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スポットライトリサーチ

光照射下に繰り返し運動をおこなう分子集合体

第45回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院総合化学院・博士課程2年 池上智則さんにお願いしました。

今回紹介する研究は、外部エネルギー(光)を取り入れて、秩序だった動き(周期運動)を行う物質に関してです。いわゆる散逸構造系に属する化学の一つですが、こういった人工系を実現させること自体、設計原理の乏しさゆえに極めて難しい課題の一つとされています。またこのようなシステムは生命の一側面を表現するモデルとも見なせるため、化学の枠組みを超えた波及効果も期待できる成果と言えます。先日、プレスリリース・論文として公開されました。

“Dissipative and Autonomous Square-Wave Self-Oscillation of a Macroscopic Hybrid Self-Assembly under Continuous Light Irradiation”
Ikegami, T.; Kageyama, Y.; Obara, K.; Takeda, S. Angew. Chem. Int. Ed. 2016DOI: 10.1002/anie.201600218

本研究を直接指揮・指導された景山義之 助教は池上さんを以下の様に評しておられます。

池上君は、自然に恵まれた地域で育ちアウトドア大好きという自然科学研究に適した素質と、お酒に強いという化学者に適した素質を兼ね備えた学生です。これからも多くの人とふれあう中で自身の研究領域を作り出し、科学技術の領域を拡げる研究者になって欲しいと思っています。

それではいつものように、現場のお話を伺ってみました。ご覧ください!

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

光を当て続けると、クリオネのようにパタパタと繰り返し羽ばたく分子集合体を創出した研究です(図参照。是非、動画も見てください。動画は論文のsupporting informationからダウンロードできます)。本成果の重要な所は、定常的な光エネルギーを継続的に肉眼で見える機械的な仕事に変換する点です。つまり、仕事を行える分子モーターです。

化学反応は通常、平衡状態になり巨視的には止まるため、一定の環境では巨視的な運動を繰り返させることができません。本研究の、光駆動型分子機械として広く知られるアゾベンゼンオレイン酸からなる板状の分子集合体は、光照射下で繰り返し運動します。「可逆な光異性化反応」と「分子集合体の構造変化(相転移)」とが連携することで、散逸構造が形成され、この自律的で継続的な運動を実現しています。散逸構造は、生体の恒常性の起源でもあり、この研究は、生体との類似性からも興味が持たれます。

sr_T_Ikegami_1

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

新しくない分子からでも、これまでにない面白い機能を作ることができることを、この研究から教えてもらいました。

今回用いたオレイン酸、アゾベンゼンのどちらもよく知られた分子です。人工的な実現が困難とされる、生命のように「散逸構造」を持った分子システムを、このような単純な分子から作ることができたというのは驚きでした。

また化学・物理・生物・数学といった分野を横断した研究テーマであったことから、様々な分野の学会や勉強会に出向き、議論をする機会を得ました。一つの現象であっても、専門分野によって興味の持ち方が異なることや、研究展開の切り口が違うことを知りました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

難しかった点は、推定される仕組みの直接的な証拠を得るところについてであり、実は、乗り越えることはできていません。

平衡状態や緩和現象を取り扱う通常の化学現象とは異なり、個々の分子集合体が個性をもって、しかも安定になることなく振る舞う様子を計測・解析し、定量化していくことはとても困難でした。集合体はマイクロメートルスケールと小さく、それを構成する分子の数はわずかです。さらに光異性化率の変化は数%であり、大概の計測では、その定量的な解析はできませんでした。その点はとても悔しかったです。

論文では、照射する光の強度や波長を変化させたときの運動の速さ等を詳細に解析し、反応方向が切り替わること、反応の切り替わりが相転移と連動していることを定性的に導出しました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学を武器として、人の役に立つ「ものづくり」の種を創っていきたいと考えています。この種を創るためには、短期的な成果が期待される派手な流行りの研究ではなく、地道に自分独自のコンセプトに基づいた研究を行うことが重要であると信じています。将来的には化学を主軸とすると同時に、異分野の知見も取り入れた柔軟で斬新な発想により、社会に貢献できる研究を展開していきたいと思います。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

この研究では、(リバイズ投稿時に追加した溶液中での量子収率のデータを除いて)全ての実験、つまり、顕微鏡下でパタパタ動く生き物のような分子集合体を創り出したところから、運動の解析まで、自分の手で行いました。この経験を通して、言われたことをやるだけなく、自ら考え行動していく主体性が、面白い発見に気づき、研究の質を向上させ、そして自分自身を成長させることを学びました。

未熟な私に、このような貴重な経験をさせてくださり、また熱心にご指導いただきました武田先生景山先生に深く感謝いたします。

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研究者の略歴

sr_T_Ikegami_2池上 智則 (いけがみ とものり)

所属:北海道大学大学院総合化学院 液体化学研究室 博士後期課程2年

研究テーマ:自律的分子システムの構築

経歴:1991年岡山県鏡野町生まれ。2013年3月北海道大学理学部化学科を卒業、2013年4月同大学大学院総合化学院(修士課程)に入学。2015年4月から博士後期課程に進学し、現在に至る。

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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