[スポンサーリンク]

一般的な話題

化学者のためのエレクトロニクス講座~配線技術の変遷編

[スポンサーリンク]

このシリーズでは、化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLEDなど、エレクトロニクス産業で活躍する化学や材料のトピックスを詳しく掘り下げて紹介します。今回は半導体内部の配線技術の変遷を取り上げます。

chip

chip

半導体チップ(画像:pixabay)

アルミニウム配線の時代(~1990年代)

プロセス技術の発展に伴って半導体ウエハの微細加工が容易になりましたが、その内部配線の形成は依然として課題でした。

1958年にテキサス・インスツルメンツ社(米)のジャック・キルビーがシリコンのみからなる集積回路(モノリシックIC)を発明しました(キルビー特許)が、素子間の接続は単に金線のボンディングで結んだだけでした。これは振動などの機械的な衝撃に対して不安定な構造でした。

この問題を解決したのは、後にIntel社を設立することになるフェアチャイルド社(米)のロバート・ノイスでした。彼はキルビーの発明に遅れること半年の1959年に、モノリシックIC上のSiO2絶縁膜上にアルミニウムAl薄膜を蒸着することで素子間の導通を図りました。彼の特許(プレーナ特許)は今日の半導体製造の基礎となるものです。

初期の半導体配線の例(画像:Wikipedia

Alは比抵抗が銀、銅、金についで低いほか、コストや耐酸化性、SiO2との良好な密着性などを備えており、電極材料として最適でした。

しかし微細化が進むにつれ、シリコンとの界面での相互拡散や、自由電子が金属原子と衝突して運動エネルギーを与えることで配線の断線に至るエレクトロマイグレーション(EM)が無視できなくなります。そこで配線材料のAlにシリコンや銅などの不純物を微量添加することが試みられましたが、従来の蒸着法では添加量の制御が困難であったことから、1970年代後半にはスパッタによる成膜が主流となりました。

こうして3%ほどのシリコンを添加したAlによる配線は1970年代以降長らく使われましたが、さらなる微細化の進展によってEM耐性の向上と抵抗値の低減による信号遅延と消費電力の抑制が急務となりました。

銅ダマシンめっきの確立

そこでアルミニウムに代わる配線材料として脚光を浴びたのがでした。銅は銀に次いで電気抵抗が低く、Alの2/3程度しかありません。さらにEM耐性の指標である許容電流密度がAlより一桁近く高いこと、銀や金に比べて安価であることなど多くの利点がありました。

しかしながら、銅はAlとは異なり、プラズマエッチングによるパターニングが難しく、これが実用化の障壁となっていました。

その打開のために発展したのが、ダマシンと呼ばれるめっき技術です。

ダマシンとはまたの名を象嵌といい、溝や穴などの微細な凹部を埋めるようにめっきする手法です。シリアの首都、ダマスカスにおける工芸品の製造プロセスによく似ていることにちなんで命名されたといわれます。

しかし、この技術の開発にも並々ならぬ困難がありました。

めっきによる金属の析出は、反応種の金属イオンが拡散で到達しやすい電極の凸部ほど起こりやすいのが一般的です。極端な例としては、樹枝状に析出した金属樹が挙げられます。

銅樹(画像:Wikipedia

しかしダマシンにおいてはその逆で、凹部ほど速く析出させる必要があります。この析出の制御を可能とするのが、めっき浴に微量加えられる添加剤です。基本的には微細な空孔に入り込みやすい低分子の添加剤が析出促進を、入りにくい大きな分子が阻害を担うことによって凹凸を埋めるように析出が進行します。

現在広く用いれている銅めっき浴のうち代表的なものに硫酸銅(II)をベースとする硫酸銅浴がありますが、これに添加されているのは主に以下の3種類です。

①ノニオン系界面活性剤:Cl存在下で中間体のCu+を捕捉して電極上に単分子吸着し、析出を阻害する。

ex) PEGなど

②光沢剤:結晶核の成長点に吸着することで大きな結晶が成長するのを阻害し、新たな結晶核の発生を促進する。さらに、めっき皮膜中に取り込まれずに残存することで、表面積が漸減する凹部に集中して水素の吸着を阻害することで、結果的に凹部での析出を促進する。

ex) bis (3-sulfopropyl)disulfidedisodium(SPSなどの有機硫黄化合物

③レベラー:電極への吸着が拡散律速であるため凸部に選択的に吸着し、析出を阻害する。

ex) ヤヌスグリーンB (JGB)など

このほか、ピロリン酸銅(II)をベースとするピロリン酸銅浴には②のSPSの代わりにジメルカプトチアジアゾール(DMTDなどが供されています。

これからのダマシン技術

さらなる微細化に伴い銅濃度の低減による析出精度の向上が図られていますが、このような条件においてはめっき皮膜中にボイドが形成されやすく、これが信頼性維持の課題となっています。ボイドは皮膜に共析したPEGが原因となっていることも多く、その克服が待たれます。

また、半導体配線は絶縁体のSiO2膜などの上に形成することから、全工程を無電解めっきのみで完結させることができれば最も合理的です。現在ULSI配線向けにCo2+を還元剤として用いる無電解銅めっきの開発が急がれています。

ということで、アルミニウムから銅へと代替された半導体配線の歴史をご覧いただきました。次回は次世代の配線材料について特集しますのでお楽しみに!

関連リンク

日本半導体歴史館

PC Watch

関連書籍

[amazonjs asin=”4526053732″ locale=”JP” title=”次世代めっき技術―表面技術におけるプロセス・イノベーション”] [amazonjs asin=”4526045225″ locale=”JP” title=”表面処理工学―基礎と応用”] [amazonjs asin=”4526049964″ locale=”JP” title=”電子部品のめっき技術”]
gaming voltammetry

berg

投稿者の記事一覧

化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

関連記事

  1. さよならGoogleリーダー!そして次へ…
  2. 自己組織化ねじれ双極マイクロ球体から円偏光発光の角度異方性に切り…
  3. 日本化学会 第100春季年会 市民公開講座 夢をかなえる科学
  4. 【日産化学】画期的な生物活性を有する新規除草剤の開発  ~ジオキ…
  5. 夏休みのおでかけに最適! 化学にまつわる博物館5選 ~2024年…
  6. 化学物質だけでiPS細胞を作る!マウスでなんと遺伝子導入なしに成…
  7. 宇宙で結晶化!? 創薬研究を支援する結晶生成サービス「Kira…
  8. 化学のあるある誤変換

注目情報

ピックアップ記事

  1. ギンコライド ginkgolide
  2. NMRのプローブと測定(Bruker編)
  3. 【25卒 化学業界企業合同説明会 8/29(火)・30(水)・9/5(火)・6(水) Zoomウェビナー開催!】化学系学生のための就活
  4. 緑色蛍光タンパク Green Fluorescent Protein (GFP)
  5. UCLAにおける死亡事故で指導教授が刑事告訴される
  6. 研究室でDIY! ~明るい棚を作ろう~
  7. 新型コロナの飲み薬モルヌピラビルの合成・生体触媒を用いた短工程化
  8. 【PR】 Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【スタッフ募集】
  9. 産総研で加速する電子材料開発
  10. 有賀先生に質問しよう!!【第29回ケムステVシンポ特別企画】

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

熊谷 直哉 Naoya Kumagai

熊谷 直哉 (くまがいなおや、1978年1月11日–)は日本の有機化学者である。慶應義塾大学教授…

マシンラーニングを用いて光スイッチング分子をデザイン!

第657 回のスポットライトリサーチは、北海道大学 化学反応創成研究拠点 (IC…

分子分光学の基礎

こんにちは、Spectol21です!分子分光学研究室出身の筆者としては今回の本を見逃…

ファンデルワールス力で分子を接着して三次元の構造体を組み上げる

第 656 回のスポットライトリサーチは、京都大学 物質-細胞統合システム拠点 (iCeMS) 古川…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP