[スポンサーリンク]

ケムステニュース

発見が困難なガンを放射性医薬品で可視化することに成功

[スポンサーリンク]

A novel class of radiopharmaceuticals has proven effective in non-invasively identifying nearly 30 types of malignant tumors. Using 68Ga-FAPI positron emission tomography/computed tomography (PET/CT), researchers were able to image a wide variety of tumors with very high uptake and image contrast, paving the way for new applications in tumor characterization, staging and therapy.(Gigazine6月12日)

PET診断は、放射性同位体である18F-FDGから放出されるガンマ線をPETカメラによって検出しガンの診断を行う検査手法です。ガンの早期発見に有望な手法ですが、脳や膀胱、前立腺、腎臓、肝臓などのガンは発見できないことが知られています。本研究では、新たな放射性標識薬を使用することで18F-FDGでは発見しにくかったガンの検出に成功しました。

この研究は、ドイツHeidelberg大学のUwe Haberkorn教授らのグループから発表されました。このグループでは、核医学に関する研究を行っていて、放射性同位体を使ったがんのイメージに関する論文を多数発表しています。さっそく論文の内容に移りますが、ガリウム同位体標識した線維芽細胞活性化タンパク質阻害剤(68Ga-FAPI)を使ってガン細胞の検出を行いました。68Ga-FAPIは、下記のようなステップでリガンドが合成され、このリガンドと放射性同位体発生器から得られた68Ga塩酸溶液を混合し固体抽出することで合成されます。先行研究では、異なる構造のリガンドで評価を行っていて脳や口腔内のガンについてはピロリジン環に二つのフッ素が結合したFAPI-04のほうが感度良く検出されています。そのため、本論文でも68Ga-FAPI-04を使用したようです。

実際の評価では、ガン患者にこの68Ga-FAPI-04を投与し一時間後にPET画像を測定しました、ガンを的確に検出できているかどうかはSUV (tissue radioactivity concentration [Bq/ml] / injected dose[Bq] /body weigh[g]) という値で評価しました。結果、多くのガンにおいてバックグラウンドよりも高い放射線量を検出することができ、特に肉腫・食道ガン・乳ガン・胆管細胞ガン・肺ガンなどで高いSUVが記録され、肝細胞ガン・大腸ガン・頭頸部ガン・卵巣ガン・すい臓ガン・前立腺ガン・腎細胞ガン・分化型甲状腺ガン・腺様嚢胞ガン・胃ガンといったガンも識別することができたそうです。また、全体のバックグラウンドの値が低いため、1-2mmほどの小さな腫瘍も検出できるようになったそうです。この高感度の応用例として放射線治療の前に腫瘍の位置、大きさを見積り、ガンにピンポイントで放射線を照射する方法が提案されています。

ガン患者に投与しPET画像を測定した結果(引用:SNMMI NEWS

18F-FDGはグルコースをたくさん取り込むガンに対しては有効な標識となります。しかしながら、グルコースをあまり取り込まないガンには有効ではありませんし、脳などはガンの有無に関係なしに積極的にグルコースを取り込んでいるため、脳内の腫瘍は発見できません。事実、先行研究にて68Ga-FAPIと18F-FDGのレスポンスを比較したPET画像では、脳全体が黒く検出されています。一方で、FAPIは、ガンの増殖などに関連しているといわれている線維芽細胞活性化タンパク質の活性を抑制する薬であるため、多くのガンに選択的に結合し標識できているようです。以前にも線維芽細胞活性化タンパク質をターゲットにした標識剤は研究されていて131I-mAb-F19という放射性標識薬が開発されましたが、最適な画像が撮影できるまで3から5日もかかるという欠点がありました。一方68Ga-FAPIは1時間と非常に短時間で最適なイメージングができる利点があります。実用的な面においても18F-FDGは空腹時に投与する必要がありましたが、68Ga-FAPIは血糖値に関係ないので時間の制約がないようです。

68Ga-FAPIを使ったこの技術は、現行のPET診断よりも好感度に多種のガンを検出できるとのことでがん予防の観点から実用化が期待される技術だと思います。18F-FDGとは異なり68Ga-FAPIは放射性の金属錯体であり、錯形成反応によって放射性物質となるため合成もより簡便であると予想されます。一方で、FAPIはガンの治療薬である一方、PETはガンを早期発見するための診断手法なので、健康な人にFAPIを投与した時の影響が気になるところです。また、68Gaは放射性崩壊によって安定な68Znになりますが、体内のZnのバランスが変わることで健康に問題がないのかも気になります。放射化学として原発事故以降、効率的に放射性物質を回収する技術が開発されていますが、このような新しい放射性物質によって世の中をより便利にする技術の開発も行われているようです。

68Ga ジェネレーター (引用:プライムテック株式会社)サイクロトロンによって合成した68Geから68Gaを作り出す

関連書籍

[amazonjs asin=”4758319162″ locale=”JP” title=”放射化学 改訂第2版 (診療放射線技師 スリム・ベーシック)”] [amazonjs asin=”4524403264″ locale=”JP” title=”新 放射化学・放射性医薬品学(改訂第4版)”]

関連リンク

 

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. ニキビ治療薬の成分が発がん性物質に変化?検査会社が注意喚起
  2. 花粉症 花粉飛散量、過去最悪? 妙案なく、つらい春
  3. アルコール依存症患者の救世主現る?
  4. アルツハイマー病の大型新薬「レカネマブ」のはなし
  5. 配糖体合成に用いる有機溶媒・試薬を大幅に削減できる技術開発に成功…
  6. 化学物質MOCAでがん、4人労災
  7. 健康食品から未承認医薬成分
  8. 粉いらずの指紋検出技術、米研究所が開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. STAP細胞問題から見えた市民と科学者の乖離ー後編
  2. 硫黄―炭素二重結合の直接ラジカル重合~さまざまなビニルポリマーに分解性などを付与~
  3. 合成化学者十訓
  4. 第27回ケムステVシンポ『有機光反応の化学』を開催します!
  5. 【書籍】フロンティア軌道論で理解する有機化学
  6. Chem-Station開設5周年へ
  7. 1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド : 1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide
  8. Reaction Plus:生成物と反応物から反応経路がわかる
  9. Christoph A. Schalley
  10. 有機合成化学協会誌2021年7月号:PoxIm・トリアルキルシリル基・金触媒・アンフィジノール3・効率的クリック標識法・標的タンパク質指向型天然物単離

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年6月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP