[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ビアリールのアリール交換なんてアリエルの!?

[スポンサーリンク]

ルテニウム触媒によるC(アリール)–C(アリール)結合のメタセシス反応が開発された。環歪みをもつC–C結合や分極したC–C結合以外のメタセシス反応として初めての例である。

C–C単結合のメタセシス反応

オレフィンメタセシスに代表される、二つの類似分子間のメタセシス反応は飛躍的な進展を遂げてきた。

一方で、C–C単結合のメタセシス反応は、反応性に乏しいC–C単結合の切断を伴うため困難とされる。C–C単結合のメタセシス反応の数少ない例として、1990年にVollhardtらはニッケル触媒によるビフェニレンの環歪みの解消を駆動力とする開環型二量化反応を開発した(図1A)[1,2]。また有澤、山口らはロジウム触媒による非対称ジベンジルケトンのC(アルキル)–C(カルボニル)結合の切断を伴うベンジル基交換反応を報告した(図1B)[3]

しかし、これら環歪みや分極したC–C単結合以外のメタセシス反応は報告例がない。

一方、近年シカゴ大学のDongらは、ピリジル配向基をもつビアリール1にルテニウム触媒と水素を用いると、C(アリール)–C(アリール)結合が切断され水素化体2が得られることを見いだした(図1C上)[4]。二つの配向基によりルテニウムがビアリールC–C結合に近接 (Int1の形成)することで強固なビアリールC–C結合が酸化的付加できたことが反応の鍵である。

今回、同教授らはルテニウム触媒存在下、二種類のビアリール13を反応させたところ、ビアリールC–C結合のメタセシス反応が進行し、クロスビアリール体4が得られることを見いだした(図1C下)。

図1. (A)ビフェニレンの開環型二量化反応、(B)分極したC–C結合のメタセシス反応、(C) C–C結合の還元的開裂反応およびメタセシス反応

 

“Orthogonal Cross-Coupling through Intermolecular Metathesis of Unstrained C(aryl)–C(aryl) Single Bonds”

Zhu, J.; Zhang, R.; Dong, G. Nat. Chem. 2021, 13, 836–842.

DOI: 10.1038/s41557-021-00757-4

論文著者の紹介

研究者:Guangbin Dong (董广彬)

研究者の経歴:

1999–2003 B.Sc. in Chemistry, Peking University, China (Prof. Z. Yang and Prof. J. Chen)
2004–2009 Ph.D. in Chemistry, Stanford University, USA (Prof. B. M. Trost)
2009–2011 Camile and Henry Dreyfus Postdoctoral Fellow, California Institute of Technology, USA (Prof. R. H. Grubbs)
2011–2016 Assistant Professor, University of Texas at Austin, USA
2016– Professor of Chemistry, The University of Chicago, USA

研究内容:C–H/C–C結合活性化反応の開発、天然物合成

論文の概要

検討の結果、著者らはルテニウム触媒cat 1およびピバル酸銀存在下、C4, C4’位に置換基をもつビアリール13をトルエン中130 °Cで24時間反応させると効率的にビアリールC–C結合のメタセシス反応が進行することを見いだした(図2A)。

なお、本反応は平衡反応であり、13の量論比から4の理論上の最高収率は68%である。C4, C4’位に種々の置換基をもつビアリール1が本反応に適用でき、高反応性の炭素–ハロゲン結合も保たれた(4ba, 4ca and 4da)。メトキシ基(4ea)やエステル(4fa)をもつクロスビアリール体も中程度の収率で得られた。配向基をピリジル基からイソキノリル基に変更しても反応は問題なく進行した(4ga)。しかし、ビアリール上C4, C4’位に置換基がない場合、クロスビアリール化体4hbの収率は17%にとどまり、水素化体56が多く副生した。

著者らは、DFT計算による反応機構解明研究の結果、このC4, C4’位の重要性に関して以下のように言及している(図2B)。

本反応では、出発物質1がルテニウム触媒に配位した中間体Int1(図1C参照)でC–C結合が酸化的付加する経路(path1)を経て4を与える。しかし、Int1から望まぬC–H切断 (path2)が競合すると副生成物5,6が生成することがわかった。C4位に置換基を導入すると、C–H切断経路の遷移状態TS2においてピリジルフェニル配位子(青色)との立体障害を誘起できるため、path2が抑制できた(詳しくは本文参照)。

図2. (A) 最適条件と基質適用範囲 (B) C4, C4’位の置換基効果

以上、ルテニウム触媒を用いた、C(アリール)–C(アリール)メタセシス反応が開発された。基質の制限や反応の平衡制御など課題は明白であるが、「こんなのアリエルの!?」と驚かずにはいられない分子変換反応である。

 参考文献

  1. Schwager, H.; Spyroudis, S.; Vollhardt, K. P. C. Tandem Palladium-, Cobalt-, and Nickel-Catalyzed Syntheses of Polycyclic p-Systems Containing Cyclobutadiene, Benzene, and Cyclooctatetraene Rings.J. Organomet. Chem. 1990, 382, 191–200. DOI: 10.1016/0022-328X(90)85227-P
  2. 反応機構はJonesらによって解明された。Edelbach, B. L.; Lachicotte, R. J.; Jones, W. D. Mechanistic Investigation of Catalytic Carbon–Carbon Bond Activation and Formation by Platinum and Palladium Phosphine Complexes. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 2843–2853. DOI: 10.1021/ja973368d
  3. Arisawa, M.; Kuwajima, M.; Toriyama, F.; Li, G.; Yamaguchi, M. Rhodium-Catalyzed Acyl-Transfer Reaction between Benzyl Ketones and Thioesters: Synthesis of Unsymmetric Ketones by Ketone CO–C Bond Cleavage and Intermolecular Rearrangement. Org. Lett. 2012, 14, 3804–3807. DOI: 10.1021/ol3017148
  4. (a) Zhu, J.; Chen, P. H.; Lu, G.; Liu, P.; Dong, G. Ruthenium-Catalyzed Reductive Cleavage of Unstrained Aryl−Aryl Bonds: Reaction Development and Mechanistic Study.  J. Am. Chem. Soc. 2019. 141, 18630–18640. DOI: 10.1021/jacs.9b11605 (b) Zhu, J.; Wang, J.; Dong, G. Catalytic Activation of Unstrained C(aryl)–C(aryl) Bonds in 2,2′-Biphenols. Nat. Chem. 2019, 11, 45–51. DOI: 10.1038/s41557-018-0157-x
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 第9回 野依フォーラム若手育成塾
  2. 還元的にアルケンを炭素官能基で修飾する
  3. 持てるキャリアを生かせるUターン転職を その難題をクリアしたLH…
  4. ルドルフ・クラウジウスのこと② エントロピー150周年を祝って
  5. 有機化学クロスワードパズル
  6. 磁性流体アートの世界
  7. ホウ素から糖に手渡される宅配便
  8. 保護基の使用を最小限に抑えたペプチド伸長反応の開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第65回―「タンパク質代替機能を発揮する小分子の合成」Marty Burke教授
  2. 持田製薬、創薬研究所を新設
  3. 初めての減圧蒸留
  4. 「石油化学」の新ネーミング募集!
  5. ウレエートを強塩基性官能基として利用したキラルブレンステッド塩基触媒の創製
  6. Grubbs第一世代触媒
  7. 電流励起による“選択的”三重項励起状態の生成!
  8. アスパラプチン Asparaptine
  9. 薬学部ってどんなところ?
  10. ワンクリックで分解プロセスの見える化!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年10月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

“とび跳ねる水滴”に潜む物理 〜接触時間とエネルギー源で読む撥水・防氷のテク〜

熱したフライパンに落ちた水滴が、玉になってコロコロと走り回り、冷えた面では、結露水が合体した瞬間に跳…

AI時代に研究者がすでに持っている力・これから伸ばしたい力

論文要約や文献検索など、研究現場でもAI活用が日常化する一方、「自分の仕事の先行き」に漠然とした不安…

miHub®を活用した探索的データ解析の実践

開催概要研究開発においてデータ活用が進む中、機械学習モデルの構築や予測解析に…

“ある特効薬”のはなし ~本田宗一郎氏の回想から

Tshozoです。最近実家に戻っては色々と廃棄するなどの店じまいを少しずつ進めているのですが、中…

高分子鎖を束ねた新しい共重合体「束状共重合体」が誕生

第715回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科(植村研究室)に所属されていた亀谷…

2026年「有機溶媒危機」へのアンサー。北大発・メカノクロスが挑む、溶媒に依存しない新たな合成法 = “メカノケミカル有機合成”の社会実装

株式会社メカノクロスは、メカノケミカル有機合成技術の社会実装に挑む北海道大学発の…

“壊れないよう” に作ってきた半導体ポリマーを、あえて “壊れるよう” に作る化学

半導体ポリマーは長いあいだ、「いかに壊れにくく、長持ちさせるか」といったような安定性を競って進歩して…

有機合成化学協会誌2026年7月号:固体高分子電解質・電子ドナー・アクセプター錯体・機械学習法・trichodermamide類・エナンチオ選択的スキップジエン合成法

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2026年7月号がオンラインで公開されています。…

第62回Vシンポ「見えない空気を科学する~センサによる室内環境・臭気の見える化と快適空間デザインの最前線~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第62回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、前回同様…

【協和ファーマケミカル】新卒採用情報(2028年卒)

協和ファーマケミカルが求めているのは、有機合成の知識や実験経験を身につけ、活かし…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP