[スポンサーリンク]

ケムステニュース

「自然冷媒」に爆発・炎上の恐れ

[スポンサーリンク]

「環境省・経済産業省の指示により、エアコンに使用されているフロン類の入れ替えが必要だ」と偽り、地球環境保全に理解を示すエコな人々の善意を食い物にする被害が多発している。事態を重視した環境省と経済産業省はホームページ(HP)で「使用中のエアコンに充填されているフロンを入れ替える業者が現れたが、入れ替えるような指示は出していない」と告知し、否定している。(FACTA5月11日)

一言でいうと、エアコンの冷媒であるフロンを自然冷媒に変えるように迫ってくる悪徳業者がいるが、指定外である自然冷媒を入れると爆発・炎上する可能性があるので交換してはいけないということです。ただし自然冷媒は怪しいものではなく、正しく使えば環境に良いものなのでこの背景について下記で紹介します。

まず冷媒とは、冷凍サイクルにおいて熱を移動させるために用いられる熱媒体のことを指し、エアコンや冷蔵庫など冷やす機械には必要不可欠なものです。冷媒に適する物質の条件として蒸発の潜熱が大きいことと適度な圧力で液体になることが挙げられます。歴史を振り返ると、1800年代の後半には冷凍機が開発されその際はアンモニアが冷媒の主流でした。1930年にフロンガス(クロロフルオロカーボン :CFC)が開発されるとが主流になりましたが、フロンによるオゾン層の破壊が問題になると1980年代にはオゾン層破壊係数の低い特定フロン(ハイドロクロロフルオロカーボン:HCFC)が使われるようになりました。さらに規制が厳しくなり1990年代の後半では、オゾン層破壊係数がゼロである代替フロン(ハイドロフルオロカーボン:HFC)への切り替えが始まり、現在の冷媒の主流となっています。

構造例 オゾン層破壊係数
CFC CCl2F2, C2F5Cl ~10600
HCFC CHClF2, CHCl2CF3 ~2400
HFC CH2FCF3 CHF3 0

HFCにも地球温暖化係数(GWP)が高いという問題があり、使用量の削減するための規制と技術開発が求められています。

そこで考え出されたのが自然冷媒というアイディアですが真新しい物質ではなく、炭化水素ガス、アンモニア、二酸化炭素、空気、水のことを指しています。残念ながら用途が限られているのが現状で、

  1. 炭化水素ガス(ブタン等):引火すると爆発の危険性があるため小型の密閉された機器でのみ使用可能
  2. アンモニア:高い毒性
  3. 二酸化炭素:圧力が高い
  4. 空気、水:効率が悪い

といった懸念点があります。しかし、ヒートポンプ式電気湯沸かし器(二酸化炭素)や冷蔵庫(炭化水素ガス)ではすでに自然冷媒を使った機器が普及していて、自然冷媒は正しく使えば地球温暖化の防止に役立つ素晴らしい技術だと言えます。

二酸化炭素が冷媒の電気湯沸かし器

イソブタンが冷媒の冷蔵庫

ここで問題に戻って考えると、自然冷媒である炭化水素ガスを適合していないエアコンの冷媒として入れ替えると爆発・炎上の恐れがあるため悪徳業者の言いなりになってはということになります。実際、ガスを交換する際に爆発した事故も起きていますし、冷媒は交換してエアコンを使用しても環境に良くなるわけではないので普通に使い続け、寿命が来たら環境にやさしい冷媒を使っているエアコンを購入するのが正しい方法だと思います。カセットコンロと似たような種類の炭化水素のガスを、”自然冷媒”というさぞ環境にやさしそうなネーミングを使い、さらに冷媒の規格名(イソブタンはR600)を使って、さぞ安全であるかのように示しているところに無知の人をだましてしまう悪質性が感じられます。

HFCに関して、GWPを下げるためにハイドロフルオロオレフィン(HFO)も開発されていますが、GWPが低いほど可燃性も高くなるためエアコンなどには使用が難しくなります。そのため機器によって可燃性を考えたガスを選択し場合によっては混合して使用することが低減させれています。

関連書籍

[amazonjs asin=”4274948935″ locale=”JP” title=”ノンフロン技術―自然冷媒の新潮流”]

[amazonjs asin=”4816361111″ locale=”JP” title=”図解 冷凍設備の基礎”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. コケに注目!:薬や香料や食品としても
  2. 光触媒で新型肺炎を防止  ノリタケが実証
  3. 自己多層乳化を用いたマトリョーシカ微粒子の調製 〜油と水を混ぜて…
  4. 米社が液晶パネルのバックライトにカーボン・ナノチューブを採用
  5. iPhone7は世界最強の酸に耐性があることが判明?
  6. メタボ薬開発に道、脂肪合成妨げる化合物発見 京大など
  7. のむ発毛薬の輸入承認 国内初、年内にも発売へ
  8. 理研:23日に一般公開、「実験ジャー」も登場--和光 /埼玉

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2010年日本化学会各賞発表-進歩賞-
  2. 【速報】2011年ノーベル化学賞は「準結晶の発見」に!
  3. 企業研究者たちの感動の瞬間: モノづくりに賭ける夢と情熱
  4. 求電子的トリフルオロメチル化 Electrophilic Trifluoromethylation
  5. 岸 義人 Yoshito Kishi
  6. バトラコトキシン (batrachotoxin)
  7. iPhone/iPodTouchで使える化学アプリケーション 【Part 2】
  8. 「夢・化学-21」 夏休み子ども化学実験ショー
  9. こんなサービスが欲しかった! 「Chemistry Reference Resolver」
  10. (–)-Vinigrol短工程不斉合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年5月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

細谷 昌弘 Masahiro HOSOYA

細谷 昌弘(ほそや まさひろ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の創薬科学者である。塩野義製薬株式…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP