[スポンサーリンク]

chemglossary

二重可変領域抗体 Dual Variable Domain Immunoglobulin

[スポンサーリンク]

抗体医薬はリウマチやガンなどの難治性疾患治療に有効であり、現在までに活発に開発が進められてきた。
一方で疾患は一つの原因のみから生じるものではなく、複数の病因タンパクが1つ~複数の生体内経路を活性化させていることが原因となっていることも多い。この場合には、複数の病因タンパクを同時に標的とする必要が生じる。しかしながら、そのために抗体医薬を複数併用することは、薬物間相互作用の恐れや価格的問題などを理由に制限がかかってしまう。複数の抗原を認識できる抗体の開発も行われてきているが、合成難度の高さや動態制御などが問題であった。

この問題解決のために、2007年にAbbott社によって開発されたのが二重可変領域抗体(Dual Vaiable Domain Immunogloblin, DVD-Ig)である[1]。仕組みは単純で、ある抗体の可変領域の先に別の抗体の可変領域をリンカーを介して融合させることで、2種類の抗原に対し結合できるようにしている。


DVD-Igは以下の特徴を有しており、現在も臨床利用に向けた研究が進んでいる[2]。
・オリジナルの抗体とほぼ同等の抗原親和性を持つ
・二つの抗原に同時に結合できる
・オリジナルの抗体と比べ体内動態もほとんど変化しない
・オーバーラップ伸長PCR法[3]で比較的簡便に必要なDNA配列を合成できる
・哺乳動物細胞に発現させる際、通常の抗体と比べ産生量が落ちない

(冒頭図はこちらより引用・改変)

関連論文

  1. Wu, C.; Ying, H.; Grinnell, C.; Bryant, S.; Miller, R.; Clabbers, A.; Bose, S.; McCarthy, D.; Zhu, R.-R.; Santora, L.; Davis-Taber, R.; Kunes, Y.; Fung, R.; Schwartz, A.; Sakorafas, P.; Gu, J.; Tarcsa, R.; Murtaza, A.; Ghayur, T. Nat. Biotechnol. 2007, 25, 1290. doi:10.1038/nbt1345
  2. Sheridan, C. Nat. Biotechnol. 2015, 33, 219. doi:10.1038/nbt0315-219
  3. Horton, R. M.; Hunt, H. D.; Ho, S. N.; Pullen, J. K.; Pease, L. R. Gene 1989, 77, 61. doi:10.1016/0378-1119(89)90359-4
  4. Kontermann, R. E.; Brinkmann, U. Drug Discov. Today 2015, 20, 838. doi:10.1016/j.drudis.2015.02.008

関連書籍

[amazonjs asin=”4758125090″ locale=”JP” title=”実験医学 2018年7月 Vol.36 No.11 次世代抗体医薬の衝撃〜新たな標的・新たな機序によりいま再び盛り上がる抗体創薬”][amazonjs asin=”4759815090″ locale=”JP” title=”バイオ医薬品: 開発の基礎から次世代医薬品まで (DOJIN BIOSCIENCE)”][amazonjs asin=”B00F77K0G0″ locale=”JP” title=”Bispecific Antibodies”]

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ヤーン·テラー効果 Jahn–Teller effects
  2. 水分解 water-splitting
  3. GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)
  4. 分子モーター Molecular Motor
  5. 特殊ペプチド Specialty Peptide
  6. GRE Chemistry
  7. O-脱メチル化・脱アルキル化剤 基礎編
  8. 振動円二色性スペクトル Vibrational Circular…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 人工DNAから医薬をつくる!
  2. マテリアルズ・インフォマティクスの導入・活用・推進におけるよくある失敗とその対策とは?
  3. ホウ素と窒素で何を運ぶ?
  4. 薗頭・萩原クロスカップリング Sonogashira-Hagihara Cross Coupling
  5. 鬼は大学のどこにいるの?
  6. 早稲田大学各務記念材料技術研究所「材研オープンセミナー」
  7. フラノクマリン -グレープフルーツジュースと薬の飲み合わせ-
  8. 少量の塩基だけでアルコールとアルキンをつなぐ
  9. マテリアルズ・インフォマティクスの推進を加速させるためには?
  10. 可視光光触媒でツルツルのベンゼン環をアミノ化する

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年7月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP