[スポンサーリンク]

I

IBX酸化 IBX Oxidation

[スポンサーリンク]

アルコール→アルデヒド、ケトン

 

特徴

2-ヨードキシ安息香酸(2-Iodoxybenzoic Acid; IBX)は穏和な条件下にて様々な酸化反応を起こす。試薬は2-ヨード安息香酸にOxoneを作用させることで容易に調整可能(Dess-Martin酸化を参照)。

IBXはDMSOを除き有機溶媒への溶解性が悪いため、長らく有機合成試薬として用いられることが無かった。近年Nicolaouらによる精力的な研究の結果、興味深い反応が開拓されている。

基本文献

  • Frigero, M.; Santagostino, M. Tetrahedron Lett. 1994, 35, 8019. doi:10.1016/0040-4039(94)80038-3
  • De Munari, S.; Frigero, M.; Santagostino, M. J. Org. Chem. 1996, 61, 9272. DOI: 10.1021/jo961044m
  • Moore, J. D.; Finney, S. N. Org. Lett. 2002, 4, 3001. DOI: 10.1021/ol026427n
  • Nicolaou, K. C.; Zhong, Y. L.; Baran, P. S. J. Am. Chem. Soc. 2000122, 7596. DOI: 10.1021/ja001825b
  • Nicolaou, K. C.; Montagnon, T.; Baran, P. S.; Zhong, Y.-L. J. Am. Chem. Soc. 2002124, 2245. doi:10.1021/ja012127+
  • Nicolaou, K. C.; Mathison, C. J. N.; Montagnon, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 4077. doi:10.1002/anie.200352076 

 

反応機構

水の添加が反応性を下げることが知られており、以下のような可逆的リガンド交換を経る機構が提唱されている。(参照:J. Am. Chem. Soc. 2005127, 14146.)

IBX_2.gif

反応例

Dess-Martin試薬は1,2-ジオールを開裂させてしまうが、IBXは開裂させずに酸化を行うことが出来る。[1] IBX_3.gif
α,β-不飽和ケトンの一般合成試薬としても有用である。[2] IBX_5.gif
ベンジル位メチレンをカルボニル基へと酸化する事も可能。[3] IBX_4.gif
アルキルアミンをイミンへと酸化できる。[4] IBX_6.gif
N-ヒドロキシルスクシンイミド添加条件により、カルボン酸への酸化が可能。官能基受容性は高い。[5a] Oxoneを再酸化剤とした加熱条件[5b]を用いる場合には、IBXは触媒量でよい。
IBX_7.gif
IBX_8.gif
一級アルコール共存下に、二級アルコールだけを選択的に酸化することも可能。[6] IBX_9.gif
2-ヨードベンゼンスルホン酸は、高活性な酸化触媒として働く。系中でIBXのスルホン酸アナログを生成。[7] IBX_10.gif
アミドを一炭素減炭し、ニトリルへと変換可能。[8] IBX_11.gif

典型的な実験手順

 

実験のコツ

IBXは高原子価ヨウ素化合物であることから、爆発性が指摘されている[9]。大スケールでの反応時、およびその取扱いには相応の注意を払うべきである。

 

参考文献

[1] [2] [3] [4] [5] (a) Mazitschek, R.; Mulbaier, M. M.; Giannis, A. Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 4059. [abstract] (b) Thottumkara, A. P.; Bowsher, M. S.; Vinod, T. K. Org. Lett. 2005, 7, 2933. DOI: 10.1021/ol050875o
[6] Kuhakarn, C.; Kittigowittana, K.; Pohmakotr, M.; Reutrakul, V. Tetrahedron 2005, 61, 8995. DOI: 10.1016/j.tet.2005.07.051
[7] Uyanik, M.; Akakura, M.; Ishihara, K. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 251. DOI: 10.1021/ja807110n
[8] Bhalarao, D. S; Mahajan, U. S.; Chaudhari, K. H.; Akamanchi, K. G. J. Org. Chem. 2007, 72, 662. DOI: 10.1021/jo0619074
[9] Plumb, J. B.; Harper, D. J. C&EN News 1990, July 16, 3.

 

関連反応

 

関連書籍

[amazonjs asin=”3642079067″ locale=”JP” title=”Hypervalent Iodine Chemistry: Modern Developments in Organic Synthesis (Topics in Current Chemistry)”][amazonjs asin=”0123909481″ locale=”JP” title=”Hypervalent Iodine in Organic Synthesis”]

 

外部リンク

関連記事

  1. コーリー・ギルマン・ガネム酸化 Corey-Gilman-Gan…
  2. ロイカート・ヴァラッハ反応 Leuckart-Wallach R…
  3. 有機リチウム試薬 Organolithium Reagents
  4. チャン・ラム・エヴァンス カップリング Chan-Lam-Eva…
  5. ボールマン・ラーツ ピリジン合成 Bohlmann-Rahtz …
  6. ワーグナー・メーヤワイン転位 Wagner-Meerwein R…
  7. N末端選択的タンパク質修飾反応 N-Terminus Selec…
  8. ポーソン・カーン反応 Pauson-Khand Reaction…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 化学者のためのエレクトロニクス講座~無電解めっきの還元剤編~
  2. 特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来
  3. 第8回 野依フォーラム若手育成塾
  4. 研究費総額100万円!2050年のミライをつくる若手研究者を募集します【academist】
  5. 長期海外出張のお役立ちアイテム
  6. 伯東、高機能高分子材料「デンドリマー」、製造期間10分の1に
  7. クロスカップリング反応 cross coupling reaction
  8. ハーバート・ブラウン Herbert C. Brown
  9. 顕微鏡で有機化合物のカタチを決める!
  10. 芳香環にフッ素を導入しながら変形する: 有機フッ素化合物の新規合成法の開発に成功

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年12月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

日本プロセス化学会2024ウインターシンポジウム

有機合成化学を基盤に分析化学や化学工学なども好きな学生さん、プロセス化学を知る絶好の…

2024年ノーベル化学賞は、「タンパク質の計算による設計・構造予測」へ

2024年10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは、2024年のノーベル化学賞を発表しました。今…

デミス・ハサビス Demis Hassabis

デミス・ハサビス(Demis Hassabis 1976年7月27日 北ロンドン生まれ) はイギリス…

【書籍】化学における情報・AIの活用: 解析と合成を駆動する情報科学(CSJカレントレビュー: 50)

概要これまで化学は,解析と合成を両輪とし理論・実験を行き来しつつ発展し,さまざまな物質を提供…

有機合成化学協会誌2024年10月号:炭素-水素結合変換反応・脱芳香族的官能基化・ピクロトキサン型セスキテルペン・近赤外光反応制御・Benzimidazoline

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年10月号がオンライン公開されています。…

レジオネラ菌のはなし ~水回りにはご注意を~

Tshozoです。筆者が所属する組織の敷地に大きめの室外冷却器がありほぼ毎日かなりの音を立て…

Pdナノ粒子触媒による1,3-ジエン化合物の酸化的アミノ化反応の開発

第629回のスポットライトリサーチは、関西大学大学院 理工学研究科(触媒有機化学研究室)博士課程後期…

第4回鈴木章賞授賞式&第8回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

計算科学,情報科学,実験科学の3分野融合による新たな化学反応開発に興味のある方はぜひご参加ください!…

光と励起子が混ざった準粒子 ”励起子ポラリトン”

励起子とは半導体を励起すると、電子が価電子帯から伝導帯に移動する。価電子帯には電子が抜けた後の欠…

三員環内外に三連続不斉中心を構築 –NHCによる亜鉛エノール化ホモエノラートの精密制御–

第 628 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院薬学研究科 分子薬科学専…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP