[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第135回―「量子電気力学から光と分子の相互作用を理解する」David Andrews教授

[スポンサーリンク]

第135回の海外化学者インタビューはデヴィッド・アンドリュー教授です。イースト・アングリア大学化学科に所属し、光―物質相互作用の量子論を研究しています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

幼い頃から科学に興味を持ち、ロンドン科学博物館を初めて訪れたのが印象に残っています。多くの若者と同じように私も化学セットを持っていました。基本的な化学薬品を、よりエキゾチックな化合物や試薬で補うべく、父が業者へ連れて行ってくれたことを覚えています。6年生の時に、割れたメガネをかけた野暮ったい髪のウェールズ人の先生が化学を教えてくれたのですが、彼の情熱はかなり伝染しました。同じクラスだった15人のうち、少なくとも3人は化学の道に進み、高位の学位を取得しました。私たちの先生は本当に影響力があったのです。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

喜んでグラフィックデザインの道に進みたいと思います。魅力的なテーマであり、現在入手可能な素晴らしいソフトウェアで何時間でも遊べます。端正なグラフィックは、科学出版においてとても重要な役割を果たします。優れたアートワークは、視覚的に喜ばれ、情報に富むものでなくてはなりません。デンドリマーの対称性の概念に触発された娘が最近、私の本の表紙画像をオーダーメイドで制作してくれました。他の何冊かは、私自ら選びとって制作してきました。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

研究グループで現在の取り組んでいることのほとんどは、「光結合」と呼ばれている現象、つまり光それ自体が分子間や粒子間の力を生成し、修正できるという驚くべき発見に関わっています。一言で言えば、マイクロ/ナノ粒子を光によって操作し、安定で非接触的な集積へと導くことが可能になったということです。分子内での原子結合のスケールアップ版のようなものです。 現在目論んでいる通りの成果が得られれば、ナノ加工分野での大きな進歩につながる可能性があります。

Q.あなたがもし 歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

なんという質問でしょう! 最優先リストの中には、マイケル・ファラデーが含まれています。彼はあまり恵まれない出自だったにもかかわらず、先駆的な実験と化学、光学、電磁気学への鋭い洞察力によって世界的に有名になりました。有名になった人にありがちな尊大な感じがなく、魅力的で和気あいあいとしている方だと思います。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

昨年、同僚と一緒にセントアンドリュース大学を訪れ、高度な光学マイクロマニピュレーションキットを体験させてもらいました。これは、学部時代の実験以来、最も親しみを持てる体験でした。学生時代は研究室に首ったけで物理化学は楽しかったのですが、有機実験は特に怖かったです。3年生から理論のプロジェクトをやらせてもらいましたが、実学的なことは何も出来ませんでした。現代的な研究室に加えてもらうのは、かなりリスクが高いと思います。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

本については、トーマス・ハーディならほぼ何でもいいですが、選ぶなら『A Pair of Blue Eyes』です。

[amazonjs asin=”B08LCP441T” locale=”JP” title=”A Pair of Blue Eyes (English Edition)”]

音楽アルバムについては、ロリーナ・マッケニットの『The Mask and the Mirror』がいいでしょう。天使のような声をもつ彼女の歌は、心が痛くなるほど美しいです。

[amazonjs asin=”B000J233TE” locale=”JP” title=”Mask & Mirror”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

トロント大のグレッグ・ショールズ氏を選びます。最も尊敬する科学者であり、非常に控えめで謙虚な人物です。彼の意見を聞く価値は十分にあると思います。

 

原文:Reactions – David Andrews

※このインタビューは2009年10月30日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第132回―「遷移金属触媒における超分子的アプローチ」Joost…
  2. 第90回―「金属錯体の超分子化学と機能開拓」Paul Kruge…
  3. 第97回―「イメージング・センシングに応用可能な炭素材料の開発」…
  4. 第106回―「分子の反応動力学を研究する」Xueming Yan…
  5. 第20回 超分子から高分子へアプローチする ― Stuart R…
  6. インタビューリンクー時任・中村教授、野依理事長
  7. 第173回―「新たな蛍光色素が実現する生細胞イメージングと治療法…
  8. 第28回「ナノバイオデバイスが拓く未来医療」馬場嘉信教授

注目情報

ピックアップ記事

  1. ジョン・ハートウィグ John F. Hartwig
  2. 石谷教授最終講義「人工光合成を目指して」を聴講してみた
  3. 「無機化学」とはなにか?
  4. 企業の研究を通して感じたこと
  5. 新型コロナの飲み薬モルヌピラビルの合成・生体触媒を用いた短工程化
  6. 向山酸化 Mukaiyama Oxidation
  7. ヒドロシリル化反応 Hydrosilylation
  8. ランシラクトンCの全合成と構造改訂-ペリ環状反応を駆使して-
  9. 細見・櫻井アリル化反応 Hosomi-Sakurai Allylation
  10. 盧 煜明 Dennis Yuk-ming Lo

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年12月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

第70回「ケイ素はなぜ生体組織に必要なのか?」城﨑由紀准教授

第XX回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第69回「見えないものを見えるようにする」野々山貴行准教授

第69回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

第68回「表面・界面の科学からバイオセラミックスの未来に輝きを」多賀谷 基博 准教授

第68回目の研究者インタビューです! 今回は第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り…

配座制御が鍵!(–)-Rauvomine Bの全合成

シクロプロパン環をもつインドールアルカロイド(–)-rauvomine Bの初の全合成が達成された。…

岩田浩明 Hiroaki IWATA

岩田浩明(いわたひろあき)は、日本のデータサイエンティスト・計算科学者である。鳥取大学医学部 教授。…

人羅勇気 Yuki HITORA

人羅 勇気(ひとら ゆうき, 1987年5月3日-)は、日本の化学者である。熊本大学大学院生命科学研…

榊原康文 Yasubumi SAKAKIBARA

榊原康文(Yasubumi Sakakibara, 1960年5月13日-)は、日本の生命情報科学者…

遺伝子の転写調節因子LmrRの疎水性ポケットを利用した有機触媒反応

こんにちは,熊葛です!研究の面白さの一つに,異なる分野の研究結果を利用することが挙げられるかと思いま…

新規チオ酢酸カリウム基を利用した高速エポキシ開環反応のはなし

Tshozoです。最近エポキシ系材料を使うことになり色々勉強しておりましたところ、これまで関連記…

第52回ケムステVシンポ「生体関連セラミックス科学が切り拓く次世代型材料機能」を開催します!

続けてのケムステVシンポの会告です! 本記事は、第52回ケムステVシンポジウムの開催告知です!…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP