[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

岸 義人 Yoshito Kishi

岸 義人(きし よしと、1937年4月13日(愛知県名古屋市)-)は、アメリカ在住の有機化学者である(写真:Wikipedia)。米ハーバード大学名誉教授。米国エーザイ 副社長を兼務。

 経歴

1961 名古屋大学理学部 卒業(平田義正教授、後藤俊夫助教授)

1966 名古屋大学理学研究科博士課程修了(平田義正教授、後藤俊夫助教授)
1966-69 名古屋大学 理学部 講師
1966-1968 ハーバード大学 博士研究員(R. B. Woodward教授)
1969-74 名古屋大学 農芸化学部 助教授
1972-73 ハーバード大学客員教授
1974 ハーバード大学 教授
1982- ハーバード大学教授(Morris Loeb Professor of Chemistry)
1989-92 ハーバード大学化学科主任(Chairman for the Department of Chemistry)
1997 ハーバード大学特任教授(Morris Loeb Research Professor of Chemistry)

兼任
1997 Eisai Research Insistute Chairman
Eisai Co, Ltd. Board of Director, Chief Scientific Advisor, CED
2010 名古屋大学特別教授

受賞歴

1967 日本化学会進歩賞
1973 中日文化賞
1980 アメリカ化学会 創造的有機合成化学賞
1980 グッゲンハイム フェローシップ
1981 Harrison Howe Award
1988 アーサー・C・コープ スカラー賞
1988 Javits Neuroscience Investigator Award
1993 内藤記念科学振興賞
1995 名古屋メダル
1995 プレローグメダル
1996 Havinga Medal
1999 恩賜賞・日本学士院賞
2001 文化功労者
2001 アメリカ化学会賞(the ACS Ernest Guenther Award in the Chemistry of Natural Products )
2001 テトラヘドロン賞
2009 有機合成化学協会特別賞

研究概要

海洋産天然物の全合成を通じた有機合成・天然物化学への貢献

神経毒(palytoxin, tetrodotoxin, saxitoxin, batrachotoxin, pinnatoxin A)、ポリエーテル系抗生物質(monensin, lasalocid A, salinomycin/narasin)、アンサマイシン系抗生物質(rifamycin S)、抗腫瘍活性天然物(halichondrins, mitomycins)、発癌プロモーター(aplysiatoxins)、二次代謝物(gliotoxins, sporidesmins)、その他(ophiobolins, Cypridina luciferin)など多数の天然物の全合成を達成。またパリトキシン、海ホタルルシフェリン、マイトマイシンなどの天然物構造決定にも貢献している。

中でも彼が圧倒的なスピードで全合成を完了したパリトキシン[1]・テトロドトキシン[2]・サキシトキシン[3]・ハリコンドリンB[4]・マイトマイシン[5]・バトラコトキシニン[6]などは、現代的な合成技術をもってしても化学合成がきわめて難しいものばかりである。

halicondrinB.gif

mitomycinC.gifTTX.gifSTX.gif

palytoxin.gif

パリトキシンは人類によって化学合成された構造確定済天然物としては最大のサイズを誇り、不斉炭素も64個存在し、単一立体異性体として合成することは当時の疑いない最先端課題であった。彼は合成経路にアリル1,3-反発などを巧みに組み込んだ鎖状化合物の立体制御法を活用し、これらの問題を統一的に解決している。

最近ではポリオール系化合物の構造決定に利用できるNMRデータベースの開発研究も行っている。

 

野崎-檜山-岸カップリング反応の開発

大きなパーツ同士を化学選択的に結合できるフラグメントカップリング反応は、合成経路の収束化を促すことで、合成効率の劇的な向上をもたらすことになる。

京都大学の野崎・檜山らの報告したクロム(II)を用いる穏和な還元的カップリング反応に対し、微量のニッケル金属の共存が重要であることを突き止めたうえで最適条件を確立[7]。現在では野崎-檜山-岸(NHK)カップリング反応という人名反応として広く認知されている。

kncoup2.gif

また岸教授は巨大天然物合成の鍵反応として本反応を自ら多用しており、その力量は余すこと無く実証されている。

例えば以下はハリコンドリン部分構造の化学合成の俯瞰図だが、多数回の不斉NHK反応が実際に使用されている[8]。

Yoshito_Kishi_4.gif

抗ガン剤ハラヴェン(エリブリン、E7389)の開発と実用化

自ら成し遂げたハリコンドリンBの全合成から、右半分の部分構造が強い抗ガン活性と良好な医薬特性を持つことを発見。エーザイ社との共同研究によってこれをラージスケールで合成、様々な試験を経たのち、転移性乳がんなどに適用を持つ抗ガン剤(商品名ハラヴェン)として市販することに成功した。これほどまでに複雑な構造を持つ人工化合物を大量合成し、実用医薬として成立させた例は人類史上はじめてのことである。

この前人未踏の偉業は、天然物の単離構造決定→その全合成→医薬への応用というプロセスで達成されており、いずれのステージにも日本人化学者が多大なる貢献を果たしている。天然物化学界のサクセスストーリーとして物語られる。

halaven.gif

コメント&その他

1. その卓越した合成能力が評価され、100年に一度の天才と称されるロバート・ウッドワードの後継者としてハーバード大学教授職に抜擢された、日本を代表する科学者の一人です。
2. 標的とする化合物の難度に比していとも簡単に合成しているように思えるほど、出来上がってくる合成経路は美しく芸術的。しかしその裏には合成化学者の不断の努力が詰まっている。特に岸研究室は非常に厳しい研究室として有名でもある。
3. 多くの著名な日本人研究者が岸研究室で研究経験を持つ(学生を含めて約60人)。代表的な化学者として、檜山爲次郎 (京大、現中央大)、橋本俊一(北大)、中田忠(理研、現東理大)、鈴木正昭(理研)など。
4. 名古屋大学大学院 創薬科学研究科の福山透教授は、4年生時~博士研究員まで岸研究室に在籍。マイトマイシンCやテトロドトキシンの全合成研究において多大な貢献をした。当時の研究室生活は自伝「研究者ノート」に臨場感をもってまとめられている。
5. 1965年に天然有機化合物討論会で発表された予稿集「ウミホタルルシフェリンの構造について」は岸義人、後藤敏夫、平田義正下村脩とすばらしいメンバーが名を連ねている。

名言集

関連文献

  1. (a) Kishi, Y. et  al. J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 7530. doi:10.1021/ja00201a038 (b) Kishi, Y. et al. J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 11205. DOI: 10.1021/ja00103a065 (c) Kishi, Y. Tetrahedron 200258, 6239. DOI: 10.1016/S0040-4020(02)00624-5
  2.  (a) Kishi, Y. et al. J. Am. Chem. Soc. 1972, 94, 9217. DOI: 10.1021/ja00781a038 (b) 岸義人、有機合成化学協会誌 1974, 32, 855. doi:10.5059/yukigoseikyokaishi.32.855
  3. (a) Tanino, H.; Nakata, T.; Kaneko, T.; Kishi, Y. J. Am. Chem. Soc. 197799, 2818. DOI: 10.1021/ja00450a079 (b) Kishi, Y. Heterocycles 1980, 14, 1477. DOI: 10.3987/R-1980-10-1477 (c) Hong, C. Y.; Kishi, Y.  J. Am. Chem. Soc. 1992, 114, 7001. DOI: 10.1021/ja00044a008
  4. (a) Kishi, Y. et al. J. Am. Chem. Soc. 1992114, 3162. DOI: 10.1021/ja00034a086
  5. Kishi, Y. J. Nat. Prod. 1979, 42, 549. DOI: 10.1021/np50006a001
  6. (a) Kurosu, M.; Marcin, L. R.; Grinsteriner, T. J.; Kishi, Y. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 6627.  doi:10.1021/ja981258g (b) 黒須三千夫, 岸義人 有機合成化学協会誌 2004, 62, 1205. doi: 10.5059/yukigoseikyokaishi.62.1205
  7. (a) Okude, Y.; Hirano, S.; Hiyama, T.; Nozaki, H. J. Am. Chem. Soc. 197799, 3179. DOI:10.1021/ja00451a061  (b) Jin, H.; Uenishi, J.; Christ, W. J.; Kishi, Y. J. Am. Chem. Soc. 1986108, 5644. DOI:10.1021/ja00278a057 (c) Takai, K.; Tagashira, M.; Kuroda, T.; Oshima, K.; Utimoto, K.; Nozaki, H. J. Am. Chem. Soc. 1986108, 6048. DOI: 10.1021/ja00279a068
  8. Kishi, Y. et al. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 15636.DOI: 10.1021/ja9058475
  9. Eisai Inc. Synlett 2013, 24, 323, 327, 333.
  10. “Research Summary of Kishi Group” Heterocycles 2007, 72, 7. DOI: 10.3987/2007-72-0007

関連書籍

外部リンク

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ハーバート・ブラウン Herbert C. Brown
  2. ルーベン・マーティン Ruben Martin
  3. 平田 義正 Yoshimasa Hirata
  4. クラウス・ミューレン Klaus Müllen
  5. クラーク・スティル W. Clark Still
  6. 福山透 Tohru Fukuyama
  7. アルバート・エッシェンモーザー Albert Eschenmos…
  8. オマー・ヤギー Omar M. Yaghi

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ハンチュ エステルを用いる水素移動還元 Transfer Hydrogenation with Hantzsch Ester
  2. 論文をグレードアップさせるーMayer Scientific Editing
  3. 本当の天然物はどれ?
  4. ブルース・ギブ Bruce C. Gibb
  5. クロスカップリングはどうやって進行しているのか?
  6. サリドマイドが骨髄腫治療薬として米国で承認
  7. 【読者特典】第92回日本化学会付設展示会を楽しもう!PartIII+薬学会も!
  8. 次世代分離膜の開発、実用化動向と用途展開 完全網羅セミナー
  9. バイヤー・ビリガー酸化 Baeyer-Villiger Oxidation
  10. コンベス キノリン合成 Combes Quinoline Synthesis

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

酵素触媒によるアルケンのアンチマルコフニコフ酸化

酵素は、基質と複数点で相互作用することにより、化学反応を厳密にコントロールしています。通常のフラ…

イオンの出入りを制御するキャップ付き分子容器の開発

第124回のスポットライトリサーチは、金沢大学 理工研究域物質化学系錯体化学研究分野(錯体化学・超分…

リチウムイオン電池の課題のはなし-1

Tshozoです。以前リチウムイオン電池に関するトピックを2つほど紹介した(記事:リチウムイ…

アルコールをアルキル化剤に!ヘテロ芳香環のC-Hアルキル化

2015年、プリンストン大学・D. W. C. MacMillanらは、水素移動触媒(HAT)および…

三種類の分子が自発的に整列した構造をもつ超分子共重合ポリマーの開発

第123回のスポットライトリサーチは、テキサス大学オースティン校博士研究員(Jonathan L. …

超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2018

「超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2018」CEMS International Sy…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP