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化学者のつぶやき

ジアルキル基のC–H結合をつないで三員環を作る

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gemジアルキル基をもつハロゲン化アリールからのシクロプロパン合成法が開発された。パラジウム触媒、塩基としてピバル酸カリウムを作用させるだけで、二つの分子内C–H結合活性化が進行する。

C–H活性化によるシクロプロパン合成

シクロプロパンは、生物活性物質の疎水性や代謝安定性などの薬理学的性質を向上させる目的で頻用される骨格であり[1]、その形成反応はSimmons–Smith反応をはじめとして、多くの信頼性の高い手法がある。一方でgem-ジアルキル基のC–H活性化を経由したシクロプロパン形成は、分子変換としてわかりやすいが、挑戦的な課題であった。先駆的な例として、2006年Yuらはオキサゾリンを配向基としたC–Hヨウ素化と、続くラジカル環化による段階的なシクロプロパンの構築に成功した (図 1A)[2]。しかし、適用可能な基質はgem–ジメチル基をもつ特殊な化合物に限定されていた。
今回、バーゼル大学のBaudoinらはgem-ジアルキル基をもつハロゲン化アリールに対して、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)とピバル酸カリウムを作用させると、一挙にシクロプロパンを構築できることを初めて見いだした (図 1B)。この手法では、ハロゲン化アリールのパラジウムへの酸化的付加の後、二回の分子内C–H結合活性化を経て環化反応が進行する。なお、著者らの発見は、類似の基質を用いるMartinらのインダン合成に端を発する(図 1C)[3]。本反応では副生成物として微量のシクロプロパンが検出されることが報告されていた。

図1. (A) ラジカル反応を用いたシクロプロパン化 (B) 本反応 (C) Pd触媒を用いたC–H活性化反応

 

“Direct Synthesis of Cyclopropanes from gem-Dialkyl Groups through Double CH Activation”
Clemenceau, A.; Thesmar, P.; Gicquel, M.; Flohic, A. L.; Baudoin, O.  J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 15355–15361
DOI: 10.1021/jacs.0c05887

論文著者の紹介


研究者:Olivier Baudoin
研究者の経歴:
1992–1995 B.S., National Graduate School of Chemistry, France
1995–1998 M.S. and Ph.D., Collège de France, France (Prof. Jean-Marie Lehn)
1999 Postdoc, Scripps Research Institute, USA (Prof. K. C. Nicolaou)
1999–2006 Group leader, Institute of Chemistry of Natural Substances, France
2006–2015 Professor, Department of Chemistry and Biochemistry (ICBMS), Claude Bernard University Lyon 1, France
2015– Professor, Department of Chemistry, University of Basel, Switzerland
研究内容:分子内C–H活性化、金属触媒の移動反応を伴うクロスカップリング

論文の概要

はじめに著者らは、本反応における塩基の影響を調査した (図 2A)。Pd(PPh3)4触媒存在下、ブロモアレーン1aに炭酸カリウムを作用させると、ベンゾシクロブテン2aが生成した。一方、ピバル酸カリウムを用いた際、2aは生成せずシクロプロパン3aのみを与えた。
続いて、著者らはDFT計算を行い、次の反応機構を想定した (図 2B)。まずブロモアレーン1がパラジウム触媒に酸化的付加し、続くピバル酸カリウムとの配位子交換により中間体IM1を与える。次にパラジウムの1,4-移動と四員環パラダサイクルの形成を経てシクロプロパン3が生成する。なお、中間体IM2において、ピバル酸によるプロトン化が還元的脱離より優先するため、ベンゾシクロブテン2でなくシクロプロパン3が生じると考えられるが詳細は不明である。
本反応は電子供与基および電子求引基を有する種々のブロモアレーン(3b and 3c)に適用でき、良好な収率でシクロプロパンを与えた (図 2C)。gem-ジアルキル基を二つもつビストリフラートでは、ジシクロプロパン(3e)を形成した。直鎖のアルキル置換基をもつ基質を用いると3gが生成するとともに、β-水素脱離が協奏し、オレフィン4eを与える。なお、溶媒にDMSOを5 %添加することで、脱ハロゲン化体の副生が抑制できる。

図2. (A) 塩基の影響 (B) 推定反応機構 (C) 基質適用範囲

以上、gem-ジアルキル基のC–H活性化によるシクロプロパン合成法が開発された。本手法によりシクロプロパンを有する化合物の新奇合成戦略の立案が期待できる。

参考文献

  1. Talele, T. T. The “Cyclopropyl Fragment”is a Versatile Player that Frequently Appears in Preclinical/Clinical Drug Molecules. J. Med. Chem. 2016, 59, 8712–8756. DOI: 10.1021/acs.jmedchem.6b00472
  2. Giri, R.; Wasa, M.; Breazzano, S. P.; Yu, J.-Q. Converting gem-Dimethyl Groups into Cyclopropanes via Pd-Catalyzed Sequential C−H Activation and Radical Cyclization. Org. Lett. 2006, 8, 5685−5688. DOI: 10.1021/ol0618858
  3. Gutieŕrez-Bonet, A.; Juliá-Hernańdez, F.; de Luis, B.; Martin, R. Pd-Catalyzed C(sp3)−H Functionalization/Carbenoid Insertion: All Carbon Quaternary Centers via Multiple C−C Bond Formation .J.  Am. Chem. Soc. 2016, 138, 6384−6387. DOI: 10.1021/jacs.6b02867

山口 研究室

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