[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

美麗な元素のおもちゃ箱を貴方に―『世界で一番美しい元素図鑑』

[スポンサーリンク]

以前「つぶやき」にて、アリエナイ化学実験を特集したビジュアル本『Mad Science―炎と煙と轟音の科学実験54』Theodore Gray著)をご紹介しました。

実はこのレビューをたまたま創元社の編集者がご覧になっていまして、直々に感想メールを送ってくださいました。その本文にて、何と予期せぬご提案が!

「創元社では近々、Gray著の書籍『The Element』和訳刊行する予定です。よければ書籍を送付しますので、是非とも化学者の視点から御覧ください」

筆者自身もかの『Mad Science』が大変気に入った身です。『The Element』も絶対楽しいに違いない!是非買おう!と思っておりました。そんなタイミングですから、まさに渡りに船!二つ返事で「ぜひ送って欲しいです!」と申し出た次第です。

そんな編集部のご好意もあってフライング気味に入手できたのが、この『世界で一番美しい元素図鑑』。今回は、本書をご紹介したいと思います。


元素を題材とした書籍は世の中にいくつもありますが、この『元素図鑑』は一目でわかる通り、他のと全く違った書籍です。

とにかく写真!写真!!写真!!! 

もっとも美しく見せるために、わざわざ大判に組んであるこだわりよう。まさに「元素のビジュアル写真集」という形容がマッチする逸品なのです。

gensozukan_3.jpg

ワイド版書籍「まんがサイエンス」と比較してもこの大きさ!
この書籍、開くとかなり迫力あるサイズになります。そんな見開き2ページを、たった一つの元素に割りあてる、という贅沢で大胆な構成がとられています。

左側のページには元素単体の写真がどどーんと配置、右ページには各種基本データ・簡潔な解説コメントに加え、元素アイテムの写真がいくつもピックアップされています。

gensozukan_2.jpgこの元素アイテム、どこで入手可能なのかどうにも不明、見たことも聞いたこともないものばかり。たとえば、トリチウムキーホルダー・トリウム入り歯磨き・ラジウムコンドーム・ポロニウム点火プラグなどなど・・・。その中にはGray氏のコレクションもたくさん含まれるようですが、まったく マニアここに極まれり、ですね。

全ての元素に付いてる解説コメントも、Gray氏ならではのシニカルさが際立つ、読ませる文になっています。専門家の文章にありがちな、長々とした退屈な解説―そんなものはどこにもありません。

炭素(C)と臭素(Br)の解説文を一部抜粋してみましょう。一つ一つのコメントは短いですが、元素雑学がぎっちりとつまっています。

C: ダイヤモンドはとくに希少なわけでも、際立って美しいわけでも、永遠なわけでもありません。その3つとも、デビアス・ダイヤモンド社が作った神話です。デビアスの独占がなければ、ダイヤの価格は10分の1程度でしょう。

Br: 臭素が子どもと一緒にベッドに入っていることもあります。いや、あなたが想像するような臭い話ではありません。子ども用パジャマには有機臭素化合物、なかでも特にテトラブロモビスフェノールAが難燃材として添加されているのです。この物質の安全性を疑問視する向きもあるのですが、火だるまの子供の体から溶けて燃えるポリエステルが垂れ落ちる強烈なイメージが、批判を封じ込める方向に働いています。

広げて眺めているだけで、おもちゃ箱のコレクションをひっくり返して楽しんでいる―そんなノスタルジックな一面が感じられます。いつまでも少年時代のロマンを忘れない大人にとって、きっと抗いがたい魅力があることでしょう。

こんな大判写真集的な構成にもかかわらず、¥3990 という値段は、まさにお買い得そのもの!

実際、本書は各所で大人気、売り切れ続出な現状なのだそうです。少なくとも筆者にとっては期待通り本当に楽しい書籍で、大満足の一品。そんな本を発売日前に入手できたのは、ラッキーそのものでした。献本頂きました創元社・小野様には、この場を借りて御礼申し上げます。

 

関連動画

The Elements ebook for iPad  セオドア・グレイ氏のインタビュー動画。

本書の電子書籍版が、有名なiPadアプリ「元素図鑑」 です。iPad版では動画を見たり、元素をフリックで回転させて遊んだりもできます。

 

関連書籍

Theodore Gray著のアナザービジュアル化学書「MadScience」。「つぶやき」でのレビューはこちら

関連リンク

【インタビュー】なぜ『Mad Science』は過激で美しい科学実験書になったのか?

Theodore Gray (テオ・グレイ)、テーブルからテレビまでの道程 (気ままに有機化学)

世界で一番美しい元素図鑑 創元社の公式サイト

イグノーベル賞受賞者が語る、エクストリーム実験の面白み

Theodore Gray – Wikipedia

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. ベンゼンの直接アルキル化
  2. 株式会社ナード研究所ってどんな会社?
  3. 低分子の3次元構造が簡単にわかる!MicroEDによる結晶構造解…
  4. 「人工タンパク質ケージを操る」スイス連邦工科大学チューリヒ校・H…
  5. ハウアミンAのラージスケール合成
  6. 有機強相関電子材料の可逆的な絶縁体-金属転移の誘起に成功
  7. 有機化合物で情報を記録する未来は来るか
  8. 虫歯とフッ素のお話① ~どうして歯磨きにフッ素が使われるの??~…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ユーコミン酸 (eucomic acid)
  2. Stephacidin Bの全合成と触媒的ヒドロアミノアルキル化反応
  3. 化学を広く伝えるためにー多分野融合の可能性ー
  4. アンドレアス ファルツ Andreas Pfaltz
  5. 桝太一が聞く 科学の伝え方
  6. 【クラリベイトウェブセミナー】 新リリース! 今までの研究開発にイノベーションをもたらす新しいソリューション Clarivate Chemistry Researchのご紹介 ー AI技術を搭載したシンプルかつインテリジェントな特許・学術文献情報の活用ツール
  7. 湿度によって色が変わる分子性多孔質結晶を発見
  8. ゴールドエクスペリエンスが最長のラダーフェニレンを産み出す
  9. マルコフニコフ則 Markovnikov’s Rule
  10. 安全なジアゾ供与試薬

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年10月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

【十全化学】核酸医薬のGMP製造への挑戦

「核酸医薬」と聞いて、真っ先に思い起こすのは、COVID-19に対するmRNAワ…

十全化学株式会社ってどんな会社?

私たち十全化学は、医薬品の有効成分である原薬及び重要中間体の製造受託を担っている…

化学者と不妊治療

これは理系の夫視点で書いた、私たち夫婦の不妊治療の体験談です。ケムステ読者で不妊に悩まれている方の参…

リボフラビンを活用した光触媒製品の開発

ビタミン系光触媒ジェンタミン®は、リボフラビン(ビタミンB2)を活用した光触媒で…

紅麹を含むサプリメントで重篤な健康被害、原因物質の特定急ぐ

健康食品 (機能性表示食品) に関する重大ニュースが報じられました。血中コレステ…

ユシロ化学工業ってどんな会社?

1944年の創業から培った技術力と信頼で、こっそりセカイを変える化学屋さん。ユシロ化学の事業内容…

日本薬学会第144年会付設展示会ケムステキャンペーン

日本化学会の年会も終わりましたね。付設展示会キャンペーンもケムステイブニングミキ…

ペプチドのN末端でのピンポイント二重修飾反応を開発!

第 605回のスポットライトリサーチは、中央大学大学院 理工学研究科 応用化学専…

材料・製品開発組織における科学的考察の風土のつくりかた ー マテリアルズ・インフォマティクスを活用し最大限の成果を得るための筋の良いテーマとは ー

開催日:2024/03/27 申込みはこちら■開催概要材料開発を取り巻く競争や環境が激し…

石谷教授最終講義「人工光合成を目指して」を聴講してみた

bergです。この度は2024年3月9日(土)に東京工業大学 大岡山キャンパスにて開催された石谷教授…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP