[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

【第11回Vシンポ特別企画】講師紹介②:前田 勝浩 先生

[スポンサーリンク]

今回の記事では、第11回ケムステバーチャルシンポジウム「最先端精密高分子合成」をより楽しむべく、講師紹介第2弾としまして、講師の一人である前田 勝浩 先生について紹介いたします。

前田勝浩 先生 (金沢大・教授)

学生〜助手〜講師時代@名古屋大学(1993〜2007)

名古屋大学大学院工学研究科応用化学専攻 岡本佳男 先生八島栄次 先生の研究室にてらせんポリマーの合成と機能開拓に関する研究をされました。岡本先生、八島先生は言わずと知れた世界を代表するらせん高分子の研究者で、このらせんの系譜を受け継がれておられる先生といえます。らせん高分子は岡本先生により初めて人工的に合成され、現在ではキラルカラムの充填材として実用化されており、不斉合成研究や医薬品の製造に不可欠なものとなっております。この業績には、2019年に日本国際賞が与えられました。これら業績に関してはすでにケムステ記事で紹介されており、改めて説明する必要もないでしょう(もし分からなければ、下記関連書籍 CSJカレントレビュー「キラル化学」などをご参照下さい。岡本先生の受賞講演もこちらからご覧になれます。山口代表の研究室のブログにも記事がありました)。当時の八島先生の研究室では、動的ならせん高分子であるポリフェニルアセチレンに官能基を導入し、その官能基と相互作用するキラルゲスト小分子(カルボン酸とアミンなど)によるらせん誘起で非常に先駆的な例を発表しております[1]。1999年にNatureに発表されたこの論文は‎被引用数724(google scholar, 2020年11月ごろ)と、キラル高分子及び超分子化学の基礎とも呼べるものとなっております。前田先生はその時代の八島研究室の研究をスタッフとして中核を支えてこられました。実は、石割の学生時代の研究はポリアセチレンの研究だったので、当時から前田先生ら八島研メンバーに究極的にお世話になってきたとともに、今も昔も憧れの研究者です。

図は八島研究室 HPより編集して掲載

 

マサチューセッツ工科大学 Swager研究室時代(2006)

前田先生は名古屋大学在籍時に、マサチューセッツ工科大学(MIT)のSwager研究室へと半年間留学されております。実は石割も学生時代には同じSwager研究室へ留学したのですが、石割に与えられた席にはなんと前田先生の実験ノートが置いてあり、膨大な実験をなされた様子が伝わってきました。また、前田先生がいらっしゃった頃を知るSwager研の学生は「Katsuhiro was amazing!!」と証言しており、前田先生のパワーは海を越えて伝わっておりました。ところで、ネット上を検索すると前田先生、井改先生と学生時代のふざけた石割が写った写真があってちょっと笑いました笑

 

准教授〜教授時代@金沢大学(2008〜現在)

金沢大学に移られてからもらせん高分子の研究に力を入れておられましたが、そこで驚異的ならせん反転挙動や不斉増幅、及び記憶力を示す高分子であるMOM基含有ビフェニル側鎖を持つポリアセチレン類を大発見されました。学会で拝見するたびに「ついにこんなことまでできたか」というような衝撃的な発見が続いていたのですが、この挙動を活かし、溶出順序をスイッチ可能なキラルカラムの開発に成功されました[2]。また、不斉誘起に官能基が必要なく、旋光度が無い光学活性化合物(<=もはや光学的に活性とは呼べませんね笑)エナンチオピュアな化合物炭化水素や同位体のキラリティーも識別・増幅することが可能でした[3]。現在もこの種のポリマーからは驚くべき発見が続いており、学会発表からも目が離せないという状況です。

図は前田研究室 HPより掲載

 さて、このようなポリアセチレン類でしたが、実はそのリビング重合は困難[4]でした(開始剤錯体がやや合成困難)。つまり、上記紹介したポリアセチレン類は分子量分布が2くらいあって、末端の構造も不明で、末端官能基化やブロック共重合なども容易には実現できませんでした。このような状況下、ごく最近、前田先生の研究室から、ポリアセチレンの汎用的なリビング重合が開発されました[5]。この研究に関しては、学会発表発表もほとんどされることなく論文発表されたため非常に驚きました。さらに、末端官能基化を利用し、末端を金属表面に結合できるようにしたポリアセチレンを用いて、不斉誘起スピン偏極効果(CISS; Chirality Induced Spin Selectivity効果;キラルな分子中を電子がトンネルする際に電子スピンの向きが偏る(スピン偏極を受ける)現象)を観測した論文もほぼ同時に発表されました[6]。今後は、上記のような驚くべき機能を持つポリアセチレン類に、精密重合の要素が加えられた研究が進展することが期待されますので、今後も前田先生の研究からは目が離せません。

図は前田研究室 HPより掲載

 

今回のシンポジウムでの、前田先生の発表タイトルは「ポリアセチレン類の精密合成と機能発現」です。精密重合の要素も取り入れた最新のらせん高分子に関するご講演をお楽しみいただけること請け合いです。それでは当日をお楽しみに!!

謝辞)本記事作成に当たりましては、名古屋大学大学院 工学研究科有機・高分子化学専攻 八島研究室 井改知幸 准教授のご協力をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

 

関連記事

Vシンポ参加登録はこちら

関連書籍

[amazonjs asin=”475981373X” locale=”JP” title=”キラル化学: その起源から最新のキラル材料研究まで (CSJ Current Review)”]

参考文献

  1. E. Yashima, K. Maeda, and Y. Okamoto, Nature, 1999, 399, 449.
  2. K. Shimomura, T. Ikai, S. Kanoh, E. Yashima, and K. Maeda, Nat. Chem. 2014, 6, 429.
  3. K. Maeda, D. Hirose, N. Okoshi, K. Shimomura, Y. Wada, T. Ikai, S. Kanoh, E. Yashima, J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 3270.
  4. 塩月 雅士, Irfan SAEED, Wei ZHANG, 増田 俊夫, 高分子論文集, 2007, 64, 643.
  5. T. Taniguchi, T. Yoshida, K. Echizen, K. Takayama, T. Nishimura, K. Maeda, Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 8670.
  6. S. Mishra, A. K. Mondal, E. B. Smolinsky, R. Naaman, K. Maeda, T. Nishimura, T. Taniguchi, T. Yoshida, K. Takayama, E. Yashima, Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 14779.
Avatar photo

Kosuge

投稿者の記事一覧

高分子、超分子、材料化学専門の大学講師です。

関連記事

  1. ケムステイブニングミキサー2015へ参加しよう!
  2. 巨大ポリエーテル天然物「ギムノシン-A」の全合成
  3. 金属容器いろいろ
  4. 逐次的ラジカル重合によるモノマー配列制御法
  5. 研究動画投稿で5000ユーロゲット?「Science in Sh…
  6. リンと窒素だけから成る芳香環
  7. 位置多様性・脱水素型クロスカップリング
  8. 女性科学者の卵を支援―「ロレアル・ユネスコ女性科学者 日本奨励賞…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【追悼企画】カナダのライジングスター逝く
  2. アリ・ワーシェル Arieh Warshel
  3. 元素戦略 Element Strategy
  4. 第7回ImPACT記者懇親会が開催
  5. 電話番号のように文献を探すーRefPapers
  6. C–NおよびC–O求電子剤間の還元的クロスカップリング
  7. 【鎮痛・抗炎症薬】医師の認知・愛用率のトップはロキソニン
  8. 2つの結合回転を熱と光によって操る、ベンズアミド構造の新たな性質を発見
  9. 萩反射炉
  10. 支局長からの手紙:科学と感受性 /京都

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP