[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第126回―「分子アセンブリによって複雑化合物へとアプローチする」Zachary Aron博士

[スポンサーリンク]

第126回の海外化学者インタビューはザッカリー・アーロン博士です。インディアナ大学ブルーミントン校の化学科に在籍し(訳注:現在はMicrobiotix社 Director)、化学合成のための万能ツールとしての分子アセンブリラインの開発に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

いつも科学者になりたいと思っていました。取り巻く世界に魅了され、もっと近くで見てみたいといつも思っていました。しかし、それでは質問の答えになっていませんよね?化学こそが自分に向く科学だと初めて感じたのは、高校時代にフランク・カルデュラの指導を受けたときでした。自分が何をしているのかを真に満足いくレベルで詳しく把握できる唯一の科学は化学であると、彼は理解させてくれたのです。生物学は、過去数十年の驚くべき進歩と驚異的なパワーを持っているにもかかわらず、まだまだ謎が多すぎます。物理は理解が深すぎて詳細な方程式が必要となり、科学と自分の間にはあまりにも距離があります。化学は…ああ、化学は、今すぐにでも取りつける科学です。頭の中で分子を思い浮かべられます。分子の流れや動きが予測できます。分子の流れや動きを予測することができ、それらをうまく組み合わせて流れを作ることがでます。化学ほどよいものはないでしょう。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

簡単です。私のことを知っている人なら誰でも推測できると思いますが、パーティーに入ったとき、人を認識する前に犬や猫に挨拶をするのが普通です。もし化学者になれなかったら、獣医になっていたでしょう。病気のペットを健康にして、幸せにしてあげたいです。彼らの痛みが少なくなるような手伝いは身を削ることでしょうが、自分ができる手助けは全てに見合うでしょう。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

現在、私たちの研究室では、複雑な分子合成への応用を長期的目標として、新規合成法の開発に注力しています。その一つが、ピリドキサール-5′-リン酸(PLP)と同様の方法でアミンを活性化するバイオミメティック触媒の開発です。化学者が含窒素化合物の取扱法を劇的に簡素化し、保護基を使わず、化学合成を加速することができる、シンプルで利用しやすい有機触媒のクラスを特定したいと望んでいます。この研究により、含窒素化合物の工業的合成が簡素化され、生物活性天然物の珍しい誘導体へのアクセスが広がることを期待しています。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

ジョン・ミューアです。 アメリカ大自然の風景探訪に私は多くの時間を費やしてきましたが、美しさにいつも心を打たれてきました。ジョン・ミューアは、私たちが今なお持っている自然の多くを守るため力強く働きかけてくれました。彼には心から感謝しています。彼の野生体験は伝説になるほど素晴らしいものでした。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

おおっと、そんなに昔のことではないです(具体的には言えません。フィアンセがこれを読んでいるかもしれないので・・・)。どんな実験だったかって?少し恥ずかしい答えです・・・。研究室で行った最後の実験は、不調だった反応のフォローアップでした。シンプルなシッフ塩基形成を実行しているとき、予想しない生成物を定量的に得ていました(すぐにでも論文として目に触れるでしょう)。とにかく、最後の実験は反応系のpHを変えたフォローアップであり、それ以上はまったく悪ふざけなしに目的とするシッフ塩基を作ることができました。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

音楽アルバム:Charlie Ortman の『New Moon』です。取り残されたとき、最初に恋しくなるのは家族なので。叔父が作ったアルバムは、少なくとも我が家の穏やかさを思い出させてくれるでしょう。

本:ふーむ・・・難しいですね。自分は貪欲な読書家なので、興味を持っていつまでも読み続けられるような本はほとんど思いつきません。ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』がいいかもしれません。読んでいるときに迷子になったり、混乱することが多いからです。しかし無人島に取り残されたときには、アルバムの選定以上に慰みになりそうなものが必要でしょうから、十中八九はフランク・ハーバートの『デューン 砂の惑星』にするでしょう。自分の子供時代に強く関わる素晴らしい本です。

[amazonjs asin=”4105090119″ locale=”JP” title=”百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)”]

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

バーモント大学のMatthais Brewerです。正直に言うと彼は良い友人であり、これらの質問に対する彼の答えを見てみたいと思います!さらに、彼のジアゾニウム塩の研究は、古くとも重要な分野に新たな重点を置き、私を長く魅了してきました。

原文:Reactions – Zachery Aron

※このインタビューは2009年7月31日に公開されました。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 第116回―「新たな分子磁性材料の研究」Eugenio Coro…
  2. 第77回―「エネルギーと生物学に役立つ無機ナノ材料の創成」Cat…
  3. 第122回―「分子軌道反応論の教科書を綴る」Ian Flemin…
  4. 第138回―「不斉反応の速度論研究からホモキラリティの起源に挑む…
  5. 第三回 ナノレベルのものづくり研究 – James …
  6. 第80回―「グリーンな変換を実現する有機金属触媒」David M…
  7. 第72回「“泥臭さ”にこそ美を見出すシロキサン化学者」金子 芳郎…
  8. 第50回―「糖やキラル分子の超分子化学センサーを創り出す」Ton…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学を広く伝えるためにー多分野融合の可能性ー
  2. 【第14回Vシンポ特別企画】講師紹介:酒田 陽子 先生
  3. 2008年ウルフ賞受賞者発表
  4. アセタール系保護基 Acetal Protective Group
  5. 論文引用ランキングから見る、化学界の世界的潮流
  6. 世界最小電圧の乾電池1本で光る青色有機EL
  7. ご注文は海外大学院ですか?〜準備編〜
  8. 【PR】Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【スタッフ・寄稿募集】
  9. 50年来の謎反応を解明せよ
  10. パオロ・メルキオーレ Paolo Melchiorre

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP