[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

光触媒ーパラジウム協働系によるアミンのC-Hアリル化反応

[スポンサーリンク]

2015年、華中師範大学のWen-Jing Xiao・ Liang-Qiu Luらは、アミンα位でのC-Hアリル化を可視光レドックス触媒およびパラジウム触媒の協働系を用いて達成した。π-アリルパラジウム中間体からアリルラジカルが触媒的に発生する機構で進行する。

“Redox-Neutral a-Allylation of Amines by Combining Palladium Catalysis and Visible-Light Photoredox Catalysis”
Xuan, J.; Zeng, T.-T.; Feng, Z.-J.; Deng, Q.-H.; Chen, J.-R.; Lu, L.-Q.*; Xiao, W.-J.*; Alper, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 1625–1628. DOI: 10.1002/anie.201409999

問題設定

パラジウム触媒を用いたアリル化は新規結合形成反応として重要な反応である。特にアリルエステルやその誘導体から形成されたπ-アリルパラジウム中間体は、求電子剤として活用されており、炭素もしくはヘテロ原子求核剤と効率的に反応することが知られている。
一方、1電子もしくは2電子還元によってこの反応性を逆転させ、求核剤としてケトン、アルデヒド、イミン類と反応させることもできる。ただし、この場合には当量の金属還元剤が必要となってしまう。

π-アリルパラジウムからの触媒的アリルラジカル生成法は、達成困難な課題として残されていた。

技術や手法のキモ

光触媒―金属触媒のハイブリッド系は近年注目を集めている[1]。パラジウムと光触媒の協働系については、SanfordらによるC-Hアリール化の報告[2]が開拓的な事例として知られる。当該報告では光触媒の酸化的クエンチングから生成する高原子価Ru(III)種を用いて、Pd(III)→Pd(IV)の生成を鍵としている。

一方Xiaoらは還元的クエンチング経由の1電子還元におより、π-アリルパラジウム種からπ-アリルラジカルとPd(0)を発生させることができるのではないかと考え検討を行なっている。

主張の有効性検証

①反応条件の最適化

酢酸シンナミルとテトラヒドロイソキノリンを用いて、上述のような機構を想定した検討を行っている。Pd(PPh3)4触媒およびIr(ppy)2(dtbbpy)PF6触媒共存下に反応を行ったところ、81%で目的物が得られた。コントロール実験の結果からすべての試薬・光が重要であることも確認している。脱気操作も重要で、しないと0%収率になる。

②基質一般性の検討

アリル基質はアセテートのほかカーボネートやホスフェートも用いることができる。アルコールからはギ酸の添加により、直接π-アリルパラジウム形成も可能。ブロモ基でも反応は進行するが、この場合はPdがなくても進行する。還元的脱ハロゲン化によって、系内にアリルラジカルが供給されているためと考えられている。
アミン基質については、テトラヒドロイソキノリンのアリール置換は電子求引、供与とも許容される。αアミノカルボニル基質でも中程度の収率ではあるが、反応は進行する。

③反応機構に関する示唆

下図の触媒サイクルが提唱されている。

冒頭論文より引用

まず励起種であるIr(III)がアニリン基質を酸化し、引き続く脱プロトン化によりラジカルBが生成する。生成した低原子価Ir(II)がπ-アリルパラジウム(-1.35V)を1電子還元し、アリルラジカルDが生成。BDがラジカルカップリングして生成物ができる。

メカニズムの根拠として、①Dの自己カップリング体がしばしばみられること、②α-アミノラジカルBがMichaelアクセプターと反応する例が知られていること、③Michaelアクセプター非存在下では、Bの自己カップリング体が1週間程度の反応時間で10%程度生じると報告されている(Bはpersistent radical)ことなどがあげられている。

アリルラジカルDがパラジウムに乗って還元的脱離を経由する機構も考え得るが、様々な不斉配位子を検討した結果すべて0%eeであったことから、アリルラジカルが直接反応している経路が妥当であると考察されている。

議論すべき点

  • 反応が進行しない基質もSIに記載してあるが、違いが非常に微妙であり、基質の許容度が低く反応挙動の予測がしづらいように見える。生成するラジカル中間体がpersistentにならねばいけない制限から、ある程度は仕方ない。ラジカルの性質を事前に判断できる情報があれば、より気軽に使用しやすくなるかも。
  • メカニズムに関しては同時期にTungeらが同様のものを提唱[3]している。この時は下図の通り、ラジカル状態が安定な基質はpath a、不安定な基質はpath b経由でpersistent radical様に振る舞うと記載されている。また、path b経由の基質に関しては不斉配位子の活用により、少しだけエナンチオ選択性の発現が確認されている。

関連論文

  1. Twilton, J.; Le, C.; Zhang, P.; Shaw, M. H.; Evans, R. W.; MacMillan, D. W. C. Nat. Rev. Chem. 2017, 1, 0052. doi:10.1038/s41570-017-0052
  2. Kalyani, D.; McMurtrey, K. B.; Neufeldt, S. R.; Sanford, M. S. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 18566. DOI: 10.1021/ja208068w
  3. (a) Lang, S. B.; O’Nele, K. M.; Tunge, J. A. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 13606. DOI: 10.1021/ja508317j (b) Lang, S. B.; O’Nele, K. M.; Douglas, J. T.; Tunge, J. A. Chem. Eur. J. 2015, 21, 18589. DOI: 10.1002/chem.20150364
Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 【7/21 23:59〆切】研究費総額100万円!「AI × ◯…
  2. 理論化学と実験科学の協奏で解き明かしたブラシラン型骨格生合成の謎…
  3. 高分子と高分子の反応も冷やして加速する
  4. MOFを用いることでポリアセンの合成に成功!
  5. 2015年ケムステ人気記事ランキング
  6. 元素川柳コンテスト募集中!
  7. NMR Chemical Shifts ー溶媒のNMR論文より
  8. カルシウムイオン濃度をモニターできるゲル状センサー

注目情報

ピックアップ記事

  1. BASF150年の歩みー特製ヒストリーブックプレゼント!
  2. 抗生物質の誘導体が神経難病に有効 名大グループ確認
  3. 機械学習は、論文の流行をとらえているだけかもしれない:鈴木ー宮浦カップリングでのケーススタディ
  4. 第31回Vシンポ「精密有機構造解析」を開催します!
  5. ブルース・ギブ Bruce C. Gibb
  6. フェントン反応 Fenton Reaction
  7. 料理と科学のおいしい出会い: 分子調理が食の常識を変える
  8. マイクロ波を用いた革新的製造プロセスとヘルスケア領域への事業展開 (凍結乾燥/乾燥、ペプチド/核酸合成、晶析、その他有機合成など)
  9. 有機合成化学協会誌2019年4月号:農薬・導電性電荷移動錯体・高原子価コバルト触媒・ヒドロシアノ化反応・含エキソメチレン高分子
  10. ホウ素が隣接した不安定なカルベン!ジボリルカルベンの生成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年1月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP