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化学者のつぶやき

メタロペプチド触媒を用いるFc領域選択的な抗体修飾法

2017年、ライス大学・Zachary Ballらは、ロジウム(II)メタロペプチドを触媒として用い、IgG抗体のFc領域選択的な化学選択的修飾法の開発に成功した。本法はFab領域を修飾しないため、抗体の抗原認識能に影響を与えることがなく、また配列改変を必要としないため、簡便な手順にて蛍光ラベル化抗体や均質抗体―薬物複合体(ADC)が製造可能である。

“A Hexa-rhodium Metallopeptide Catalyst for Site-Specific Functionalization of Natural Antibodies”
Ohata, J.; Ball, Z. T.* J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 12617–12622. DOI: 10.1021/jacs.7b06428(アイキャッチ画像は論文より引用)

問題設定

化学修飾はタンパク質の機能拡張に有効な方法論であり、なかでも抗体—薬物複合体(ADC)は治療応用観点から注目を集めている。リジンもしくはシステインの求核的側鎖を狙った修飾が従来の主流であったが、反応性の高さと露出度の高さが相まって不均質混合物を与えてしまう。このためADCの構造活性相関取得・構造解析・再現性のよい製造は困難である。この事情から近年では修飾位置を限定した、均質ADCを合成する試みが盛んである。これまではタンパク質工学による非天然アミノ酸置換[1]、酵素/化学試薬に適した特殊配列組み込み[2]を基盤とする手法が報告されていた。
天然型抗体を位置選択的に修飾できれば、均質ADCをより直截的に得ることが出来る。しかしながら特定位置を狙って、副反応を抑制しつつ修飾を行なうこと、とくにFc領域選択的修飾法は未だ達成困難な課題である。

技術や手法のキモ

Ballらはかねてより、ロジウム(II)メタロペプチドのタンパク―リガンド相互作用に基づくジアゾ試薬を用いた化学選択的タンパク質修飾法に精力的に取り組んでいる[3]。しかしながらこれまでの達成例では比較的小さいタンパク質を標的としており、低収率・部分修飾で止まってしまうことも問題となっていた。

今回の論文では、protein A由来のZドメインペプチド[4]を抗体Fc領域選択的なリガンドとして用い、これに二核ロジウムカルボキシレートを組み込んだメタロペプチド触媒を創製し、抗体Fc領域選択的な化学変換を達成している。

主張の有効性検証

①ヘキサロジウム(II)メタロペプチドの設計・合成・構造決定

ペプチド―抗体複合体の既知結晶構造(PDB: 1FC2、下図)からデザインしている。

(図は論文より引用)

Zドメインペプチド33残基のうち、金属と結合して触媒失活・凝集誘起・取扱および精製の難化をもたらすM3とH14[5]を除去し、錯形成用カルボン酸としてE3、E11、E20に絞ったものを用いている。固相合成したペプチドに対しRh2(tfa)1(OAc)3を作用させる[6]ことで、求める錯体を得ている。

② メタロペプチドを用いる反応条件最適化

抗体Fc断片を基質として条件最適化を行なうことで、抗体(8 μM)、メタロペプチド (16 μM)、ジアゾ基質(1 mM)、Ntert-butylhydroxylamine (TBHA) buffered saline with glycerol (total 500 μL, pH 6.4)、10℃、8hでのインキュベートを最適条件とした。

Fab・Fc断片別個に反応を行なうことで、Fc断片だけに反応が進行すること、Rh2(OAc)4共存下もしくは触媒非存在下では反応が進行しないこと、Fc結合ペプチドと競合させると反応効率が低下することを確認している(解析はアルキン担持型タンパクの化学ブロッティング[7]で行っている)。MALDI解析から単一生成物が出来ていること、トリプシン消化後のMS/MS解析により、Fc領域にあるAsn79のみが変換されることが示唆された。
また興味深いことに、複数のロジウム中心が触媒活性に重要であることが示唆された。E3、E11、E20それぞれ一つのみ錯形成を行なった触媒を調製して活性を比較したところ、いずれも低収率にとどまった。おそらくは触媒中心として働くロジウムの他に、ルイス酸として働き抗体結合能強化に寄与するロジウムがあるのではと考察されている[8]。

③抗体および搭載分子の一般性と機能評価

抗体側の一般性:proteinAと結合することが既知であるヒト、ブタ、ウサギ、イヌIgG抗体はいずれも反応が進行する。結合しないウシ抗体は修飾度が低い。マウス IgG抗体はproteinAと結合するが、おそらく適切な反応点がないため、修飾が進行しない。ヒト化抗体医薬であるハーセプチンにも修飾が進行する。
蛍光分子の搭載:上記のようにアルキンタグで修飾したヒトIgGおよびハーセプチンに対し、赤色蛍光Ir錯体(5a)[9]と緑色蛍光分子FITC(5b)をClick反応で結合させることが可能。HER2過剰発現がん細胞株(SK-BR-3)へFITC修飾ハーセプチンを振りかけると細胞周りが光ることから、抗原結合能が維持されていることを確認している。

(図は論文より引用)

均質ADCの製造:毒物(ドキソルビシン)と精製・検出用タグ(デスチオビオチン)を備えた分子6とアルキン修飾型抗体を反応させて、ADCを製造している。抗体-薬物結合比(DAR)は検量線から1:1と算出され、収率>90%で修飾が進行していることが確認された。得られたADCは、SK-BR-3細胞への結合能も保持している。

(図は論文より引用)

議論すべき点

  • 長年にわたって蓄積された独自知見(試薬・合成法・解析法など)があらゆる局面で活用されており、かなり戦略的なプロジェクト設計がなされている事実が読み取れる。
  • 抗体はC2対称性を持っているのでADCのDARは偶数になると思われるが、このケースでは1:1になる。やや不思議。
  • 遷移金属(Rh、Cu)を使用する点には、残存面でやや懸念がある。Click反応に用いられる銅は毒性が強いが、歪みアルキン型反応への転換が待たれる。ロジウムの毒性についての報告は乏しいが、白金程度の危険性と捉えるべきとの提案がある[10]。

次に読むべき論文は?

・抗体結合リガンドの総説[11]:位置選択性スイッチなどの可能性を追求する目的で、検討価値がある分子群を知っておくといいだろう。

参考文献

  1. (a) Hofer, T.; Skeffington, L. R.; Chapman, C. M.; Rader, C. Biochemistry 2009, 48, 12047. DOI: 10.1021/bi901744t (b) Axup, J. Y.; Bajjuri, K. M.; Ritland, M.; Hutchins, B. M.; Kim, C. H.; Kazane, S. A.; Halder, R.; Forsyth, J. S.; Santidrian, A. F.; Stafin, K.; Lu, Y.; Tran, H.; Seller, A. J.; Biroc, S. L.; Szydlik, A.; Pinkstaff, J. K.; Tian, F.; Sinha, S. C.; Felding-Habermann, B.; Smider, V. V.; Schultz, P. G. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2012, 109, 16101. doi:10.1073/pnas.1211023109 (c) Zimmerman, E. S.; Heibeck, T. H.; Gill, A.; Li, X.; Murray, C. J.; Madlansacay, M. R.; Tran, C.; Uter, N. T.; Yin, G.; Rivers, P. J.; Yam, A. Y.; Wang, W. D.; Steiner, A. R.; Bajad, S. U.; Penta, K.; Yang, W.; Hallam, T. J.; Thanos, C. D.; Sato, A. K. Bioconjugate Chem. 2014, 25, 351. DOI: 10.1021/bc400490z
  2. (a) Siegmund, V.; Schmelz, S.; Dickgiesser, S.; Beck, J.; Ebenig, A.; Fittler, H.; Frauendorf, H.; Piater, B.; Betz, U. A. K.; Avrutina, O.; Scrima, A.; Fuchsbauer, H.-L.; Kolmar, H. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 13420. DOI: 10.1002/anie.201504851 (b) Witus, L. S.; Netirojjanakul, C.; Palla, K. S.; Muehl, E. M.; Weng, C.-H.; Iavarone, A. T.; Francis, M. B. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 17223. DOI: 10.1021/ja408868a (c) Zhang, C.; Welborn, M.; Zhu, T.; Yang, N. J.; Santos, M. S.; Van Voorhis, T.; Pentelute, B. L. Nat. Chem. 2016, 8, 120. doi:10.1038/nchem.2413
  3. Ball, Z. T. Curr. Opin. Chem. Biol. 2015, 25, 98. doi: 10.1016/j.cbpa.2014.12.017
  4. Braisted, A. C.; Wells, J. A. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 1996, 93, 5688.
  5. Sambasivan, R.; Zheng, W.; Burya, S. J.; Popp, B. V.; Turro, C.; Clementi, C.; Ball, Z. T. Chem. Sci. 2014, 5, 1401. doi:10.1039/C3SC53354A
  6. Martin, S. C.; Minus, M. B.; Ball, Z. T. Methods Enzymol. 2016, 580, 1. doi:10.1016/bs.mie.2016.04.016
  7. Ohata, J.; Vohidov, F.; Ball, Z. T. Mol. BioSyst. 2015, 11, 2846. doi:10.1039/C5MB00510H
  8. Vohidov, F.; Knudsen, S. E.; Leonard, P. G.; Ohata, J.; Wheadon, M. J.; Popp, B. V.; Ladbury, J. E.; Ball, Z. T. Chem. Sci. 2015, 6, 4778. doi:10.1039/C5SC01602A
  9. Ohata, J.; Vohidov, F.; Aliyan, A.; Huang, K.; Martí, A. A.; Ball, Z. T. Chem. Commun. 2015, 51, 15192. doi:10.1039/C5CC06099K
  10. https://www.sanei.or.jp/images/contents/290/Rhodium_soluble_compounds.pdf
  11. Kruljec, N.; Bratkovič, T. Bioconjugate Chem. 2017, 28, 2009. DOI: 10.1021/acs.bioconjchem.7b00335
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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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