかわらず、いまだ活性しやすい特殊な化合物に限られ、発展途上である。

より一層の有機化学者の力が試され、注力すべき分野だと思われる。C–C結合活性化反応には広義には脱炭酸反応、脱カルボニル化反応、オゾン分解オレフィンメタセシス、金属錯体上の炭素ー炭素結合活性化などあるが、主に(遷移金属)触媒でC-C単結合を活性化反応することをいう。本書もこの範囲でのC-C結合活性化反応研究をとりあげている。

 

本書は8章構成であり、

  1. 遷移金属触媒をもちいた炭素ー炭素σ結合開裂のための基本的反応
  2. 三員環化合物との反応
  3. 四員環化合物との反応
  4. 脱炭酸や脱ケトンを含む反応
  5. レトロアリル化と脱アリル化反応
  6. ケトンとニトリルの炭素ー炭素結合開裂を伴う反応
  7. その他分類できないC–C結合活性化反応
  8. C-C結合活性化反応をもちいた生物活性物質の合成

となっている。第一章は教科書的なC-C結合の結合エネルギー、遷移金属触媒に対する酸化的付加を述べている。

第二章、第三章では分子自身の歪みにより炭素ー炭素結合が活性化されやすい、三員環、四員環化合物との反応だ。

第四章では、遷移金属触媒を使った脱炭酸、脱ケトンを伴うカップリング変換反応を説明している。

第5章はレトロアリル化であり、これは炭素ー炭素結合活性化反応なのか?という疑問があるが、遷移金属触媒を用いている点では逆アルドール反応などとは異なるのであろう。

第6章では主にニトリル類の炭素ー炭素開裂反応を伴う反応をとりあげている。一時期大変注目された反応群だ。第7章では分類できないもの、そして、第8章では炭素ー炭素結合活性化反応を用いた生物活性物質の合成を紹介している。

何れにおいても、先駆的な成果は報告されているが、実用的な反応の飛躍のためには、より一層の有機合成化学者の努力が必要であり、今後発展すべき分野と思われる。力量のある合成化学者は、是非とも、現在の炭素ー炭素結合活性化反応の状況を体系的に学んで、本分野に参画をオススメする。

 

本書の一部

本書の一部

 

ちなみにケムステのC-C結合活性化に関する記事は以下の通り。

 

関連書籍

 

外部リンク

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている
  2. フィンランド理科教科書 化学編
  3. Dead Ends And Detours: Direct Wa…
  4. ベーシック反応工学
  5. 研究者/研究力
  6. 医薬品天然物化学 (Medicinal Natural Prod…
  7. Greene’s Protective Groups…
  8. The Merck Index: An Encyclopedia…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. アミン存在下にエステル交換を進行させる触媒
  2. 化学系必見!お土産・グッズ・アイテム特集
  3. エルマンイミン Ellman’s Imine
  4. 個性あるTOCその③
  5. 「糖化学ノックイン」の世界をマンガ化して頂きました!
  6. 二酸化セレン Selenium Dioxide
  7. ノーベル化学賞を受けた企業人たち
  8. イオン液体のリチウムイオン電池向け電解液・ ゲル電解質への応用【終了】
  9. 【2021年卒業予定 修士1年生対象】企業での研究開発を知る講座
  10. 【インドCLIP】製薬3社 抗エイズ薬後発品で米から認可

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年12月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

フローマイクロリアクターを活用した多置換アルケンの効率的な合成

第610回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院理学研究科(依光研究室)に在籍されていた江 迤源…

マリンス有機化学(上)-学び手の視点から-

概要親しみやすい会話形式を用いた現代的な教育スタイルで有機化学の重要概念を学べる標準教科書.…

【大正製薬】キャリア採用情報(正社員)

<求める人物像>・自ら考えて行動できる・高い専門性を身につけている・…

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP