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テトラサイクリン類の全合成 |
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今回はMyersらによってScienceとJ.Am.Chem.Socに報告されたテトラサイクリン(1)及びその類縁体の全合成[1]について紹介します。
その前に余談ですが合成、特に天然物の全合成はあまりScienceやNatureなどの"化学"(Chemistry)でなく"科学"(Science)の雑誌にはあまり紹介されないんですね。こういう雑誌には今話題のナノテクや生物を絡めた研究が多く紹介されています。合成化学は技術的な要素が多く、また天然物を合成しただけでは何も始まらないため化学の域をなかなか出ることができません。その中でもこのような雑誌に載っているものは、例えば
1) 天然からはほとんどとれず生物活性が非常に興味深く合成することによって生物学的研究に多大な貢献を有するもの 2) 今まで多段階を要していたものを、今までにないエレガントな合成法で数段階で作ってしまう。 3) 合成ターゲットとして、骨格が非常に難しく、多くの研究者によって研究がなされているが、十数年間全合成に至っていない。
など、そういう要素が1つもしくはすべてなければなかなか通りません。最近の天然物合成でこれらの雑誌に掲載された論文をあげると、
1994年 タキソールの全合成[2] (Nature, スクリプス研究所K.C.Nicolaou研) 1997年 KH-1の全合成[3] (Nature, コロンビア大Danishefsky研) エポチロンA, Bの全合成[4] (Nature, スクリプス研究所K.C.Nicolaou研) 1998年 ブレベトキシンBの全合成[5] (Nature, スクリプス研究所K.C.Nicolaou研) 2001年 シガトキシンの全合成[6](Science, 東北大平間研) 2004年 ノルゾアンタミンの全合成[7] (Scienece, 北大宮下、谷野研)
など、数少ないです。それでは、今回のテトラサイクリン類の合成は何がすばらしいのでしょうか?余談が長くなりましたが紹介したいと思います。 まずはテトラサイクリンとはなんぞや?というところから。
▼ テトラサイクリンとその誘導体
テトラサイクリン(tetracycline (1))はペニシリンなどに代表される古くから知られている有効な抗生物質の一種です。構造的特徴として直線的な4つの六員環(ABCD環)に5つの不斉点を有しており合成化学的にも興味深い天然物です。そのため、多くの半合成、化学合成による研究によって、テトラサイクリンより生物活性の高い誘導体も開発され医薬品として使用されています。 例としてドキシサイクリン(Doxycycline(2))、ミノサイクリン(Minocycline(3))があげられます(図1)。
図1 テトラサイクリンとその誘導体
これらは、共通して6位の水酸基を有していないが、同等かそれ以上の活性を有しています。 しかし、残念ながら、現在までに報告されている合成法ではこれらの誘導体を効率的に合成することができません。そこで、筆者は6-deoxytetracycline誘導体の合成を目的とし、効率的な合成法の開発及び、その生物活性試験を行いました。(Science) 一方、テトラサイクリンの初の不斉全合成は2001年に竜田らにより達成されましたが、34段階で0.002%と効率的な方法とはいえません。そこで、筆者らはテトラサイクリンを非常に効率的な手法を用いて合成しました(JACS) それでは効率的な合成法とは如何なるものか?まず、現在まで報告されているテトラサイクリン類の合成を簡単に紹介したあとに、筆者らの逆合成解析を紹介しましょう。
▼ テトラサイクリン類の合成法
Shemyakin Synthesis (1967) (±)-12a-deoxy-5a,6-Anhydrotetracycline Juglone(4)を出発物質とし、DC=>B環を合成した後、A環を導入し、(±)-12a-deoxy-5a,6-Anhydrotetracyclineを合成しました(図2)。
図2. Shemyakin synthesis
Woodward Synthesis (1968) (±)-6-deoxy-6-demethyltetracycline(sancycline, 25 steps, ~0.002% yield) D=>C->B環を順番に構築した後、12よりA環をShemyakinらとほぼ同様な手法で導入し(±)-6-deoxy-6-demethyltetracycline(13)を合成しました(図3)。 図3 Woodward Synthesis
Muxfeldt synthesis (1979) (±)-5-oxytetracycline (terramycin, 22 steps, 0.06% yield) Juglone(4)を出発物質として、アルデヒド14(DC環部位)とした後、チアゾリノン15と縮合し16とした。16に17のリチウム塩を作用させ、18として、ここから官能基変換により(±)-5-oxytetracycline(19)を得 ました(図4)。
図4. Muxfeldt synthesis
Stork Synthesis (1996) (±)-12a-deoxytetracycline (16 steps, 18 to 25% yield) 同じくjuglone(4)から9段階で20(DC環)とし、イソキサゾール誘導体21とのMichael反応により22を単一の生成物として得 ました。23に変換した後、Dieckman 環化によりBA環を構築し、水素添加により(±)-12a-deoxytetracycline(25)を合成し ました(図7)。 ここで、25からテトラサイクリン(1)への合成、すなわち12a位に水酸基を導入することはWoodward、Muxfeldtの他にもいくつか報告されてい ますが、非常に困難であったと報告しています。(woodwardの手法で6.5%)
図5. Stork synthesis Tatsuta synthesis (2001) (–)-tetracycline itself from the Aringprecursor D-glucosamine (34 steps, 0.002% yield)
D-グルコサミン誘導体(26)から10段階でシクロヘキセノン27とし、ジエン28とのDiels-Alder反応 により29を立体選択的に合成し ました(AB環)。続いて29とイソベンゾフラノン30とのMichael-Dieckman型反応により31を得て、31から6位水酸基の立体選択的導入、12a位の水酸基の導入などを経て16段階でテトラサイクリン(1)へ変換し ました(図6)。
図6. Tatsuta synthesis
▼ 逆合成解析-Retrosynthetic analysis-
筆者らは過去の合成も参考にし合成計画を立てました(図7)。
この合成の利点は多種類のD環(DE環)を導入することができることです。
図7. 逆合成解析 この逆合成に基づいて実際の合成を簡単に説明しましょう。
▼ Synthesis of AB Ring
安息香酸から酵素反応により光学活性な32を合成し、33にm-CPBAを作用させエポキシド33とし ました。エステル化、エポキシドの異性化反応により34とした後5-benzylisoxazoleのリチウム塩35を作用させ36を得 ました。36にLiOTfを60℃で作用させB環を立体選択的に構築し、続くアリルアルコールの保護基の除去により37を合成し ました。37のオレフィンを異性化、官能基変換によりAB環39、40を得 ました(図8)。
図8
▼ Synthesis of 6-deoxytetracyclines and MIC values
得られた40にD(E)環をカップリングさせることにより、6-デオキシテトラサイクリンの各種誘導体を合成しました。合成した6-デオキシテトラサイクリン誘導体の生物活性を検討しました(図9)。
図9
▼ Synthesis of Tetracycline
39からブロモ化、フェニルチオ基を導入し、ビニルスルフィド41とし ました。得られた41とベンゾシクロブテン誘導体48とのDiels-Alder反応は無溶媒、85℃で進行し望むendo体42を収率64%で得 ました。なお、この際retro-Dieckmann型の開裂反応が進行したと考えられる7員環ラクトン43も9%得られた そうです。
44にm-CPBAを作用させると(TFAはジメチルアミンの酸化を防ぐために入れている)芳香環化し45となり、空気中の酸素と反応しketo-46を生成し ました。手法としては竜田らと同様の手法であるが、竜田らと異なり、光増感剤を使わず即座に反応が進行しました。(NMR実験により最終的にはketo-46:enol-47=1:1) 最後に、の水素添加を行い、tetracycline(1)の不斉全合成を達成し ました(図10)。
図10
▼ Conclusion
筆者らは、6-deoxytetracycline誘導体及び、tetracycline (1)の効率的な合成法を開発することに成功しました。(6-deoxytetracycline誘導体 14~15steps 5.6-7.0%yield 、tetracycline (1) 17 steps 1.1%yield)また、その結果tetracycline(1)よりも高活性なpentacycline derivative(10)を見出し ました。詳細な内容については論文を参照してください。 (2005.8.11 ブレビコミン)
▼参考、関連文献
[1] a) M. G. Charest, C. D. Lerner, J. D. Brubaker, D. R. Siegel, A. G. Myers Science 2005, 308, 395 . b) M. G. Charest, D. R. Siegel, and A. G. Myers , J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 8292. [2] K. C. Nicolaou et al, Nature 1994, 367, 630. [3] S. J. Danishefsky et al, Nature 1997, 387, 164 . [4] K. C. Nicolaou et al, Nature 3198, 392, 264. [5] K. C. Nicolaou et al,Nature 1997, 387, 268 [6] M. Hirama, T. Oishi, H. Uehara, M. Inoue, M. Maruyama, H. Oguri, M. Satake Science 2001, 294, 1904. [7] M. Miyashita, M. Sasaki, I. Hattori, M. Sakai, K. Tanino Science 2004, 305, 495.
・天然物の全合成―Total synthesis of natural products 約50人の日本の研究者を選び、各人の自薦した天然物の全合成の構造図を収録。本文は構造図、化学式、英文で構成。
・ 前書のClassics in Total Synthesis : Targets, Strategies, Methods同様全合成の興味深い論文を詳しく、反応から合成法まで解説。Classicsと名前はついているが、最近合成された天然物ばかりで最新の全合成、合成戦略を体系的に学習できる。研究室のゼミの題材等にも最適であるため、ぜひもっておきたい1冊である。
▼関連リンク
・Andrew G. Myers Research Group
【テトラサイクリン関連】 ・抗生物質
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【用語ミニ解説】
■ 全合成
Total Synthesis。最小単位の原料から天然生理活性物質(天然物)を合成すること。
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■ペニシリン
1929年、アレクサンダー・フレミングによって発見された、世界初の抗生物質。
科学の進歩によって手にいれた万能薬と引き換えに出現させてしまった恐るべき「耐性菌」。細菌の逆襲に人類はどう立ち向かっていくべきか。テレビNHKスペシャル「世紀を越えて 細菌の逆襲」を単行本化。
(写真:早稲田大学応用化学科より)
早稲田大教授。天然物合成の権威。4大抗生物質の全合成を達成したことで有名。
■R.B.Woodward
(写真:nobelprize.org)
Robert Burns Woodward 。天然物合成化学者。「ウッドワード−ホフマン則」とよばれる合成法則を発見。1965年に有機合成による貢献でノーベル化学賞を受賞。
分子内Claisen縮合のこと。分子間の反応は、Claisen縮合を参照。
人名反応なら・・・
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