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徹底比較 特許と論文の違い ~その他編~

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前回に引き続き、特許と論文の違いについて考えていきたいと思います。前回は、大きな違いである書物の中身と審査の過程の違いについて比べましたが、今回は違いだけでなく同じことについても考えてみました。

異なる点

前回説明した通りそもそも論文と特許は、目的が異なるので細かな違いはたくさんあります。そのためここではユニークな違いについて見ていきたいと思います。

一つの国際特許出願を行うことで、非常に多数の国 で同時に発明の保護を求めることが可能

通常、特許は出願した国のみで有効で日本で、出願すれば日本でのみ有効となります。しかしパリ条約特許協力条約(PCT)という日本が加盟している国際条約ものがあり、この条約に加盟している国に対しては、それぞれのルール(PCTルート、パリルート)での審査を通過すれば、個別に出願せずに加盟国で特許を登録することができます。しかも最初に国内で出願した日を他の国でも出願した日とみなし同様の出願が他の国であっても、この特許に優先が得られます(優先権)。論文で例えると、JACSでアクセプトされたので、AngewandteやNature chem, Bull. chem.にも掲載されるようなイメージでしょうか。

パリルートとPCTルートによる出願の違い(引用:WIPO

PCTの地図によると多くの国が加盟してしていますが、パキスタンとアフガニスタン、イラク、ベネゼエラは加盟していないようです。特許出願で話題になるのは台湾の場合で、台湾はPCTにもパリ条約にも加盟していないので登録できません。しかし台湾はWTO加盟国であるため、WTO加盟国であればTRIPs協定の適用で優先権を主張して台湾出願を行うことができます。北朝鮮はPCT条約に加盟しているため、PCTかパリ条約のルールで登録できれば日本の特許も北朝鮮で原理上は有効になります。しかし、北朝鮮はWTOには加盟していないので北朝鮮から優先権を主張して台湾出願を行うことができません。また、日本は北朝鮮を国家として認めていないので北朝鮮の特許を日本で権利化できないようです。

PCT加盟国、台湾は青く塗られているが、加盟していない(引用:WIPO

PCTルートを使って特許を出願すると数十万円の手数料がかかりますが、発展途上国から出願すると90%減額されます。これは、発展途上国からの出願を奨励するためのようです。

自由に全文を閲覧できる

オープンアクセスの論文も増えていますが、公開された特許はすべてタダで読むことができます。前回も触れましたが、本文だけでなく審査の過程のやり取りも公開されていて、閲覧することができます。

特許情報プラットフォーム、日本の特許を中心にキーワードや番号による検索と本文のダウンロードが可能(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage

同じ点

異なる点は、細かいことを列挙していくときりがないので、同じ点をいくつか考えてみました。

ScifinderやReaxysで検索できる

多くの学術検索サービスでキーワード検索を行うと特許も同様に表示されます。ただしそれらのサービスが特許の検索に最適というわけではなく、特許の検索に特化したサービスの方が効率よく検索できます。注目している特許の審査状況が気になる場合には、状況の変化をメールしてくれる機能も多くのサービスで備わっています。

実績になる

実績の定義にもよりますが、就職・転職活動の際にはどちらも履歴書や職務経歴書などに記載できる実績です。研究室によっては、特許発表を実績一覧の中にまとめています。他人の出願を検索することはだれでもできるため、登録された特許が何件あるかが本当の実績となります。

引用できる

特許の明細書には論文を引用できますし、論文にも特許の明細書を引用できます。ただしケムステ過去記事でも触れましたが特許の実験項は、論文ほど質が高くないので同様に実験しても再現できないことがあります。

これで特許と論文の比較する記事は終わりです。学生の頃は特許について何も感じず雲の上の存在でしたが、会社に入り、いざ特許に関わるとその奥の深さに驚きました。ただ他社の特許を調べるにしても、請求項をしっかりと理解して自社で開発中の製品が抵触していないかまで見ないと調べたことにはならず、小手指の知識では特許を主業務にするのは難しいと感じます。しかしながら特許業務は分野に関係なくどの企業でも必要とされるスキルであり、研究者として勉強すれば、自分のキャリアに必ず役に立ちますし、とても頑張ると弁理士取得やアドバイザーとしてのセカンドキャリアも夢ではない魅力的なスキルだと思います。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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