[スポンサーリンク]

B

tert-ブトキシカルボニル保護基 Boc Protecting Group

概要

tert-ブトキシカルボニル(tert-butoxycarbonyl, Boc)基は、カルバメート形成によってアミンの保護目的に多用される。特にアミンの保護基としては第一選択として用いられる。場合によってはアルコールやフェノールの保護目的にも使われる。

強塩基によるエステル加水分解条件・求核置換条件・接触還元条件・弱めのヒドリド還元条件に強く、強酸性条件で除去可能。このため、Fmoc基やCbz基などと相補的に用いることが出来る。

ペプチド固相合成法にも多用される。

基本文献

Boc-SPPS
review

反応機構

保護

二炭酸ジ-tert-ブチル(Boc2O)がもっとも多用される。ピリジンやトリエチルアミンを塩基として添加する条件が良く用いられる。アミノ酸などに対しては、無機塩基をもちいるショッテン・バウマン条件なども簡便である。

脱保護

強酸性条件でtert-ブチルカチオンを生じながら脱保護されていく。トリフルオロ酢酸(TFA)/ジクロロメタンまたはneat条件、塩酸/メタノール 条件などが多用される。揮発性のイソブテンとCO2だけが副生するので、後処理も簡便である。

反応例

DMAP条件で行なうことで、求核力の低いアミド窒素保護、インドール窒素保護やdi-Boc体の合成も可能になる。下記はその一例[1]。

DMAP条件のover reactionが問題となる場合(特にアニリンの保護など)には、N-メチルイミダゾールを用いる条件が適することがある[2]。

環状ウレタンやオキサゾリジノンのカルボニル基を穏和に加溶媒分解する目的に、Boc保護が使われる[3]。

Fmoc基から1工程でBoc基に掛け替える条件[4]。

アジド基の水素添加条件にBoc2Oを共存させておくことで、Boc保護アミンとして生成物を得ることが出来る[5]。

TMSOTf/Et3NもしくはTMSOTf/2,6-lutidine条件は、酸性条件に不安定な化合物の選択的Boc除去に用いることが出来る。下記はCyclotheonamide Bの全合成における適用例[6]。

TMS-Iを用いる脱保護[7]。下記の事例[8]では、他に敏感な官能基が多数存在するなかで選択的Boc除去を達成している。一旦TMS捕捉体とtBu-Iが生じることが鍵。

LiAlH4で処理する想定で、アミンのメチル化源として活用されることがしばしばある。Bocにかぎらず他のカーバメート保護基も同様に活用できる。以下は(+)-Esermethole合成に応用した事例[9]。

実験のテクニック・コツ

  • 脱保護時には、化合物に含まれる求核性部位と副生するtert-ブチルカチオンがしばしば反応してしまう。これを防ぐため、カチオン捕捉剤(アニソール、チオアニソール、チオフェノール、ジメチルスルフィドなど)を添加剤として加えることがある。
  • Boc脱保護時にできるアンモニウム化合物は、2%MeOH/Et2Oで粉砕することで有機化合物から上手く分離できる(参考)。
  • イミダゾール/トリフルオロエタノール条件は、過剰量用いたBoc2Oを壊して除去する目的に適している[10]。

実験手順

(R)-フェニルグリシノール(1.0 g、7.3 mmol)をTHF(10 mL)に溶解し、氷冷下にトリエチルアミン(2.14 mL、15.4 mmol)およびジ-tert-ブチルジカーボネート(1.08 g、7.7 mmol)のTHF溶液(10 mL)を加え、室温で2時間撹拌した。 得られた溶液を減圧下で約半分の体積まで濃縮し、ヘキサンを加えて結晶化させた。 得られた固体を吸引濾過により集め、ヘキサンで洗浄した。 収量1.72 g(99%)。

ジオキサン(10 mL)中、(R)-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-2-フェニルエチルメタンスルホネート(2.5 g、7.9 mmol)の溶液にHCl(10 mL、4 M in dioxane)溶液を添加し、1時間攪拌した。揮発性物質を減圧下で除去し、残留物をアセトニトリル/ジエチルエーテルから再結晶させた。 収量1.28 g(65%)

参考文献

  1. Englund, E. A.; Gopi, H. N.; Appella, D. H. Org. Lett. 2004, 6, 213. DOI: 10.1021/ol0361599
  2. (a) Basel, Y.; Hassner, A. J. Org. Chem. 2000, 65, 6368. DOI: 10.1021/jo000257f (b) Ragnarsson, U.; Grehn, L. Acc. Chem. Res. 1998, 31, 494. DOI: 10.1021/ar980001k
  3. Ishizuka, T.; Kunieda, T. Tetrahedron Lett. 1987, 28, 4185. doi:10.1016/S0040-4039(00)95574-6
  4. Li, W.-R.; Jiang, J.; Joullie, M. M. Tetrahedron Lett. 1993, 34, 1413. doi:10.1016/S0040-4039(00)60305-2
  5. Saito, S.; Nakajima, H.; Inaba, M.; Moriwake, T. Tetrahedron Lett. 1989, 30, 837. doi:10.1016/S0040-4039(01)80629-8
  6. Bastiaans, H. M. M.; van de Baan, J. L.; Ottenheijm, H. C. J. J. Org. Chem. 1997, 62, 3880. DOI: 10.1021/jo961447m
  7. (a) Lott, R. S.; Chauhan, V. S.; Stammer, C. H. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1979, 495. doi:10.1039/C39790000495 (b) Olah, G.; Narang, S. C. Tetrahedron 1982, 38, 2225. doi:10.1016/0040-4020(82)87002-6 (c) Jung, M. E.; Lyster, M. A. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1978, 315. doi:10.1039/C39780000315
  8. Liu, Z.; Yasuda, N.; Simeone, M.; Reamer, R. A. J. Org. Chem. 2014, 79, 11792. doi:10.1021/jo502319z
  9. Bui, T.; Syed, S.; Barbas, C. F. III J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 8758. DOI: 10.1021/ja903520c
  10. Basel, Y.; Hassner, A. Synthesis 2001, 550. DOI: 10.1055/s-2001-12350

関連反応

  • カルバメート保護基
  • メリフィールド ペプチド固相合成法
  • アリルオキシカルボニル保護基(Alloc)
  • 2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル保護基(Troc)
  • 2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル保護基(Teoc)
  • ベンジルオキシカルボニル保護基(Cbz)
  • 9-フルオレニルメチルオキシカルボニル保護基(Fmoc)

関連書籍

外部リンク

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. チチバビン反応 Chichibabin Reaction
  2. ノリッシュ・ヤン反応 Norrish-Yang Reaction…
  3. 根岸カルボメタル化 Negishi Carbometalatio…
  4. シュタウディンガー ケテン環化付加 Staudinger Ket…
  5. ヘイオース・パリッシュ・エダー・ザウアー・ウィーチャート反応 H…
  6. ベシャンプ還元 Bechamp Reduction
  7. クネーフェナーゲル ピリジン合成 Knoevenagel Pyr…
  8. バートン反応 Barton Reaction

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. Twitter発!「笑える(?)実験大失敗集」
  2. ヒンスバーグ チオフェン合成 Hinsberg Thiophene Synthesis
  3. ねじれがあるアミド
  4. N-ヨードサッカリン:N-Iodosaccharin
  5. PdとTiがVECsの反応性をひっくり返す?!
  6. 第33回 新たな手法をもとに複雑化合物の合成に切り込む―Steve Marsden教授
  7. シュガーとアルカロイドの全合成研究
  8. 科学予算はイギリスでも「仕分け対象」
  9. 研究倫理問題について学んでおこう
  10. 創造化学研究所、環境負荷の少ない実証ベンチプラント稼動へ

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

ウラジミール・ゲヴォルギャン Vladimir Gevorgyan

ウラジミール・ゲヴォルギャン(Vladimir Gevorgyan、1956年8月12日-)は、アメ…

有機合成化学協会誌2018年11月号:オープンアクセス・英文号!

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年11月号がオンライン公開されました。今月…

観客が分泌する化学物質を測定することで映画のレーティングが可能になるかもしれない

映画には、年齢による鑑賞制限が設けられているものがあります。その制限は映画の内容に応じて各国の審査団…

庄野酸化 Shono Oxidation

概要アルコール溶媒中にアミドまたはカルバメートを電解酸化し、N,O-アセタールを得る反応。アミン…

ゲルセジン型アルカロイドの網羅的全合成

ゲルセジン型アルカロイドを網羅的に合成する手法が開発された。巧みな短工程骨格構築法により4種類の同ア…

3級C-H結合選択的な触媒的不斉カルベン挿入反応

2017年、エモリー大学・Huw M. L. Daviesらは独自に設計した不斉二核ロジウム触媒を用…

PAGE TOP