[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

プロテオミクス現場の小話(1)前処理環境のご紹介

[スポンサーリンク]

数年ぶりに化学者のつぶやきに投稿するにあたり、ケムステでのプロテオミクス関連記事を検索してみました。
活性ベースタンパク質プロファイリング Activity-Based Protein Profiling
共有結合性リガンドを有するタンパク質の網羅的探索法
メチオニン選択的なタンパク質修飾反応

ケミカルバイオロジーの話題を提供してくださっているのですね。私の職場でも日々このようなサンプルを扱っておりますので、これからちょくちょく現場の小話をさせてください。みなさんの御研究のご参考になれば幸いです。なお、この話題提供は私の個人的見解であってプロテオミクスのスタンダードから外れていることもあるかと思いますのでその点はご了承のほどよろしくお願いいたします。

プロテオミクスとはタンパク質の大規模解析

Google先生に聞いてもらうと丁寧に説明してもらえますので割愛しますが、試料中に含まれるタンパク質の種類と存在量を質量分析計を使って調べる方法です。有機合成反応を追跡する場合、TLCを使って原料と生成物とを分離したのちUV等で検出しますね。プロテオミクスの場合、タンパク質を(ごく一部の例外を除き)酵素で消化します。得られたペプチド断片の混合物をHPLCを分離したのち質量分析計で検出します。(タンパク質をそのまま分析する手法「トップダウンプロテオミクス 」の手法も研究が進んでいますのでご興味がある方はGoogle先生に聞いてみてください)

タンパク質を酵素で消化する現場

「ケラチンのコンタミ」って言葉を聞いたことありますか。試料中のタンパク質が微量(うちの現場では「微量」とはマイクロチューブに1 µgのタンパク質が入っているかどうかの程度のサンプルを微量と言っています。アフィニティ精製した溶出液などが該当しますね。)な場合、操作するヒト由来の成分が混入(コンタミ)すると、その量の多さからコンタミ成分ばかりが検出されて、検出したいタンパク質を同定できないことがあります。質量分析計のダイナミックレンジは3~4桁程度なので、相対的に量が少ないとアバンダントなタンパク質由来のペプチド(コンタミ)にイオン化の際邪魔されてしまいます(イオンサプレッションと言います)。

クラスII 安全キャビネットでの操作

ここではHEPAフィルター搭載の安全キャビネット内で操作をしています。試薬分注に使う電子天秤、タンパク質の分離に使う電気泳動装置からシェーカーまで揃えています。受け取ったサンプルにすでに入っているケラチンは除去できないのですが、この後続く長いタンパク質消化工程でのコンタミを最小限に抑えるための環境です。

溶媒除去には遠心濃縮機

遠心濃縮装置は、遠心しながら減圧濃縮を行うことができます。したがって突沸によるサンプルロスのリスクを軽減できます。ただし、減圧解除時が要注意です。いきなり解除するとサンプルロスにつながりますので水で濡らしたキムワイプでコックを押さえながら、ゆっくりと減圧解除します。

以上簡単にですが、前処理環境のご紹介をいたしました。プロテオミクス現場の小話(2)では測定環境のご紹介をいたします。

精密質量測定など、サンプルを募集しています

名古屋大学ITbM分子構造センターでは受託分析を行っております。学外および企業の方も、マシンタイムに空きがあればご対応いたします。詳細は下記URLをご覧のうえ、メールでのご連絡をお待ちしております。

お問い合わせ・ご依頼はこちら

 

Avatar photo

msc

投稿者の記事一覧

質量分析計を使ったメソッド研究開発、国内外の研究者との共同研究および受託分析(実験計画からデータ解析まで)を行なっております。測定対象は、タンパク質同定およびLC-MSによる分析を中心に、水素-重水素交換質量分析(HDX-MS)、MALDI-TOFによる分析等幅広く扱っています。ITbMでは、トランスフォーマティブ分子の機能構造解析(プロテオミクス によるターゲットID、構造解析等)をITbMグループと共同で進めています。詳細はURLをご覧ください。

関連記事

  1. シンクロトロン放射光を用いたカップリング反応機構の解明
  2. アステラス病態代謝研究会 2019年度助成募集
  3. エッセイ「産業ポリマーと藝術ポリマーのあいだ」について
  4. プリンターで印刷できる、電波を操る人工スーパー材料
  5. 未来を切り拓く創薬DX:多角的な視点から探る最新トレンド
  6. 会社でも英語を重視?―さて詮なきことか善きことか
  7. C(sp3)-Hアシル化を鍵とするザラゴジン酸Cの全合成
  8. 君には電子のワルツが見えるかな

注目情報

ピックアップ記事

  1. 理系のための口頭発表術
  2. 秘密保持契約(NDA)
  3. 背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?
  4. 頻尿・尿失禁治療薬「ベシケア」を米国で発売 山之内製薬
  5. 「ニコチンパッチ」6月1日から保険適用
  6. 低温低圧・常温常圧窒素固定の反応開発 最新情報サマリー その1
  7. 国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟でのColloidal Clusters 宇宙実験
  8. ノンコーディングRNA 〜 RNA分子の全体像を俯瞰する〜
  9. クルト・ヴュートリッヒ Kurt Wüthrich
  10. 第47回ケムステVシンポ「マイクロフローケミストリー」を開催します!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年3月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP