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一般的な話題

多才な補酵素:PLP

PLPとは?

表題の化合物PLP、ご存知の方も多いかと思います。略さず言えばPyridoxal 5’-phosphate ですが、ご存知ない方も「ビタミンB6」と言われれば、イメージいただけるのではないでしょうか。

正確には、ビタミンB6とPyridoxal 5’-phosphate (PLP)は「同一物質」を指すのではなく、前者はPLP前駆体の化合物群を指します。つまり、生体内でビタミンB6が機能するときには、PLPへと変換されている、ということです。身近なところでは、サプリメントなどとして利用されるビタミンB6はPyridoxineとして添加されることが多いようです。

PLPが関わる酵素反応

他のビタミンB群化合物がそうであるように、ビタミンB6も体内でPLPへと変換された後、「補酵素」として機能します。しかし、この化合物が他のビタミン化合物を排して私を魅了するのはその「多機能性」ゆえです。PLPはアミノ酸の代謝において、(私が知る限り)下記の反応に関わります。

  1. ラセミ化
  2. 脱アミノ化(と、それと共役するアミノ基転移反応)
  3. 脱炭酸
  4. レトロアルドール反応(β水酸基を有するアミノ酸)
  5. β脱離・β置換反応
  6. γ脱離・γ置換反応

もちろん、これらの反応のうち、どの反応を触媒するか、また、どのアミノ酸を基質とするかは、反応の「場」を提供するタンパク質(=酵素)により決まるわけですが、それにしても、一つの化合物がこれほど多彩な反応を触媒するなんて、スゴいと思いませんか?

私が、この稿を書こうと思った理由は、その「スゴ」さを皆様とちょっと共有できたら、という思いがひとつ、今ひとつは、実はその「多機能性」ゆえ、私自身が、いまいち反応機構の整理できていなかったので、矢印電子論的観点から網羅的に書き出して整理できればと思ったからです。

(注1)そんな訳で、以下では私の思考過程を晒しています。結果として多分に「不要な図」が多分に含まれてしまっていることご容赦ください。一方、網羅的に思考したつもりですが、もし漏れがあればご指摘いただけると幸いです。

(注2)以下に示した図はあくまで矢印電子論的観点から「系統的」に理解するために作成した図です。それぞれの酵素によって、実際の反応機構や反応中間体は実際には異なるかもしれません。各論については論文などをご参照ください。また、PLPの構造は簡単のため、直接反応に関わる部分のみを示しています。

 

アミノ酸α位の反応

さて本論ですが、PLPは通常、酵素上のLysine側鎖のε-NH2とイミンを形成し共有結合しています。これが、基質アミノ酸のアミノ基と交換することでいずれの反応も開始します。

アミノ酸α位での反応の1段目は、アミノ酸α炭素が持つσ電子がPLPのピリジニウムカチオンへと受け渡されることによりσ結合が開裂して反応が進みます。開裂し得るσ結合は3種類あるわけですが、実際にいずれの開裂反応も知られており、これがPLP酵素の多才性の要因の一つです【下図】。すなわち、開裂反応により

1.脱プロトン反応

2.脱炭酸反応

3.レトロアルドール反応

のいずれかが起こります。この際、電子を受け取ったピリジン環はキノイド型の中間体を形成します。

反応の2段目はキノイド中間体から基質方面に電子が下りてきて再プロトン化される反応です(注)。この反応の反応点としては

A.アミノ酸α炭素

B. PLPのC4’炭素

で起こる場合が考えられます。前者(A.)については、1段目の反応がいずれの場合(1.~3.)も知られています。例えば、1段目の反応が脱プロトン反応(1.)、脱炭酸反応(2.)、レトロアルドール反応(3.)のそれぞれの場合の例として、アラニンラセマーゼジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼグリシンヒドロキシメチルトランスフェラーゼが挙げられます。

1段目の反応が脱プロトン化(1.)の場合には、2段目の再プロトン化がPLPのC4’炭素で起こる(B.)例も知られています。この際、基質はα‐ケト酸となり、また、PLPは再生せず、PMPが生成します。ですので、このままでは触媒回転が回らないわけですが、実際の生体内ではPMPはα‐ケトグルタル酸など、細胞内に豊富なα‐ケト酸へ逆反応的にアミノ基を渡す(アミノ基転移反応)ことでPLPを再生します。代表的な例は、健康診断でもおなじみの、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)が挙げられます。一方、私の知識の中では、1段目が脱炭酸反応(2.)、レトロアルドール反応(3.)の場合、C4’炭素での再プロトン化(B.)が起こるケースを知りません。

(注)求電子剤はアシルCoAが求電子剤となる例もあるようです。

 

アミノ酸β位の反応

アミノ酸β位で反応を起こす場合、反応基質はβ位にヘテロ原子を有する化合物ということになりますので、実質的にはセリン、スレオニン、システインに限定されるでしょうか。またこのカテゴリーの反応では、このヘテロ原子がアシル化やリン酸化などによって脱離基として活性化されている場合も多いです。

β位で反応が起きる場合も、上記のラセミ化反応と同様、脱プロトン化から始まります。(1段目の反応として脱炭酸反応も考え得ますが、私の知識ではそのような酵素を知りません。したがって、以下はα位の脱プロトン化の例で考えていきます。仮に、1段目に脱炭酸が起こった場合でも、以下の議論の延長でその生成物は容易に想像いただけるかと思います。)反応機構の違いが生じるのは、キノイド型の中間体から電子が基質方面へ戻っていくとき、α炭素の再プロトン化ではなく、ベータ位の脱離基が脱離していくことで、αβ共役二重結合が形成される点です。

その後の反応の一つとして、この中間体がそのままPLPのC4’炭素で加水分解が起こります。結果、β脱離反応の生成物としてエナミン化合物が生成し、それが異性化、加水分解を経て、αケト酸とアンモニアになります。スレオニン脱水酵素がこのカテゴリーに入る酵素です。いま一つの反応としては、αβ共役二重結合に対して、求核剤が求核攻撃を行います。その場合、もと来た経路を逆にたどり、β置換体が生成します。シスタチオニン-β-シンターゼがこの例です。ちなみに、このパスの場合もC4’の再プロトン化というケースも考え得ますが、そのような反応を触媒する酵素は知られていないように思います。

 

アミノ酸γ位の反応

以上、アミノ酸のα位およびβ位での反応を見てきました。同一の「触媒」が基質の別々の位置で反応を触媒し得るというだけで、すでに私にとっては驚きですが、敢えて言えば、カルボン酸誘導体のα位の反応には例えばAldol反応が、β位の反応にはMichael付加反応が古典的な有機化学反応にも存在します。その点、PLPは「その先のγ位」の反応を触媒するのですから、その守備範囲の広さたるや驚きです。このカテゴリーの反応もγ位にヘテロ原子を有している必要がありますので、反応基質としては、メチオニン、ホモセリン、ホモシステインおよびその誘導体と、メチオニン以外は一般的にはやや馴染みの薄い基質に限られますが、重要なのはPLPが「その先のγ位」まで手を伸ばせる、という点を強調しておきます。

上記反応機構に描かれているPLPの構造で気づかれた方もいるかも知れません。「ピリジン環β位の水酸基は不要なの?」と。実はこれが「その先のγ位」にたどり着くためのカギとなってきます。これまでの反応にはこの水酸基は直接的には関与させずとも(矢印電子論上では)説明できましたが、「その先のγ位」にたどり着くためにはこれが必要です。

このカテゴリーの反応も、反応機構としてはα位の脱プロトン化とそれに伴うキノイド中間体生成までは一緒です(β位の時と同様、1段目での脱炭酸、およびレトロアルドールはここでは考慮しないことにします)。カギは次の反応で、反応点がγ位にまで届くためβ位でのさらなる脱プロトン化が起こることです。その電子の受取り手として、ピリジン環上β位に置換する酸素が機能します。つまり、γ位での反応が起こる場合はPLPのNとOの2か所が電子受容体として機能するということになります。酸素上の電子は折り返し戻っていき、結果、γ位の脱離基が脱離し、βγ不飽和結合が生成します。

ここでできた中間体のγ位に求核剤が反応すれば、もとの経路を逆流してγ置換体を与えます。この例としては、シスタチオニン‐γ‐シンターゼが挙げられます。これまで通り、矢印電子論上の可能性としてはC4’での再プロトン化も考え得ますが、そのような酵素の例は知られていないと思います。

一方、先の中間体のγ位が再プロトン化されると、αβ不飽和結合を生じます。これがβ位脱離反応の時と同様にC4’炭素上で加水分解を起こせば、ケト酸とアンモニアを生じます。シスタチオニン‐γ‐リアーゼがこの例です。また、αβ不飽和結合を有する中間体に対し、β位に求核剤が求核攻撃が起こるケースもあり、その場合は上記のβ置換反応の時と同様な経路で反応が進んでいきます。この場合も上記と同様、知られている反応としては、最終段階でC4’での加水分解反応が進行する反応のみで、スレオニンシンターゼがこの例です。

ちなみに、一応、矢印電子論上、他に起こり得る反応を下図に書き留めましたが、私が知る限り、γ位が関与する反応は上述の3つのパターンのみのようです。

いかがでしょう?PLPの多才さをお伝えすることができたでしょうか?ひょっとしてここに系統だってカテゴリー化できていない反応などもあるかもしません。もし、そのような反応をご存知でしたら、ご一報いただければ幸いです。

なお、この稿を書くにあたり、このサイトを一部参考にしましたので、こちらも併せて読んでいただくとより理解を深めて頂けると思います。

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化学は生物の文法である。と、勇んで始めた発酵研究。文法だけでは物語は書けないのであった。。。昔も含めてその他研究分野は、医薬化学、糖鎖化学、酵素化学、夏目漱石。良き物語を書きたいものです。
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