[スポンサーリンク]

ケムステニュース

東レから発表された電池と抗ウイルスに関する研究成果

[スポンサーリンク]

東レ株式会社は、この度、空気電池用イオン伝導ポリマー膜の創出に成功しました。本ポリマー膜をリチウム空気電池のセパレータに適用することで、安全性の向上と電池の長寿命化が図れ、電気自動車(EV)や産業用ドローン、UAMなどの航続距離拡大に貢献します。(引用:東レプレスリリース6月1日)

東レ株式会社は、このたび、即効性に優れる新たな抗ウイルス粒子を開発しました。(引用:東レプレスリリース5月26日)

今回のケムスケニュースでは、東レより発表された研究開発に関するプレスリリース2件を紹介します。

まず1件目は、リチウム空気電池用イオン伝導ポリマー膜についてです。リチウム空気電池とは、金属リチウムを負極、空気を対極とする電池のことで、放電時はリチウムが空気中の酸素と反応し酸化リチウムや過酸化リチウムが生成し、一方充電時はリチウム酸化物が反応し酸素と金属リチウムが発生します。

リチウム空気電池の反応機構(引用:Wikipedia

東レではこのリチウム空気電池のセパレーターに着目し、一般的なセパレータである微多孔フィルムと比べて正極負極の電解液の分離性がよく、リチウムデンドライトの析出成長が抑制されるイオン伝導ポリマー膜の開発に成功しました。

開発したイオン伝導ポリマー膜は、東レが長年培ってきた芳香族ポリアミドの分子設計技術を駆使して設計されたもので、リチウムイオンがホッピングで移動可能なのが特徴です。さらにリチウム塩が複合化されており、電池作動を可能とする3×10-5S/cmと高いイオン伝導性が実現されているとともに、無孔であるため2種の電解液分離性とリチウムデンドライト抑制が原理的に達成可能としています。実際にこのセパレータを使用したリチウム空気電池では、充放電サイクルにおいて微多孔フィルムと比較して10倍以上の安定した電池作動時間を確認しているそうです。

東レはセパレータにおいて世界有数のシェアを持ち、特許も多数出願しているセパレータのリーディングカンパニーです。無孔イオン伝導性ポリマーについては、2020年の11月にリチウムイオン電池向けのセパレーターへの応用で似たような内容を発表しており、リチウム空気電池向けにポリマー膜を改良して得られた成果かもしれません。バッテリーに関するビジネスは、今後も成長が期待されていますが、東レのセパレータフィルム事業においては市場競争の激化に伴い、車載用途を中心に収益性が低下しており22年3月期に減損損失を226億円計上する見込みだと発表しています。成長分野において競争が激化するのは当たり前のことですが、独自の技術を伸ばして生き残ってほしいと思います。

2件目は、抗ウィルス粒子の開発についてで、COVID-19の蔓延により抗ウィルス成分を固定化して持続的に物体表面に付着したウィルスを分解する研究が進められています。東レでは、酸化セリウムについて独自の方法で合成しかつ表面処理を施すことでウイルスに対する吸着性と酸化分解機能を付与することに成功しました。

SARS-CoV-2デルタ株を使って抗ウイルス性試験を実施したところ、15秒で99.9%以上、5分で99.99%以上不活化することを確認しました。この粒子は建築材料や塗料、包装材料などへ適用できるだけでなく、コーティング加工や練り込み加工にも対応が可能なため、建材や、マスクおよび医療用ガウン用途向け不織布、エアコン・空気清浄機用フィルター、カーシートにウイルスの不活性化を付与できるとしています。

東レでは、酸化セリウムの抗菌、抗ウイルス性について特許を出願しており、その中で樹脂層の表面ゼータ電位を一定の範囲にすることでウイルスを樹脂表面に吸着させて、効率よく不活性化できるとしています。その表面ゼータ電位は、熱可塑性フィルム中の酸化セリウムの割合や樹脂層の厚みで変化することが実験的に示されており、本発表の技術も似たようなアプローチでコーティングされた酸化セリウム粒子を開発されたのかもしれません。

1件目は電池、2件目はライフサイエンスと話題性の高いトピックに対して、自社の強みを活かした方法で課題に取り組み、一定の成果に結びついていることが分かります。プレスリリースでは技術的な詳細は分かりませんが、どちらも素材の製法や実験結果が気になるところです。両成果の製品化に期待します。

関連書籍

関連リンク

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 毒を持ったタコにご注意を
  2. グラクソ、抗血栓症薬「アリクストラ」の承認を取得
  3. 化学系プレプリントサーバー「ChemRxiv」のβ版が運用開始
  4. 分子素子の働き せっけんで確認
  5. 国際化学オリンピック2022日本代表決定/化学グランプリ2022…
  6. 中国産ウナギから合成抗菌剤、厚労省が検査義務づけ
  7. 持田製薬、創薬研究所を新設
  8. ダニを食べ毒蓄積 観賞人気のヤドクガエル

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 産業紙閲覧のすゝめ
  2. グローバルCOE審査結果
  3. おまえら英語よりもタイピングやろうぜ ~中級編~
  4. 第150回―「触媒反応機構を解明する計算化学」Jeremy Harvey教授
  5. 低分子ゲル化剤の分子設計、合成法と応用技術【終了】
  6. カーボンナノチューブをふりかえる〜Nano Hypeの狭間で
  7. 分子びっくり箱
  8. デスソース
  9. ビニグロールの全合成
  10. サン・タン San H. Thang

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

注目情報

最新記事

【書評】現場で役に立つ!臨床医薬品化学

「現場で役に立つ!臨床医薬品化学」は、2021年3月に化学同人より発行された、医…

環状ペプチドの効率的な化学-酵素ハイブリッド合成法の開発

第494回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院生命科学院 天然物化学研究室(脇本研究室) 博…

薬学会一般シンポジウム『異分野融合で切り込む!膜タンパク質の世界』

3月に入って2022年度も終わりが近づき、いよいよ学会年会シーズンになってきました。コロナ禍も終わり…

【ナード研究所】新卒採用情報(2024年卒)

NARDでの業務は、「研究すること」。入社から、30代・40代・50代…と、…

株式会社ナード研究所ってどんな会社?

株式会社ナード研究所(NARD)は、化学物質の受託合成、受託製造、受託研究を通じ…

マテリアルズ・インフォマティクスを実践するためのベイズ最適化入門 -デモンストレーションで解説-

開催日:2023/04/05 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

ペプチド修飾グラフェン電界効果トランジスタを用いた匂い分子の高感度センシング

第493回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 物質理工学院 材料系 早水研究室の本間 千柊(ほ…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 2

第一弾に引き続き第二弾。薬学会付設展示会における協賛企業とのケムステコラボキャンペーンです。…

有機合成化学協会誌2023年3月号:Cynaropicri・DPAGT1阻害薬・トリフルオロメチル基・イソキサゾール・触媒的イソシアノ化反応

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年3月号がオンライン公開されました。早…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1

さて、日本化学会春季年会の付設展示会ケムステキャンペーンを3回にわたり紹介しましたが、ほぼ同時期に行…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP