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化学書籍レビュー

高機能性金属錯体が拓く触媒科学:革新的分子変換反応の創出をめざして

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概要

新規反応開発では金属錯体触媒の創製が鍵を握っており,現在まで多種多様な金属錯体が合成反応に利用されてきた.現在,工業的に利用されている汎用錯体触媒は,そもそも独創的な配位子設計によるものが多く,それが発展して実用化に至っている.本書では,省エネルギー,資源の有効利用などの要求に応えうる,次世代の物質合成を支える分子変換の実現に向けて,独創的な触媒反応を開発している第一線の研究を解説する.(引用;化学同人書籍紹介より).

対象者

  • 錯体化学に興味がある学生
  • 有機金属化学・触媒科学・生物無機化学を専門とする化学者
  • 研究室配属先に悩む学部生

目次

第Ⅰ部 基礎概念と研究現場

  • 1章 Interview:フロントランナーに聞く(座談会)
  • 2章 高機能性金属錯体を知るための基礎
  • 3章 History and Future:有機金属化学の歴史と将来

第Ⅱ部 研究最前線

  • 1章 ピンサー型錯体を用いる有機合成反応の新展開
  • 2章 遷移金属錯体による触媒的アンモニア生成反応の開発
  • 3章 高機能性金属錯体によるカルボン酸の水素化
  • 4章 レドックス活性配位子の特性を活かした前周期遷移金属錯体による分子変換
  • 5章 金属-配位子協働による水素-典型元素結合の切断と形成
  • 6章 企業における均一系触媒反応の実際
  • 7章 電子的にフレキシブルな配位子のオレフィン多量化反応への展開:重合および選択的三量化
  • 8章 キラル多核金属錯体を用いる触媒的不斉合成
  • 9章 ルイス酸点含有錯体による分子変換
  • 10章 配位不飽和な二核ルテニウム錯体による分子変換
  • 11章 生体触媒反応場の制御と高難度酸化反応
  • 12章 バイオハイブリッド触媒による重合反応:βバレル型タンパク質反応場の利用
  • 13章 水素分子の活性化と分子燃料電池
  • 14章 Bio-relevantな金属イオンを含む酸素発生錯体触媒の開発
  • 15章 計算化学が先導する酵素触媒反応の設計
  • 16章 デンドリマーを精密反応場とするサブナノ粒子の合成と機能
  • 17章 多孔性固体配位子

第Ⅲ部 役立つ情報・データ

内容

化学同人より出版されている「CSJカレントレビュー」シリーズ第37弾です。本書のトピックは金属錯体と触媒科学。基礎的な触媒設計指針から、有機反応への応用や企業での高分子・材料開発への応用まで幅広く取り上げられています。

他のCSJカレントレビューシリーズ同様の構成で、第Ⅰ部 第1章にてフロンティアランナーへのインタビューから現在の研究傾向・将来の見通しを明示したのち、第2章以降で基礎的な知識の振り返りがなされます。そして第Ⅱ部では研究最前線と銘打って、日本で活躍する研究者の方々の研究総説がまとめられています。アカデミックだけでなく、企業研究も取り上げられています。最後の第Ⅲ部はデータ集として、重要な論文・用語集がまとめられているため、より深い学習に使用できます。

 

感想

触媒開発といえば、有機反応開発の論文で見るもの。そんな程度の認識をしていた私が、現場でどのように考えられて触媒が作られているのか覗き見るのに有用な教科書でした。

まず第Ⅰ部第1章では、中尾佳亮教授、荘司長三教授、岩澤伸治教授、宇都宮賢博士、鷹谷絢准教授の5名による座談会記事が載せられています。現在の研究の進め方、海外と比べた日本の研究、今後の触媒研究の展望などが語られています。触媒の話から少しそれてる場面が多い気がしますが、定期的に海外と比べた日本の研究施策の弱点、伴う学生の変化が述べられてるのは興味深いポイントでした。日本の研究スタイルでは異分野をとりいれて研究のフィールドを広げるのが難しい、しかし今後は多角的な視野が触媒開発に求められる。というのは先生方が実感している問題なのかなと想像できました。また、三菱ケミカルの宇都宮博士がいらっしゃることで、触媒の社会での役割、求められる学生像が語られているのも、このカレントレビュー独特のインタビューだと思います。

第Ⅰ部第2章第3章では、第II部の先端研究を理解するために必要な最低限の知識が補填されます。ここが本当に面白い!専門の方にとっては当たり前の知識なのかもしれませんが、僕は正直知らないことも多かったので、ミニ教科書として活用できました。学部レベルの知識で理解できる基礎的なことが書いてあるため、簡単に賢くなれます。特に山下誠先生の書かれたBasic Concept 1は配位子や反応に関する用語とその定義がまとめ直されていて、なかなか学べるものが多かったです。(先のケムステシンポジウムでもそうでしたが、本当に教育的な解説に堪能な方ですね。)

また第3章、小宮先生の”有機金属化学の歴史と将来展望”では、似たような論文が量産されている現状への懸念が語られ、そのことに対する見解が述べられます。詳細は自身で読んで頂きたいですが、若手研究者として心に留めておきたいことだと感じました。

第Ⅱ部では、研究最前線として、今アクティブな研究者たちの研究レビューがまとめられています。議論の進め方だけの違いかもしれませんが、目的の反応を目指して徹底的に触媒の設計を工夫する研究(2章、3章、6章、13章、15章)と、ユニークな構造の触媒を作り結果的に独特な反応を見つける研究(1章、4章、5章、7章、8章、9章、10章、11章、12章、14章、16章、17章、18章)の2種類に分けられる気がしました。前者のタイプの研究は、触媒の化学的性質の考察から触媒設計を効率化する思考プロセスが大なり小なり書かれていて、ためになります。後者のタイプは、触媒の構造と、そのユニークさの解説があるのが純粋に面白かったです。特にユニークさで言うと、生体分子を反応場に用いる11章、12章。高分子を反応場に用いる16章。メソポーラスシリカを用いる17章などが飛び抜けていて、楽しく読めました。

本冊子は他のカレントビューと比べても、インダストリーの観点が取り入られているのが特別なところだと思っております。実際、6章(三菱ケミカル株式会社) 7章(三井化学株式会社) 17章(株式会社豊田中央研究所)は企業研究からの寄稿です。ターゲット設計がやはりインダストリー特有でした。アカデミア研究記事と比べると、どうしても結果ベースで少々情報量は減りますが、その分インダストリー研究で大事にされるポイントが存分に語られています。狙ったわけではないと思いますが、6章7章両方が同じトピック(エチレンの選択的3量化)を語ることで、企業ごとの強みもよりはっきり見えました。将来この分野の企業就職を目指す学生はもちろん、アカデミア志願の学生でも、視野を広げるのに役に立つと思います。

第Ⅲ部では主に、触媒分野での歴史的に大事な論文がまとめられております。またそれぞれの論文の小解説、革新的なポイントをまとめてくださっているので、これらの論文を探す・理解する際に非常に有用です。

 

最後に

他の記事でも紹介されていますが、私個人の意見としても、このCSJカレントレビューシリーズの読者は学部生も含まれると思っています。

研究室選択、自身のやりたいことを探索するには、もちろん興味のある研究室の論文や当該分野のレビュー論文を片っ端から読むのが一番です。しかし、学部の知識でそこまで容易ではないと思います。

そんなとき基礎的な知識の補完、最先端研究の紹介が日本語で得られる教科書はCSJカレントレビューシリーズの他に少ないです。学部の知識で理解した気にはなれるので、今日本で活性化してる幅広い分野をそれぞれ深くまで知るのに最適な「教科書」だと思います。

実際私も、学部3年当時、刊行されてた物を読み漁り

20.精密重合が拓く高分子合成: 高度な制御と進む実用化

19. 生物活性分子のケミカルバイオロジー :標的同定と作用機構

の二冊に心惹かれた事から高分子合成とケミカルバイオロジーを学習の軸に据えることに決めました。結果ラボ配属後も大体やりたいことが出来て楽しんでいます。

アドバイスできる立場でもありませんが個人的な経験から、研究の面白さで研究室を選びたい方も是非本書を活用していただきたいと思います。

CSJカレントレビューに関するケムステ過去記事

 

Maitotoxin

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学生。高分子合成専門。低分子・高分子を問わず、分子レベルでの創作が好きです。構造が格好よければ全て良し。生物学的・材料学的応用に繋がれば尚良し。Maitotoxinの全合成を待ち望んでいます。

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