[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

徒然なるままにセンター試験を解いてみた(2018年版)

[スポンサーリンク]

今年もセンター試験が終わりました。
大雪の問題など気象的に厳しかったかも知れませんが、受験生の皆さんは全力を尽くしたことでしょう。
昨年、同タイトルで2017年のセンター試験について書かせて頂きました(前年度の記事はこちら)(2010年版2011年版 )。

勝手に毎年恒例企画!ということで2018年も大学レベルの知識でセンター試験を解いてみようと思います(有機化学のみ)。

全体の印象

有機化学全体に関しては昨年度にくらべて「反応機構を考えてみると意外と難しいぞ!?」という問題はありませんでした。
また化学全体として物質の物性について問われるような問題が多かった印象でした。
なあんだ、つまらないの!って思う方もいらっしゃるかも知れません。

しかーし!普段より物性については考えるべきもの!

これについてしっかりと考えるチャンスなのです。
みなさんも解いてみてはいかがでしょうか?

問題と考察

第4問からが有機化学でした。

問1、問2

(東進解答速報のページより転載)

構造異性体と不飽和度について。
構造異性体についてはあまり考察点がありませんが、ケムステのこちらの全合成の記事を連想されたのでご紹介します。
何を全合成したの?Hexacyclinolの合成
全合成において異性体を作り分けることの困難さ、構造決定の大事さをより実感しますね。

一方で不飽和度です。
詳しいことは今度紹介頂けたらと思いますが、不飽和度は飽和アルカンから水素原子が不足している数のことを指します。
不飽和度という言葉を知っている大学生からすれば、二重結合または環状構造1つにつき不飽和度が1つ増えるという点で即答できると思います。

問3

(東進解答速報のページより転載)

アセトンの物性についてです。

①、②の選択肢について

有機合成を行う皆さんであれば当然アセトンの性質を答えられると思いますが、その他の使わない方は学生実験を思い出してください。
アセトンは器具洗浄に用いることが多いです。
アセトンは水と任意に混和する上に、カルボニル基の影響で溶媒自体の極性も高いです。溶解性も高いため有機物の洗浄にも適しており、器具の洗浄・置換にも非常に適しているのです。
また、研究室によっては研究費節約のために置換用に用いたアセトンを再度蒸留して再利用する場合があるそうです。
この場合は酸化されたDMDOによる爆発の危険性があるため、何度も蒸留して用いる場合酸化防止剤を入れておくなどのケアが必要となりますので皆様もお気をつけください。

③の選択肢について

「2-プロパノールの酸化により得られる」これでピーンと来た方は多いのではないでしょうか。
そうですJones酸化です。機構についてはこちらのケムステ記事をご参照ください(ジョーンズ酸化)。
こちらの記事内でも記載がありますが、通常ジョーンズ酸化の後処理ではイソプロピルアルコールを加えます。
これは系内に存在している酸化剤の六価クロムにイソプロピルアルコールを酸化させて三価クロムとすることで不活性とし、反応停止を行うことが目的です。
センター試験でもしっかり有機合成が学べるんです!(無理矢理すぎだろ)

④の選択肢について

フェーリング液とはアルデヒドの検出に用いられるもので、アルデヒドを酸化してカルボン酸にするフェーリング反応(銀鏡反応)に基づきます。
詳しい記事は今のところないので後に書かせて頂けたらと思います。

⑤の選択肢について

出ました皆さんご存じヨードホルム反応です!もっと大きな概念で言うとハロホルム反応ですね。
ハロホルム反応についてはケムステ内に記事がございましたのでご参照ください(ハロホルム反応)。
また、ヨードホルムそのものについても記事がございます(ヨードホルム)。
この反応について筆者がコメントさせて頂きたいのは呈色試薬としての有用性ではありません。

Swern反応などのDMSO系酸化反応は非常に優秀な反応ですが悪臭かつ有害なジメチルスルフィドが発生する反応でもあります。
そこで、ジメチルスルフィドの脱臭・無害化のために、用いた器具をアンチホルミンやブリーチなどで脱臭する方もいらっしゃると思います。
しかし、ブリーチやアンチホルミンにつけ置きしたものにアセトンを入れてはいけません。
なぜでしょうか。
ここで書いているので皆さんおわかりだと思いますがハロホルム反応が起きます。
アンチホルミンとは次亜塩素酸ナトリウム水溶液というアルカリ性強酸化剤のことを指します。
そのため、アセトンは直ちに反応しクロロホルムへと変換されます。
この反応は数多くの中和反応を含むこともあり、発熱反応であるため非常に危険です。
筆者は小規模ながら実際に沸騰しているのを見たことがあり、クロロホルムの香りがしていました。
皆様はそのようなことのないよう安全に気をつけてご使用ください。

問4

(東進解答速報のページより転載)

アルコールをナトリウムと反応させて水素を発生させると書いてありますが、こちらはナトリウムアルコキサイドの調製ですね。
水素を吸着させたと書いてあるのはどの触媒でしょうか、筆者は想像してしまいました。
均一系水素触媒にはWilkinson触媒やCrabtree触媒などありますね(Wilkinson触媒こちら(Crabtree触媒はこちら)。
実際には当量用いないので水素吸蔵合金とかを想像した方が良いのかも知れませんが。

問5

(東進解答速報のページより転載)

a問題について

有機合成っぽいのきたぁ!!と有機合成を専門にしている方はわくわくされたのではないでしょうか。
昨年ワードだけ記載しましたコルベ–シュミット反応によって合成されるサリチル酸(コルベ–シュミット反応はこちら)。
サリチル酸は副作用があるため、アセチル化されたアセチルサリチル酸(アスピリン)が生まれたという話は有名ですよね。
アセチル化に関してはカルボン酸とフェノール製水酸基双方と反応しうると思いますが、カルボン酸と反応してできた混合酸無水物が加水分解されて得られているのではないかと思います。

b問題について

フェノール性水酸基は三価鉄と錯体を形成して呈色します。
これを利用して酸化する反応もありますよね。

最後に

以上、有機化学分野のみですが解答と大学化学を用いた考察をしてみました。
今年は化合物の物理的性質について学ぶことができるセンター試験だったと思います。
その他の大学試験も、教員の方が時間をかけてしっかり考えて作ったもの。
大学院生の視点から解いて見てみると基礎的なことでも自分の理解していない部分が見えてくるかもしれません。
みなさんもこれを機に一度大学入試を解き直してみてはいかがでしょうか。

gladsaxe

投稿者の記事一覧

コアスタッフで有りながらケムステのファンの一人。薬理化合物の合成・天然物の全合成・反応開発・計算化学を扱っているしがない助教です。学生だったのがもう教員も数年目になってしまいました。時間は早い。。。

関連記事

  1. 光触媒水分解材料の水分解反応の活性・不活性点を可視化する新たな分…
  2. 水入りフラーレンの合成
  3. アメリカ大学院留学:TAの仕事
  4. 無保護アミン類の直接的合成
  5. 作った分子もペコペコだけど作ったヤツもペコペコした話 –お椀型分…
  6. フラッシュ自動精製装置に新たな対抗馬!?: Reveleris(…
  7. 触媒でヒドロチオ化反応の位置選択性を制御する
  8. 自分の強みを活かして化学的に新しいことの実現を!【ケムステ×He…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 触媒的芳香族求核置換反応
  2. ジメシチルフルオロボラン:Dimesitylfluoroborane
  3. 有機EL、寿命3万時間 京セラ開発、18年春に量産開始
  4. 美術品保存と高分子
  5. 「自分の意見を言える人」がしている3つのこと
  6. ベンゼンの害、低濃度でも 血液細胞に損傷
  7. 前田 和彦 Kazuhiko Maeda
  8. 化学結合の常識が変わる可能性!形成や切断よりも「回転」プロセスが実は難しい有機反応
  9. Nature Reviews Chemistry創刊!
  10. ポリセオナミド :海綿由来の天然物の生合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年1月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP