[スポンサーリンク]

一般的な話題

地球外生命体を化学する

[スポンサーリンク]

地球外生命体はいると思いますか?

筆者はSFファンなので、宇宙人が出てくる映画などはたくさん観ています。少なくとも我々人類と同じように二足歩行して、英語を喋る宇宙人はいないということは理解していますが、この宇宙の何処かに我々地球上の生物とは全く異なるシステムを持った生命体はいるはずだと信じています。その生命体がUFOに乗って攻めてきたり、家畜を誘拐したりはしないでしょうが、いつか人類が地球外生命体と遭遇する日が来るとしたらどんなシチュエーションなんでしょうね。

そこに化学が貢献できることがあるかもしれません。

地球外生命体と化学の関係とは?

 

今回のポストは、Nature Chemistry誌からおなじみTulane大学Bruce C. Gibb教授によるthesisを基に、化学と地球外生命体の関係について少し紹介したいと思います。前回のはこちら

Faith, chemistry and extraterrestrial life
Gibb, B. C. Nature Chem. 2014, 6, 943–944. doi:10.1038/nchem.2094

惑星探査には夢がありますよね。前人未到の地で誰も見たことが無い景色を初めて見るというのは本能的な興奮を覚えます。火星は最も近い惑星ですからその対象になるわけですが、近年では米国のNASAが送り込んだMars Science Laboratoryの火星探査機であるCuriosityが火星への着陸に成功し、現在でも観測を続けています。Curiosityには様々な観測機器が搭載されていますが、その中には火星の岩石などの組成を測定するためのX-線や赤外線レーザーによる分光計や試料を加熱して気体の質量分析を行う機器(SAM)があります。

 

化学が宇宙人、もしくは地球外生命体となんの関係が?と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、惑星探査では地球外生命体の発見というのは大きなミッションであり、その手段には正しく化学が活躍することになるのです。

 

あまり知られていないかもしれませんが、 Curiosityが興味深い分析結果を地球に送ってきました。International Conference on MarsLunar and Planetary Scienceという学会での報告によると、火星の土壌をSAMで分析したところ、クロロベンゼンジクロロプロパンが検出されたとのことです。[1]

mars_2

 

 

これらの化合物は地球上ではいかにも人工的な化成品です。過塩素酸塩が豊富にある土壌でしたらSAMでの分析中に生じた可能性もありえます。よってこれをもって火星に生命体が存在するという根拠にはならないでしょう。

 mars_1図は文献から引用

しかしここで気をつけなければならないのは、地球外生命体が必ずしも我々地球上の生物と同じような物質を遺伝情報として使っているとは限らないという点、構成される物質も炭素をベースとした有機化合物とは限らないという点です。炭素が必ずしも豊富にある惑星ばかりではないでしょうし、我々の想像を絶する方法で遺伝情報を伝達する手段があっても不思議ではありません。

よく言われるのがケイ素をベースとする生命体ですね。ケイ素はある程度炭素と性質が似てなくもないですし。ただ少なくとも地球上ではケイ素の化合物は炭素の化合物に比べて多様性が少ないですね。リンの代わりにヒ素を遺伝子に使っている生物が存在しないとは言い切れません。

 

 “Chemists don’t have to spend much of their job contemplating how their abstractions clash with religious doctrine, faith and why we exist.”

 

まあこういうことを言い出すと悪魔の証明状態ですから、科学とは言い難いですが、地球外生命体の存在を確信し信念を持ち続けるが探索には必要となるでしょう。地球外生命体の発見には化学の力が絶大な偉力を発揮するに違いありません。

 

関連文献

[1] Mars Rover Switches Gears. Wilson, E. K. C&EN, 2013, 91, 7. Link

 

 関連書籍

[amazonjs asin=”4861524032″ locale=”JP” title=”MARS 火星―未知なる地表 惑星探査機MROが明かす、生命の起源”][amazonjs asin=”4621061631″ locale=”JP” title=”マススペクトロメトリー”][amazonjs asin=”4062577755″ locale=”JP” title=”地球外生命 9の論点 (ブルーバックス)”][amazonjs asin=”B00P4MNB9G” locale=”JP” title=”Star Wars: The Galaxy at Risk”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. ホウ素と窒素で何を運ぶ?
  2. 【超難問】幻のインドールアルカロイドの全合成【パズル】
  3. ストリゴラクトン類縁体の構造活性相関研究 ―海外企業ポスドク―
  4. 階段状分子の作り方
  5. なぜ青色LEDがノーベル賞なのか?ー性能向上・量産化編
  6. Google日本語入力の専門用語サジェストが凄すぎる件:化学編
  7. 第8回 学生のためのセミナー(企業の若手研究者との交流会)
  8. 第37回ケムステVシンポ「抗体修飾法の最前線 〜ADC製造の基盤…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 今こそ天然物化学☆ 天然物化学談話会2021オンライン特別企画
  2. 第96回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part II
  3. 誰でも使えるイオンクロマトグラフ 「Eco IC」新発売:メトローム
  4. 有機EL、寿命3万時間 京セラ開発、18年春に量産開始
  5. セライトのちょっとマニアックな話
  6. ケミストリ・ソングス【Part1】
  7. リン–リン単結合を有する化合物のアルケンに対する1,2-付加反応
  8. コンベス キノリン合成 Combes Quinoline Synthesis
  9. プレプリントサーバについて話そう:Emilie Marcusの翻訳
  10. アビー・ドイル Abigail G. Doyle

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP