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化学者のつぶやき

ChemDrawの使い方【作図編⑤ : 反応機構 (後編)】

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前回、ChemDraw 上で反応機構を書く際の巻矢印を自由自在に書くツールとして、ベジエ曲線なるものが存在することを紹介しました。今回は、ベジエ曲線の仕組みを解説し、反応機構を美しく、誤解を与えないように書くためのテクニックを伝授します。

ベジエ曲線で描ける巻矢印

前回の記事の最後にも掲載しましたが、もう一度、ベジエ曲線で描いた巻矢印を下に示します。

S 字型の巻矢印は、[1,2] 転位を表す際に、原子団の動きを直感的にわかりやすく示します。へ の字型の巻矢印は、遠くに巻矢印を伸ばす際に使用します。ツールボックスに用意された巻矢印でも同じ役割を果たすことができますが、への字型の矢印は非対称な形をしており、なかなか見栄えがよいです。左右対称な巻矢印に飽きてしまったハイカラさんにオススメです。最後の ? (ハテナ) 字型の巻矢印は、原子指定の矢印を書く際に便利です (命名に少し無理がありますが、見る角度を変えれば 「?」 型に見えなくないかと思います…)。? 字の上部のフック状の部分を使って求核攻撃する原子を指定し、? 字の下半分の円弧で電子の流れを求電子剤まで導いています。

ベジエ曲線の便利さをお伝えできたと思うので、ベジエ曲線の構成について説明します。

ベジエ曲線の構成

ベジエ曲線はアンカーポイントと呼ばれる点と、その点の結び方を調節する接線ハンドルで構成されます。アンカーポイントは、曲線が通る位置を指定する点です。はじめに打った点が始点になり、最後の点は終点を表します。途中の点は単なる通過点になります。接線ハンドルは、アンカーポイント同士をつなぐ曲線の接線です。接線ハンドルを調節することで、描く曲線の向きと強さ (曲率) を制御できます。接線ハンドルが短いと緩いカーブになり、長いときついカーブになります。

ベジエ曲線を使ってみよう

言葉で書くと難しそうですが、とにかく使ってみましょう。まず ChemDraw 中でベジエ曲線のツールを呼び出します。ベジエ曲線は、ペンツールの 1 つです。ペンのアイコンをクリックで長押しして、点と曲線の絵が描かれたアイコンを選択します。

それではお手本として、波線を描いてみます。キャンパス上をクリックすることで、始点を打つことができます。ただし、このときクリックした指を離さずに、曲線を伸ばしたい方向にドラッグを続ければ、始点に対する接線ハンドルを指定できます。続いて、曲線を通過させたい部分にクリックすれば仮の曲線が出てきます。ドラッグしながら軌跡を調節し、接線ハンドルを描きます。

注意しておくことは、ドラッグした後に伸ばす接線ハンドルは、あくまでも接線であることです。曲線が通過するのは、クリックした点 (ドラッグの開始点) になります。なので、通過点したい場所を先に指定して、あとでドラッグしながら軌跡を調節するという感覚で描きます。3点以上打ちたい場合は、同様の操作をつづけていきます。

とりあえず、目的通り波線を描くことができました。ただし、アンカーポイントと接線ハンドルが見えている間は、それらを微調整して書き直すことも可能です。アンカーポイントか接線ハンドルの一端にある四角を選択し、望みの形に調節しましょう。好みの曲線を描くことができれば、ツールボックスの上端のアイコンをクリックし、ペンツールを終了します。

このままだと、矢印になっていません。ただの曲線です。矢印の頭をつける必要があります。描いた矢印上で右クリックするか、メニューバーの Arrow を選択し 、Full Arrow at End をクリックすれば頭をつけることができます。そして、好みの色に変えれば、晴れて、くねくねした矢印が完成します。

おまけ: 矢印の頭の種類

少し脱線してしまいますが、矢印の頭の種類についても紹介します。Half Arrow は、1 電子の移動を表す片羽根矢印です。Half Arrow の後に続く「at Left」と「at Right」は、その片羽根が矢印のどちら側に現れるかを指定するものです。 一方、Full Arrow at Start と Full Arrow at End を同時にマークすれば付加脱離機構を書くための矢印も作成可能です。それらの矢印は、もともとArrow のツールバー内にもありますが、ベジエ曲線を使うとより美しく書くことができます。

色々な矢印の頭

ベジエ曲線で巻矢印を書く

では、本記事のはじめに示した反応機構の矢印をベジエ曲線で描く際の、アンカーポイントと接線ハンドルの打ち方を紹介します。[1,2] 転位を表す S 字型の矢印を書く際には、平行四辺形を描くイメージで、始点と終点の接線ハンドルを作成します。コツは、切断される結合と平行に接線ハンドルを引くことです。

 への字型の矢印を描くときには、あえて始点ではドラッグせずに、接線ハンドルを作成しないでおきます。そして、終点の接線ハンドルだけで軌跡を調節します。始点に接線ハンドルを指定してしまうと、無理やりそのハンドルに接するように曲線が描かれます。その結果、自由度が一つ減ってしまい、少しぎこちなくなる印象です。

? 字型を書く際には、通過したい原子の近くに、通過点としてアンカーポイントをうちます。そして、カタカナの「ハ」の字を作るイメージで終点の接線ハンドルを作成します。意識しておきたいのは、「曲線は、4 点を結ぶ四角形の内側に現れる」ことです。そのことを念頭に置いて接線ハンドルとアンカーポイントを作成すると、感覚に頼らず、理論的にベジエ曲線を描くことができるのではないかと思います。もちろん、慣れないうちは、試行錯誤が必要ですが、ベジエ曲線の仕組みを知っていれば早く上達できます。

というわけで、反応機構の矢印を書くために便利なツールとコツを伝授いたしました。地味なテクニックばかりでしたが、美しく巻矢印を書きたいという方は、ぜひこだわって練習してみてください。

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PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

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