[スポンサーリンク]

ケミカルバイオロジー

佐藤 伸一 Shinichi Sato

[スポンサーリンク]

佐藤伸一は、タンパク質の化学修飾を主軸として、ケミカルバイオロジー分野の研究を行っている。日本の有機合成化学者である。東北大学学際科学フロンティア研究所 助教。

経歴

2006 明治薬科大学 薬学部 製薬学科 卒業
2011 東京大学大学院 薬学系研究科 博士後期課程 修了 (橋本祐一教授)
2011 The Scripps Research Institute 博士研究員 (Carlos F. Barbas III教授)
2012 学習院大学 理学部化学科 助教 (中村浩之教授)
2014 東京工業大学 資源化学研究所 助教 (中村浩之教授)
2016 東京工業大学 科学技術創成研究院 助教 (中村浩之教授)
2020 東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教 (独立ポスト、メンター教員:石川稔教授)

受賞歴

2021 日本薬学会 奨励賞
2018 日本薬学会 関東支部 奨励賞
2018 東京工業大学 挑戦的研究賞
2018 日本化学会 第32回若い世代の特別講演会講演証
2015 第25回リバネス研究費多摩川精機賞
2014 有機合成化学協会 味の素研究企画賞

研究業績

研究テーマ1 : チロシン残基の化学修飾

チロシン残基(Tyr)は(1)リン酸化をはじめとする多様な翻訳後修飾の基質として知られ、生体内のシグナル伝達を担っている、(2)タンパク質配列中において存在量は少ないが相互作用界面に濃縮されており、分子認識への寄与が大きい、(3)レドックス活性があり、チロシルラジカル形成を介して生体内の電子移動を媒介している、といった特徴を有した多機能性のアミノ酸残基である。従来のTyr修飾法においては、残基選択性やタンパク質への適用性において課題があり、佐藤は実用的な方法の開発を目指している。

佐藤らはラジカル反応によって、Tyrと低分子化合物の間に共有結合を形成させる反応の開発を行ってきた。光レドックス触媒を使ったTyr修飾反応は代表的な業績1)であるが、それ以外にも、ヘミン2)、horseradish peroxidase(HRP)3)、laccase4)、電気化学5)を使った反応を開発している。さらに、触媒の検討だけなく、効率的にTyrと共有結合を形成させる試薬(タンパク質修飾剤)の開発に取り組んでいる。中でも、ルミノール発光反応から着想を受けたN-Me Lumiは高いTyr選択性でタンパク質を修飾できることや2)、1-methyl-4-arylurazole(MAUra;モーラ)は触媒の周辺数ナノメートルの近接環境で選択的に機能するタンパク質修飾剤であることを明らかにしている6)

研究テーマ2 : ヒスチジン残基の化学修飾

ヒスチジン残基(His)は(1)金属配位性をもち、(2)酸塩基反応を触媒し、酵素の活性中心において重要な役割を担っている。Hisへの選択的化学修飾の報告例は少なく、未だ不明な点の多いHisのメチル化、リン酸化などの翻訳後修飾解明の観点においても有用なHis選択的修飾法の開発が望まれている。

佐藤らは、光触媒を用いたTyr修飾法開発の過程で、触媒から生じる一重項酸素(1O2)がHisを酸化し、1O2とHisのDiels-Alder反応の結果により生じる、求電子性の反応中間体が求核剤として働くMAUraによって捕捉されることを見出した7。また、ケミカルバイオロジー研究で蛍光プローブとして汎用されるBODIPY(boron-dipyrromethene)が1O2産生を介して、His修飾反応の触媒として機能することを見出した8),9)。最近では、一電子移動触媒能と1O2産生能のスイッチング、近赤外光を活用したHis修飾研究等に取り組んでいる。

研究テーマ3 : 高反応性化学種を活用した触媒近接標識

一電子移動反応は生理的な反応条件下では1.4 nm以内の制限された空間で進行するとされている10)。また、一電子移動反応の結果生じるラジカル種は高反応の化学種であり、生理条件下においてミリ秒スケール以下の短寿命性が予想されるため11)、触媒分子周辺数ナノメートルの近接環境で選択的に進行するタンパク質修飾反応を開発できると考えた。一電子移動反応を触媒する光触媒と特定のタンパク質に結合する生物活性分子を連結した分子を作製し、狙いのタンパク質の周辺環境でタンパク質修飾反応を制御することに成功した1),6),12)13)(下図上段)。また、HRPの酵素活性中心でのラジカル種生成を考えると、酵素活性中心にアクセスできるTyr残基が優先的に修飾されるため、タンパク質表面に露出したTyrが選択的に修飾されると考えられる。Tyrは疎水性構造であるため、タンパク質表面に露出するTyrは限定的である。特にIgG抗体構造では相補性決定領域(CDR)に限定されることに注目し、CDR選択的なTyr修飾に成功した5),14)(下図中段)。

1O2もまた、マイクロ秒スケールの短寿命性を持つ高反応性化学種であるため、1O2を産生する触媒分子の近傍で、His残基修飾反応が完結する。磁気ビーズ上の構築した反応場7)(下図下段)や、Fc結合性ペプチドに連結したBODIPY8)を用いることで、抗体のFc領域選択的His修飾にも成功している。

名言集

座右の銘は
「小才は縁に出会って縁に気付かず、中才は縁に気付いて縁を生かせず、大才は袖すり合った縁をも生かす。」(柳生新陰流の柳生家の家訓です)
研究者との出会い、些細な研究結果の縁も見逃さず、良い研究をしたいという自分への教訓です。

関連動画

Vシンポの動画は後日公開時に掲載致します!

関連文献

[1] Sato, S.; Nakamura, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 8681. DOI: 10.1002/anie.201303831.
[2] Sato, S.; Nakamura, K.; Nakamura, H. ACS Chem. Biol. 2015, 10, 2633. DOI: 10.1021/acschembio.5b00440.
[3] Sato, S.; Nakamura, K.; Nakamura, H. ChemBioChem 2017, 18 , 475. DOI: 10.1002/cbic.201600649.
[4] Sato, S.; Nakane, K.; Nakamura, H. Org. Biomol. Chem. 2020, 18, 3664. DOI: 10.1039/d0ob00650e.
[5] Sato, S.; Matsumura, M.; Kadonosono, T.; Abe, S.; Ueno, T.; Ueda, H.; Nakamura, H. Bioconjug. Chem. 2020, 31, 1417–1424. DOI: 10.1021/acs.bioconjchem.0c00120.
[6] Sato, S.; Hatano, K.; Tsushima, M.; Nakamura, H. Chem. Commun. 2018, 54, 5871. DOI: 10.1039/C8CC02891E.
[7] Nakane, K.; Sato, S.; Niwa, T.; Tsushima, M.; Tomoshige, S.; Taguchi, H.; Ishikawa, M.; Nakamura, H. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 7726. DOI: 10.1021/jacs.1c01626.
[8] Nakane, K.; Niwa, T.; Tsushima, M.; Tomoshige, S.; Taguchi, H.; Nakamura, H.; Ishikawa, M.; Sato, S. ChemCatChem 2022, 14, e202200077. DOI: 10.1002/cctc.202200077.
[9] Nakane, K.; Nagasawa, H.; Fujimura, C.; Koyanagi, E.; Tomoshige, S.; Ishikawa, M.; Sato, S. Int. J. Mol. Sci. 2022, 23, 11622. DOI: 10.3390/ijms231911622.
[10] Page, C. C.; Moser, C. C.; Chen, X.; Dutton, P. L. Nature 1999, 402, 47. DOI: 10.1038/46972.
[11] Rhee, H.-W.; Zou, P.; Udeshi, N. D.; Martell, J. D.; Mootha, V. K.; Carr, S. A.; Ting, A. Y. Science 2013,339, 1328. DOI: 10.1126/science.1230593
[12] Sato, S.; Morita, K.; Nakamura, H. Bioconjug. Chem. 2015, 26, 250. DOI: 10.1021/bc500518t.
[13] Tsushima, M.; Sato, S.; Miura, K.; Niwa, T.; Taguchi, H.; Nakamura, H. Chem. Commun. 2022, 58, 1926. DOI: 10.1039/D1CC05764B.
[14] Sato, S.; Matsumura, M.; Ueda, H.; Nakamura, H. Chem. Commun. 2021, 57, 9760. DOI:10.1039/D1CC03231C.

関連リンク

東北大学学際科学フロンティア研究所 佐藤伸一研究グループのHP

Macy

投稿者の記事一覧

有機合成を専門とする教員。将来取り組む研究分野を探し求める「なんでも屋」。若いうちに色々なケミストリーに触れようと邁進中。

関連記事

  1. フィリップ・イートン Phillip E. Eaton
  2. 友岡 克彦 Katsuhiko Tomooka
  3. 第37回ケムステVシンポ「抗体修飾法の最前線 〜ADC製造の基盤…
  4. デイヴィッド・マクミラン David W. C. MacMill…
  5. マーク・レビン Mark D. Levin
  6. アミール・ホベイダ Amir H. Hoveyda
  7. エリック・メガース Eric Meggers
  8. パット・ブラウン Patrick O. Brown

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機合成化学協会誌2021年12月号:人工核酸・Post-complexation functionalization・芳香環の触媒的不斉水素化・ルテニウムカーバイド錯体・無溶媒触媒反応
  2. 水の電気分解に適した高効率な貴金属フリーの電極が開発される:太陽光のエネルギーで水素を発生させる方法
  3. 奇跡の素材「グラフェン」を使った世界初のシューズが発売
  4. 試薬会社にみるノーベル化学賞2010
  5. 新課程視覚でとらえるフォトサイエンス化学図録
  6. 超塩基に匹敵する強塩基性をもつチタン酸バリウム酸窒化物の合成
  7. 有機合成化学協会誌2020年10月号:ハロゲンダンス・Cpルテニウム–Brønsted酸協働触媒・重水素化鎖状テルペン・エラスティック結晶・複核ホウ素ヘテロ環
  8. Sulfane sulfur が生み出す超硫黄分子
  9. 藤多哲朗 Tetsuro Fujita
  10. 固体高分子電解質の基礎、材料技術と実用化【終了】

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年2月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728  

注目情報

最新記事

第61回Vシンポ「中分子バイオ医薬品分析の基礎と動向 ~LCからLC/MSまで、研究現場あるあるとその対処~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第61回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、Agilen…

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP