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<A君の日常:とある一コマ> …みなさんはA君と同じような疑問をもったことはありませんか?え、無い?うーんそうですか…ちなみに私はあるんです。 ▼ 抗生物質の歴史
抗生物質(antibiotics)とは、「微生物が産生する物質のうち、他の微生物の発育を阻害する化学物質」と定義されます。今日ではそれらに化学変換・修飾をほどこしたものも定義に含まれています。最近では合成技術の発達により、抗菌力を持った化合物を人工合成することが可能となりました。これらは上の定義からはずれるため抗菌剤と呼ばれることがあります。このコラムでは人工的なものも含めて抗生物質と呼ぶことにします。
しかしながら1950年頃を境に結核による死亡率は激減します。結核の特効薬と呼ばれる抗生物質ストレプトマイシン(Streptomycin)が開発されたことによります。これにより、今まで不治の病とされていた結核はそれほど怖い病気ではなくなりました。抗生物質が人類に多大に貢献した一例です。 ▼ 抗生物質の理念
抗生物質は医薬品の中でも、化学療法剤というものに分類されます。化学療法(chemotherapy)とは「化学物質を用いて病原となる寄生生物もしくは悪性腫瘍物を宿主の生体内で発育阻害・死滅させる治療法」です。抗ガン剤なども化学療法剤の一種となります。 化学療法を行う上で問題となってくるのは、用いる化学物質が人体に対しどれだけ影響を及ぼすかということ、すなわち副作用の強度です。このことを表すキーワードが「選択毒性(selective
toxicity)」です。選択毒性とは、化合物が宿主には毒作用を及ぼさず、寄生異物にだけ選択的に毒作用を及ぼす性質です。
▼ 抗生物質の分類
抗生物質は大きく分けて、殺菌剤と静菌剤に大別されます。前者は菌を直接死滅させる物質ですが、後者は菌の発育を抑制する物質で、薬が無くなると菌は再度増殖を始めてしまうところが前者と異なります。その他、基本骨格や作用機序などに基づき以下のような分類がなされています。
▼ 主な抗生物質・抗菌剤
それでは、実際に用いられている抗生物質にはどんなものがあるのでしょうか?相当な数の抗生物質がこれまでに開発されていますが、以下では比較的良く知られたものを解説することにします。
また、βラクタムは高度にひずんだ環骨格であり、有機合成的観点からも興味深い構造であることから、さまざまな合成方法が探索・研究されるに至っています。J. C. Sheehanらは縮合剤DCCを用いる手法で、低収率ながらβラクタム環の合成に成功し、ペニシリンVの全合成を達成しています。
ペニシリンは副作用が極めて少なく非常に有用な薬物ですが、しばしばペニシリン・ショックと呼ばれる急性アレルギー反応を引き起こすことがあります。ペニシリン代謝物が生体内タンパクと結合してアレルゲンとなり、発症すると考えられています。
■ セファロスポリン (Cephalosporin)
糸状菌のCephalosporium acremoniumから初めてセファロスポリンCが単離されました。βラクタム系に属し、作用機序はペニシリンとほぼ同様に、細胞壁合成阻害によって抗生作用を示します。アレルギー反応を起こしやすい点もペニシリンと似ています。ペニシリンが効かない菌(ペニシリン耐性菌)にも有効なのが特徴です。
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ストレプトマイシン (Streptomycin)
S. A. Waksman らによって単離された、放線菌の一種Streptomyces
griseusの産生する抗生物質です。アミノグリコシド系に分類されます。 アミノグリコシド系抗生物質は一般に、細菌の30Sリボソームに結合し、タンパク質の合成を阻害することによって抗生作用を示します。人間のリボソームは細菌のそれとは異なる構造をしているため、細菌だけに選択毒性を示します。特に結核(tuberculosis)の治療に良く用いられ、結核による死者を激減させるに至った、抗生物質のマイルストーンと呼べる存在です。 若干副作用が強く、聴神経障害や腎障害、過敏症などを引き起こすこともあります。
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テトラサイクリン
(Tetracycline)
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エリスロマイシン (Erythromycin)
Streptomyces erythreusの産生する抗生物質。大環状ラクトンに糖が結合した構造をしており、マクロライド系と総称される群に分類されています。
グリコペプチド系抗生物質に分類されます。MRSA(後述)など他の抗生物質が効かない菌にも効果があるため、究極の抗生物質とも言われています。
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シプロフロキサシン (Ciprofloxacin)
化合物名にはなじみのない方が多いと思われますが、「シプロ」という商品名なら聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。正式には「シプロキサン」といい、バイエル社が炭疽菌の薬として売り出し、一時期爆発的に売れた薬です。ニューキノロン系に分類されます。 ▼ 薬剤耐性菌
抗生物質関連で最近よくとりあげられるのが薬剤耐性菌増加問題です。昔と違い、抗生物質が効かない菌が増えてきたのです。たとえばPenicillin耐性菌はpenicillinase(β-lactamase)という酵素を産生する遺伝子を突然変異により獲得しています。これによりβラクタム環が分解され、菌内でPenicillinは失活してしまい、効果を発揮できません。 そもそもなぜ菌は抗生物質を産生するのでしょうか?Louis Pasteurの行った実験で、2種の異なる微生物を同じ培地で培養すると、一方の菌が他方の菌の産生する物質によって発育が阻止される、という現象(抗生現象)が発見されました。光合成機能を持たない菌は、培地から栄養を摂取して増殖するのですが、そこに他の菌が介入してくると当然自分の栄養が減ります。栄養分を奪い合う結果になるのです。ここで菌は抗生物質を使用し、他の菌を排除して自分の領地を確保しようとするのです。つまり抗生物質は、微生物が自分の身を保つ為に、進化の仮定で獲得した産物だと言えます。 ここで他の菌と抗生物質を置き換えて考えてみましょう。抗生物質は菌に対して抑制的に働きます。菌は自分に害を及ぼすものを克服すべく変異・進化します。つまり抗生物質を沢山使うと、それに対して抵抗性を持つように、菌は進化してゆくのです。菌のように単純な生物だと進化のスピードも速く、かなりすさまじい勢いで耐性が獲得されてゆきます。
▼ VREの問題点
薬剤耐性菌問題を考えるキーワードとなるのが、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)です。MRSAはメチシリンをはじめとする多くの抗生物質に対して耐性を持ち、院内感染菌として知られています。この菌に有効な抗生物質はバンコマイシンだけだ、と言われてきました。
黄色ブドウ球菌と違い、腸球菌は人間に害を及ぼすことはありません。VRE以外にバンコマイシンの効かない菌はほとんど発見されて無いので、とりあえずは大丈夫なように思えます。しかし、ことはそんなに簡単ではありません。
▼ 次世代の抗生物質たち
このように、耐性菌の脅威を克服するための抗生物質開発は、今でも継続的に行われています。以下に示すものは、最近開発・報告された次世代の抗生物質です。
■ リネゾリド
(Linezolid) 対VRE抗生物質としてファルマシア社から発売されたリネゾリド(商品名ザイボックス)は、日本では2001年6月に発売開始となった新しい抗生物質です。完全化学合成で作られた薬物で、今までの抗生物質とは、構造・作用機序が大きく異なっています。現在の所VREに効くとされる薬はこれしかなく、まさに"対VRE最終兵器"と目されています。しかしながら既に耐性獲得菌の発生が確認されており、リネゾリド耐性菌が無闇に増殖しないよう、適切な利用が求められています。 ■
プラテンシマイシン (Platensimycin) メルク社の研究グループが25万個以上の天然物をスクリーニングした結果、発見された2006年現在で最も新しい抗生物質です。細菌の脂肪酸合成経路を阻害することで抗生作用を示します。この作用機序は既存のものとは全く異なり、耐性菌が非常に出現しにくい、と考えられています。
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R207910 先述した結核は、近年感染者数が増加傾向にあるというデータが報告されています。このこともやはり耐性菌が一つの原因とされています。再び結核が蔓延し始めると恐ろしい事態を引き起こす事は、過去の歴史からも容易に想像できます。しかしながらストレプトマイシン以来、有効な抗結核薬の開発はほぼ行われてきておらず、現代になって新規抗結核薬の重要性が再認識され始めています。
▼ まとめ
抗生物質の開発と耐性獲得は、いたちごっこのようなもので、いつまでもきりがありません。最近は菌の耐性獲得スピードの方が上回りつつあります。開発してもすぐ耐性菌ができて使えなくなる、という現象が実際に起きつつあります。とはいえ開発の努力を怠ったが最後、どうなるかは察するに難しくないでしょう。 (2002.5.12 by cosine)
▼参考、関連文献 ・ ・ 自分が使う抗生物質がどんなものであるか知っていますか? 抗生物質にはどんな種類・効果があ
るか、また耐性菌との戦いや、話題の病気・感染症に効くクスリまでを網羅。抗生物質のすべてがわかる本。
▼関連リンク
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【用語ミニ解説】
■ アレキサンダー・フレミング
■ βラクタム 四員環構造を持つ環状アミド。ひずんだ構造をしているため、容易に開環反応を起こす不安定な官能基。合成するには一工夫必要となる。
■ トランスペプチターゼ 細胞壁合成においてペプチドグリカン鎖の架橋を行う酵素。
■縮合剤
中性条件下でアミド・エステル縮合反応を起こすための試薬。ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などがその代表例である。
■ペニシリン・ショック ペニシリン投与の副作用として数万人に一人程度の確率で生じるアレルギー反応。
■セルマン・ワクスマン
Selman Abraham Waksman。アメリカの微生物学者。ストレプトマイシン発見の功績により1952年のノーベル医学・生理学賞受賞。
■マイコプラズマ 細胞壁を欠いた真正細菌。細胞の形状に可塑性を持つのが特徴。ヒトにおいてはマイコプラズマ肺炎の原因となる。 ■シトクロムp450 モノオキシゲナーゼ(酸素添加酵素)の一種。活性部位にヘムをもち、ヒトの肝臓などにおいて物質代謝に関与する。
■炭疽菌 皮膚潰瘍や高熱などを示す「炭疽症」を引き起こす細菌。感染力は高いがヒトからヒトへは感染しない。 ■DNAジャイレース DNA gyrase。細菌の持つDNAトポイソメラーゼIIのこと。DNA2本鎖を切断し、超らせん構造を緩和させる働きをする。
■ルイ・パスツール
■メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 Methicillin-resistant Staphylococcus aureus。通称MRSA。多くの抗生物質に対する耐性(多剤耐性)を示す。入院中の患者に発生する院内感染・日和見感染の原因菌とされている。ほとんどの抗生物質が効かないため、難治性。
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