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建石寿枝 Hisae Tateishi-Karimarta

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建石寿枝(たていし ひさえ、Hisae Tateishi-Karimarta)は、日本の科学者である。専門は核酸機能化学。2021年現在、甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)准教授 。第23回ケムステVシンポ講師

経歴

2003年 甲南大学理学部化学科卒業
2003年 甲南大学大学院自然科学研究科化学専攻(修士課程)
2005年 甲南大学大学院自然科学研究科生命・機能科学専攻(博士課程)
2005年〜2008年 日本学術振興会 特別研究員 (DC1)
2008年 株式会社ファイン 研究開発課 研究員
(2008.4〜6 米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 客員博士研究員を兼務)
2010 甲南大学先端生命工学研究所(FIBER) 助教
2016 甲南大学先端生命工学研究所(FIBER) 講師
2020 甲南大学先端生命工学研究所(FIBER) 准教授

受賞歴

2019年3月第7回女性化学者奨励賞 日本化学会
2017年6月資生堂サイエンスグラント 第10回女性研究者資生堂サイエンスグラント
2014年9月バイオ関連化学シンポジウム講演賞 第8回バイオ関連化学シンポジウム
2014年3月優秀講演賞(学術) 日本化学会第94春季年会
2007年11月Nucleic Acids Research賞 5th International Symposium on Nucleic Acids Chemistry
2007年3月学生講演賞(学術) 日本化学会第87春季年会
2006年8月ポスター賞 第18回生命分子化学研究会若手サマースクール

研究業績

これまでの研究
核酸(DNAやRNA)の標準的な構造は二重らせん構造であるが、分子環境に応じて四重らせん構造などの非二重らせん構造も形成する(図1)。1 非二重らせん構造を形成できる塩基配列は、がんや神経変性疾患などの疾患関連遺伝子上に多く存在し1-2 非二重らせん構造が形成されると転写・翻訳など遺伝子発現に関わる生体反応が抑制される。そのため、疾患関連遺伝子上で非二重らせん構造の形成を制御する手法の開発が、世界的に行われている。3
建石氏は、所属する甲南大学先端生命工学研究所(所長 杉本直己教授)の研究者らと核酸が周辺の環境(溶液のカチオン濃度やpHの変化など)に敏感に応答し、構造を変化させることに注目し物理化学的視点から、核酸の構造変化機構を解析してきた。1特に、細胞内の細胞小器官やタンパク質などで込み合った分子クラウディング環境が、核酸の構造や安定性に及ぼす影響に注目し解析している。その結果、細胞内の分子クラウディング環境が、二重らせん構造を不安定化し、非二重らせん構造を安定化することを見出している。4さらに、熱力学的解析および分子動力学的解析の結果、同一の塩基配列でも、核酸の構造によって、水分子またはカチオンとの親和性や結合様式が大きく異なり、このような相互作用の違いが核酸の構造や安定性を決定していることを明らかにした。

さらに、建石氏は、これらの核酸構造が生命機能に及ぼす影響を解明するため、DNA構造が遺伝子発現に及ぼす影響を解析した。その結果、DNA上に非二重らせん構造が形成されると、非二重らせん構造の安定性に応じた転写変異が誘発されることが分かった。5さらに、正常(または初期がん)細胞中では四重らせん構造をもつDNAから転写されるRNA量が低下し、悪性がん細胞では転写量が増大した。四重らせん結合性抗体による解析の結果、初期がん細胞では四重らせん構造は多く形成されるが、悪性がん細胞では四重らせん構造が解離することも見出した6 悪性がん細胞では、K+チャネルの過剰発現によりK+濃度が低下し、K+濃度の低下は四重らせん構造を不安定化させる。同氏の研究によって、このようながん細胞内のイオン濃度に応答したDNA構造変化が、がん発症に伴う遺伝子発現を制御していることが示された (図2a)。6さらに、神経変性疾患の細胞内では、細胞毒性を示すタンパク質やRNAの凝集体が生成されるが、このような凝集体の形成は核酸の四重らせん構造によって促進されることが見出された (図2b) 。7 つまり、核酸は分子環境に応答して、構造を変化させることで、生体反応を制御する“機能”をもつことが示唆された。


また同氏は、核酸構造に関する定量的知見を基に、核酸による生体反応の抑制機能に注目し、四重らせんを安定化させる小分子を用いて、がん細胞内で特異的にがん遺伝子の発現を抑制する技術の開発も行っている。8また、DNAの安定化に寄与する新規の相互作用(CH-π相互作用など)によって四重らせん構造を安定化する修飾核酸の合成を行い、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)-1の増幅を抑制する技術の開発を行った(図3)。9
以上のように同氏は核酸構造を定量的に解析することによって、DNA構造によって制御される新規の疾患発症機構を見出し、さらにDNA構造を制御することで生体反応を制御する技術の開発を行ってきた。これらの研究成果を基に、最近では、ヒトだけでなく、植物、バクテリアなど様々な生物を研究対象とし、核酸の構造に注目することで、生物種の枠組みを超えた統一的な生命現象の制御機構を解明することを試みている。

関連文献

  1. Sugimoto, N.; Endoh, T.; Takahashi, S.; Tateishi-Karimata, H., Chemistry of Nucleic Acids with Canonical and Non-canonical Structures: “To B or Not To B, That Is the Question”. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2021, 93, 1970-1998. 10.1246/bcsj.20210131
  2. Tateishi-Karimata, H.; Sugimoto, N., Roles of non-canonical structures of nucleic acids in cancer and neurodegenerative diseases. Nucleic Acids Res 2021, 49 (14), 7839-785510.1093/nar/gkab580.
  3. Tateishi-Karimata, H.; Sugimoto, N., Chemical biology of non-canonical structures of nucleic acids for therapeutic applications. Chem Commun (Camb) 2020, 56 (16), 2379-239010.1039/c9cc09771f.
  4. (a) Miyoshi, D.; Nakamura, K.; Tateishi-Karimata, H.; Ohmichi, T.; Sugimoto, N., Hydration of Watson-Crick base pairs and dehydration of Hoogsteen base pairs inducing structural polymorphism under molecular crowding conditions. J Am Chem Soc 2009, 131 (10), 3522-3110.1021/ja805972a; (b) Tateishi-Karimata, H.; Pramanik, S.; Nakano, S.; Miyoshi, D.; Sugimoto, N., Dangling ends perturb the stability of RNA duplexes responsive to surrounding conditions. ChemMedChem 2014, 9 (9), 2150-510.1002/cmdc.201402167; (c) Zhou, J.; Tateishi-Karimata, H.; Mergny, J. L.; Cheng, M.; Feng, Z.; Miyoshi, D.; Sugimoto, N.; Li, C., Reevaluation of the stability of G-quadruplex structures under crowding conditions. Biochimie 2016, 121, 204-810.1016/j.biochi.2015.12.012; (d) Matsumoto, S.; Tateishi-Karimata, H.; Takahashi, S.; Ohyama, T.; Sugimoto, N., Effect of Molecular Crowding on the Stability of RNA G-Quadruplexes with Various Numbers of Quartets and Lengths of Loops. Biochemistry 2020, 59 (28), 2640-264910.1021/acs.biochem.0c00346; (e) Tateishi-Karimata, H.; Banerjee, D.; Ohyama, T.; Matsumoto, S.; Miyoshi, D.; Nakano, S. I.; Sugimoto, N., Hydroxyl groups in cosolutes regulate the G-quadruplex topology of telomeric DNA. Biochem Biophys Res Commun 2020, 10.1016/j.bbrc.2020.02.045, 10.1016/j.bbrc.2020.02.045; (f) Trajkovski, M.; Endoh, T.; Tateishi-Karimata, H.; Ohyama, T.; Tanaka, S.; Plavec, J.; Sugimoto, N., Pursuing origins of (poly)ethylene glycol-induced G-quadruplex structural modulations. Nucleic Acids Res 2018, 46 (8), 4301-431510.1093/nar/gky250; (g) Nakano, S.; Karimata, H. T.; Kitagawa, Y.; Sugimoto, N., Facilitation of RNA enzyme activity in the molecular crowding media of cosolutes. J Am Chem Soc 2009, 131 (46), 16881-8 10.1021/ja9066628; (h) Nakano, S.; Karimata, H.; Ohmichi, T.; Kawakami, J.; Sugimoto, N., The effect of molecular crowding with nucleotide length and cosolute structure on DNA duplex stability. J Am Chem Soc 2004, 126 (44), 14330-110.1021/ja0463029; (i) Miyoshi, D.; Karimata, H.; Sugimoto, N., Drastic effect of a single base difference between human and tetrahymena telomere sequences on their structures under molecular crowding conditions. Angew Chem Int Ed Engl 2005, 44 (24), 3740-410.1002/anie.200462667; (j) Miyoshi, D.; Karimata, H.; Sugimoto, N., Hydration regulates thermodynamics of G-quadruplex formation under molecular crowding conditions. J Am Chem Soc 2006, 128 (24), 7957-6310.1021/ja061267m.
  5. (a) Pramanik, S.; Tateishi-Karimata, H.; Sugimoto, N., Organelle-mimicking liposome dissociates G-quadruplexes and facilitates transcription. Nucleic Acids Res 2014, 42 (20), 12949-5910.1093/nar/gku998; (b) Tateishi-Karimata, H.; Isono, N.; Sugimoto, N., New insights into transcription fidelity: thermal stability of non-canonical structures in template DNA regulates transcriptional arrest, pause, and slippage. PLoS One 2014, 9 (3), e9058010.1371/journal.pone.0090580.
  6. Tateishi-Karimata, H.; Kawauchi, K.; Sugimoto, N., Destabilization of DNA G-Quadruplexes by Chemical Environment Changes during Tumor Progression Facilitates Transcription. J Am Chem Soc 2018, 140 (2), 642-65110.1021/jacs.7b09449.
  7. Teng, Y.; Tateishi-Karimata, H.; Sugimoto, N., RNA G-Quadruplexes Facilitate RNA Accumulation in G-Rich Repeat Expansions. Biochemistry 2020, 59 (21), 1972-198010.1021/acs.biochem.0c00130.
  8. Kawauchi, K.; Sugimoto, W.; Yasui, T.; Murata, K.; Itoh, K.; Takagi, K.; Tsuruoka, T.; Akamatsu, K.; Tateishi-Karimata, H.; Sugimoto, N.; Miyoshi, D., An anionic phthalocyanine decreases NRAS expression by breaking down its RNA G-quadruplex. Nat Commun 2018, 9 (1), 227110.1038/s41467-018-04771-y.
  9. (a) Tateishi-Karimata, H.; Muraoka, T.; Kinbara, K.; Sugimoto, N., G-Quadruplexes with Tetra(ethylene glycol)-Modified Deoxythymidines are Resistant to Nucleases and Inhibit HIV-1 Reverse Transcriptase. Chembiochem 2016, 17(15), 1399-40210.1002/cbic.201600162; (b) Tateishi-Karimata, H.; Ohyama, T.; Muraoka, T.; Podbevsek, P.; Wawro, A. M.; Tanaka, S.; Nakano, S. I.; Kinbara, K.; Plavec, J.; Sugimoto, N., Newly characterized interaction stabilizes DNA structure: oligoethylene glycols stabilize G-quadruplexes CH-pi interactions. Nucleic Acids Res 2017, 45 (12), 7021-703010.1093/nar/gkx299.

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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