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タンパクの「進化分子工学」とは

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2018年のノーベル化学賞は、「タンパクの分子進化」という分野の発展に重要な貢献をしたFrances H. Arnold教授、George P. Smith教授、Gregory P. Winter教授の3氏に与えられました(【速報】2018年ノーベル化学賞は「進化分子工学研究への貢献」に!)。今回の記事では、タンパクの分子進化とは何かについて解説します。

1. 分子進化とは

タンパクは、生体高分子の一種で、図1 (a)のようにたくさんのアミノ酸がつながった構造をしています。このようにアミノ酸がつながってできた鎖(ポリペプチド鎖)が、水素結合や疎水性相互作用、ジスルフィド結合などによって折りたたみ、機能的な構造を取るようになります。タンパクの機能は、それぞれのアミノ酸の種類やつながる順番(アミノ酸配列)、折りたたんだ後の化学修飾(翻訳後修飾)、他の分子との相互作用(アロステリック効果)など、様々な条件によって変化します。有機化学の分野で広く扱われている低分子化合物や合成高分子と比べると、構造や機能がとても複雑です。

図1. タンパクの基本構造と折りたたみ。(b) タンパクの全体構造・活性部位の構造。ヘム(橙)と基質(ピンク)。(PDB: 2WHW)

タンパクの機能を改良するとき、あるアミノ酸を別のアミノ酸に変える(対応するDNAに変異を加えて別のアミノ酸に変える)というのが一般的です。しかし、天然のアミノ酸は20種類もあり、タンパクは多くの場合、数百個ものアミノ酸がつながってできているので、どのアミノ酸を置換すれば良いのか・どの種類のアミノ酸に変えれば良いのか、予想するのはとても困難です。タンパクの結晶構造や、基質との結合実験などの情報をもとに、「この部分のアミノ酸をもう少し小さい側鎖のものに変えれば基質が結合しやすくなる」といった予想を立てるのは可能ですが、例えば図1bの構造を見ても、基質(ピンク)の周りにたくさんのアミノ酸側鎖があり、どこをどう変えればいいのか簡単には分かりません。また、タンパク分子内では様々な相互作用が働いているため、一つアミノ酸を置換しただけで全体の構造が大きく変わってしまう可能性もあります。

そこで発案された方法が、今回のノーベル化学賞の対象となった「分子進化法」です。この手法では、様々な部位のアミノ酸を別の種類のアミノ酸に変えた変異体を大量に作り(ライブラリ)、作った中から良い機能を持つものをスクリーニングします(図2)。タンパクに変異を加える→目的の機能に合わせてスクリーニングを行う→得られたタンパクにまた変異を加える→スクリーニング→…という流れを繰り返せば、次第にタンパクの機能が向上され、良い機能を持ったタンパクを得ることができます。この流れが、自然界での進化の過程によく似ているので、「分子進化法」と呼ばれています。(ケムステ記事:指向性進化法)

図2. 分子進化法の概念。

2. ライブラリの作製

タンパクは、有機合成によってフラスコ内で作られる分子とは違い、DNAを設計図に生体内で合成されます(図3)。それなので、構造や機能を変化させたいときは、元となるDNAに変異を加えることになります。

図3. タンパクの生合成。

遺伝子工学の分野では、以下のように様々な変異法が確立されています。

  • 部位非特異的変異(ランダム変異):タンパク全体のアミノ酸をとにかくランダムに変異させる。位置も種類もランダム。
  • 部位特異的ランダム変異:特定の位置のアミノ酸をランダムな種類のアミノ酸に変える。site-saturation mutagenesis(部位飽和変異)と呼ばれる。
  • 部位特異的変異:特定の位置のアミノ酸を特定の種類のアミノ酸に変える。

例えば一番単純なランダム変異では、元となるDNAをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅する際に、DNA合成酵素が働きにくい塩濃度にしておくことで、変異が入ったDNAを得ることができます。

このような方法によって様々に変異を導入したDNAライブラリを作製し、それを大腸菌などの生物に与えてタンパクを発現させることで、目的タンパクのライブラリを作ることができます(図4)。

図4. ライブラリの作製

3. スクリーニング

分子進化によって良い機能のタンパクを得るには、目的の機能に応じてスクリーニングすることが必要です。酵素の場合は触媒活性、抗体の場合は標的分子との結合性など、用途によって得たい機能は異なります。

タンパクの進化においては、ただスクリーニングによって優良なタンパクを得るだけでなく、得られた優良なタンパクのDNAを回収することが重要です。DNAが回収できなければ、そこから新しいDNAライブラリを作り次の進化サイクルを回す、ということができません。

一般的な方法では、まず作製したDNAライブラリを大腸菌の細胞内へと導入し、一度寒天培地上で培養します。すると、図5のように、同じDNAを持った細胞の集まり(コロニー)が形成されます。この一つ一つを回収して96穴プレートなどでそれぞれ培養し、発現されたタンパクの活性の評価、大腸菌からのDNAの回収を行います。

図5. 一般的なスクリーニングの流れ。

ただし、このような方法では、コロニーを一つ一つ回収して評価しなければならないので、調べられる数に限りがあります。分子進化工学の分野では、スクリーニング&優良タンパクのDNAの回収をうまく行う方法について、さまざまな手法が開発されていますが、以下で述べるファージ提示法でも、この問題が大幅に改善されています。

4. ファージ提示法

ファージというのは、バクテリオファージのことで、バクテリアに感染するウイルスです。タンパクでできた殻の中に、核酸(主に二本鎖DNA)が入った構造をしています。ファージ提示法では、ファージのDNAの一部に、進化させたいタンパクの遺伝子を繋げておき、ファージの表面にそのタンパクを発現させます(図6a)。こうして提示されたタンパクを、プレート上で標的分子と結合させ、親和性の高いタンパクをファージと一緒に回収します(図6b)。得られたファージは、目的タンパクのDNAを持っているので、そのDNAを増幅させてさらに変異を加え、進化サイクルを続けることができます。この手法のポイントは目的タンパクとそのDNAがファージによって繋がっていることで、前項のように大腸菌を一つ一つ回収する必要がなく、大量のファージ(タンパク変異体)を一度にスクリーニングすることが可能です。

図6. (a) ファージ上での目的タンパクの提示。 (b) 標的分子に対する親和性選択。

5. おわりに

タンパクの構造の複雑さは、人のデザイン力を上回ります。分子進化の強みは、人には想像し得ない重要な変異を発見できることです。また、ノーベル賞の主な受賞対象となった酵素や抗体以外にも、物質輸送・貯蔵・シグナリング・構造形成など、様々な機能を持つタンパクが存在します。分子進化はそういったタンパクにも普遍的に応用できるため、医療・エネルギー・環境・基礎科学など幅広い分野に貢献する重要な技術と言えます。

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参考文献

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kanako

投稿者の記事一覧

アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

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