Chem-Station

|Sponsored Advert|

一般的な話題

クロスカップリングはどうやって進行しているのか?

クロスカップリングはどうやって進行しているのか?
10月 09
12:38 2010
LINEで送る
Pocket

クロスカップリングはどうやって進行しているのか?

前回までに【速報】【お祭り編】【開拓者編】として、2010年のノーベル化学賞を解説してきました。

3日ほどたって熱狂も一段落してきつつありますので、学術ブログらしくもう少し詳しい、化学的なおはなしを取り上げてみましょう。

クロスカップリングを仲立ちする触媒としては、パラジウムという金属が有効だと述べました。

ではなぜパラジウムが良いのか?、そしてパラジウム触媒は、いったいどうやって炭素(ベンゼン環)同士をつなげているのか?―今回はそのあたりについてお話したいと思います。

  • 触媒的クロスカップリング・そのメカニズム
 
CC_mech_1.jpg

 速報でも述べましたが、クロスカップリングとはベンゼン環のような置換不活性な炭素(sp2炭素といいます)どうしをつなげることができる、極めて強力な化学反応です。プラスに帯電、マイナスに帯電した炭素源を使うことで、別種のものがくっつく「交差反応(Cross Reaction)」にできるのが特徴です。

クロスカップリング反応と呼ばれる化学反応には、鈴木ー宮浦カップリング根岸カップリングなどなど、多彩なバリエーションが存在しています(このバリエーションについては後日また紹介いたします)。
それぞれ細かい違いはあるのですが、実はどのバリエーションでもパラジウム触媒は、ほとんど同じやり方で、二つの炭素を仲立ちし、結びつけています。

具体的にパラジウム触媒がどう働いているか―模式図(触媒サイクル)を書いてみると、、以下のようになります。

CC_mech_2.jpg

キーポイントとなるのは以下の3つの化学素過程です。

① 酸化的付加 (oxidative addition)
CC_mech_3.jpg
電子を豊富に持った金属触媒が、炭素(C)-脱離基(X)結合を活性化する過程であり、クロスカップリングの開始過程でもあります。金属触媒が電子を与え(酸化され)つつ、C-X結合を切ります(結合の活性化)。結果的に金属触媒の酸化数は2増え、化合物との付加体を与えます。炭素には金属から電子が与えられるために、マイナス電荷を帯びるようになります。
パラジウム触媒によるクロスカップリング反応の場合、0価の金属種に酸化的付加が起こる事で、二価(+2)の金属が生成してくるのが常です。

② 金属交換 (transmetalation)
CC_mech_4.jpg

マイナス電荷を帯びた有機金属化合物は、酸化的付加後の触媒金属との間で、配位子交換を起こします。これにより、金属触媒上に二つのベンゼン環化合物が乗った、右端のような中間体が生成します。金属-脱離基結合(M-X結合)が安定であればあるほど、金属(M)-炭素結合の分極度が高いほど、この過程は有利に進む傾向があります。


③ 還元的脱離 (reductive elimination)
CC_mech_5.jpg

クロスカップリングの最終過程です。二つの炭素部分が触媒から離れ、炭素-炭素結合が生成されます。触媒金属は2つの炭素から電子を奪い(還元され)つつ、化合物が脱離していくプロセスなので、この名称がついています。パラジウム触媒によるクロスカップリング反応の場合、二価(+2)の金属がこのプロセスを経て0価に戻ったものが生成してきます。

 以上の組み合わせで、クロスカップリングの触媒サイクルは構成されています。

金属触媒それ自体はサイクル完結後、もとの形にもどります。すなわち反応を通じて変化はしません。このため、うまくデザインしてやれば、触媒を回収して、何回も繰り返し使うことができます。

クロスカップリングでパラジウムが用いられる理由は、酸化数変化が柔軟、すなわち0価←→+2価の状態間を、比較的カンタンに行ったり来たりできる、という特性が必要だったからです。

このパラジウムは、あまりポピュラーではないやや高価な金属です。しかしそれを補って余りあるメリットのあった反応ですし、 「高価な金属であっても、ほんの僅かな量(触媒量)を使用するだけで反応は進行する」という特徴があり、これこそが実用観点から重要だったのは、言うまでもありません。

以上、ここまでがクロスカップリング反応の概要です。大まかに総括すればわずかこれだけにまとめられてしまいます。しかし長きにわたる数多の研究者たちが地道な努力と貢献があってこそ、ここまで洗練された一般概念に到達したのは間違いありません。事実、このメカニズムの基本となるものは、【開拓者編】で述べたように、山本玉尾らの研究によって明らかにされたものです。

 さて、次回以降はクロスカップリング反応の夜明けから、その発展まで―もちろんノーベル化学賞受賞者も交えながら―クロスカップリング反応開発に貢献した、多数の化学者についてご紹介したいと思います。

関連記事:以下の記事も読んでみてください

  • 付設展示会へ行こう!ーWiley編付設展示会へ行こう!ーWiley編  毎年数万人が集まる日本化学会年会、今年は第91回目で神奈川大学で行われます。学会賞の講演をはじめ、多くの特別講演や一般講演が行われ、今回学会デビュー!の方も多いのではないでしょうか。そんな中密かに楽しみなのが、ポスター会場で行われる付設展示会(ブース会場)。数多くの […]
  • ヒドラジンヒドラジン     ロケット燃料や衛星の姿勢制御の為の燃料に使われているヒドラジン(H2NNH2)、ご存知のとおり、有機無機さまざまな化合物に対して還元性が非常に高いため、還元目的以外の反応に利用するとなると、反応の制御には工夫を要することが多くなります。 […]
  • ケミカル・ライトの作り方ケミカル・ライトの作り方 ケミカル・ライトは複数の化学薬品を混ぜることで光を発する、化学発光現象(chemiluminescence)を利用したアイテムです。 一般には商品名のサイリュームもしくはルミカライトで通っており […]
  • アカデミックの世界は理不尽か?アカデミックの世界は理不尽か? (Chemistry Blogより転載:クリックで画像を拡大) 少し前の話題で恐縮ですが、海外の化学系ブログChemistryBlogにて、上のような流出文書が取り上げられていました。 有機化学者Eric […]
  • 2010年ノーベル化学賞予想―海外版2010年ノーベル化学賞予想―海外版 待ちに待ったノーベル賞シーズンがやってきました!今年のノーベル化学賞は、2010年10月6日夕刻に発表予定です! […]
  • 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり : ① 「ほんとスタンド」 の巻文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり : ① 「ほんとスタンド」 の巻 実験化学者ならば、「ベンチに向かってひたすら手を動かすことが至上」と考えて止まない人も多いかもしれません。「実験しないと何もはじまらない」というのは確かに真理です。しかし一方で研究というのは知的労働でもあるのです。 筆者は、デスクワークを実験と同じぐらい重要視していま […]
  • 化学エンターテイメント小説第2弾!『猫色ケミストリー』 化学エンターテイメント小説第2弾!『猫色ケミストリー』        ドラフトからフラスコを回収し、溶媒を蒸発させる装置であるエバポレーターにダイレクトにセットした。  スイッチを入れて待つこと五分。溶媒は消失し、フラスコの底に白い結晶が残された。新規触媒、キクチ一号の完成が。ただの粉なの […]
  • 少年よ、大志を抱け、名刺を作ろう!少年よ、大志を抱け、名刺を作ろう! 最近いろんな学会や若手会がらみで飲むことが多々ありました。数は少ないながらも院生の身で懇親会に突撃してくるアクティブな人も居て、フレッシュな人々と交流するのは楽しいものです。しかし沢山の人と話していると、「あれ、さっきの人どんな人だっけ・・・?」ともなりがち。 全員の顔と […]
  • 2010年イグノーベル賞決定!2010年イグノーベル賞決定! (画像は公式サイトより引用) 例年ノーベル賞に先だって発表される「ノーベル賞のジョーク版」イグ・ノーベル賞。授与対象となるのは、"first make people LAUGH, and then make them […]
  • 宮浦憲夫 Norio Miyaura宮浦憲夫 Norio Miyaura 宮浦憲夫(みやうら のりお、19xx年xx月xx日-)は、日本の有機化学者である。北海道大学大学院工学系研究科 教授(写真:CSJ Award)。 経歴 1969 北海道大学工学部合成化学工学科 卒業 1971 北海道大学大学院 修士課程修了 1971 […]
LINEで送る
Pocket

About Author

cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

キャンペーン

人気記事

PR