[スポンサーリンク]

ケムステニュース

化学メーカー発の半導体技術が受賞

[スポンサーリンク]

積水化学工業株式会社の高機能プラスチックスカンパニー開発研究所エレクトロニクス材料開発センターが開発している仮固定テープ「耐熱セルファ」の研究成果が、台湾で最大の半導体パッケージとPCB(Printed Circuit Board)の国際学会「IMPACT」でBest Paper Award(最優秀論文賞)を受賞しました。 (引用:12月26日積水化学プレスリリース)

株式会社レゾナックの6インチ(150mm)SiC単結晶基板が、「2022年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞」を受賞しました。(引用:1月4日レゾナックプレスリリース)

まず積水化学の仮固定テープについてですが、これは半導体の製造工程の一部であるパッケージに使われる材料に関する話題です。

シリコンウェハなどから作られたICチップは、一つ一つに切り分けた後、回路基板にはんだで接続し、パソコンやスマホの電子部品として使われますが、半導体部品の高性能化と低消費電力化が求められており、ICチップを3次元で実装する研究開発が進められています。この場合、ICチップ同士の接続は、IC内の銅配線から直接接合するハイブリッドボンディング(銅-銅ダイレクト接合)へ移行すると考えられています。

銅-銅ダイレクト接合の研究例(出典:Area-Selective Electroless Deposition of Cu for Hybrid Bonding

そしてこのハイブリッドボンディングには250℃以上の高温処理が必要であり、IC同士を張り合わせる際に使う仮固定材にも高い耐熱性が要求されます。実際、従来のテープでは高温下で使用すると熱分解を起こしたり、接着力が上がりすぎてしまい、IC同士を張り合わせた後、仮固定用のテープを剥がすことができず、ハイブリッドボンディングへの適応に課題がありました。

そこで、この課題を克服すべく、テープの原材料を改良し耐熱性を高めながらも接着力を制御できるよう改善した結果、ハイブリッドボンディングに対応できる300℃の耐熱性を有する仮固定テープの開発に成功しました。開発したテープでは、UV照射により架橋が発生しシリコンウェハに対する接着力が発生します。高温処理後は、レーザーにより支持基板からはがし、その後シリコンウェハからもテープを剥離できるようです。

本技術は、台湾で最大の半導体パッケージとPCBの国際学会、IMPACT(International Microelectronics Packaging Assembly and Circuits Technology conference) 2022で発表され、日本企業で唯一Packaging部門にてBest Paper Awardを受賞しました。

2件目は、レゾナックのSiC単結晶基板についてです。レゾナックとは、昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が統合して誕生した会社です。

SiC単結晶基板から作り出されるSiCパワー半導体は従来使用されてきたシリコン基板よりも電力損失や熱の発生が少なく、省エネルギーに貢献するデバイスとして注目され、とくに電気自動車(EV)や再生可能エネルギー分野などの各種産業用途での需要が急拡大しています。

SiCパワー半導体もシリコン半導体と同じようにウェハを加工して作られますが、ウェハを製造する工程においてひと手間があり、インゴットから切り出したSiC単結晶基板にエピタキシャル成長と呼ばれる方法でSiCの単結晶を成膜する必要があります。

半導体製造においてはウェハのサイズが大きい方が一枚のウェハーからとれるチップ数が多くなるため、製造コストを下げることができますが、品質に対する難易度は高くなります。そんな中、レゾナックでは6インチ(150 mm)のSiCウェハーを2022年に国内で初めて量産開始しました。そして今回、エピタキシャル成長させる基板の6インチSiC単結晶基板が今回、2022年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞を受賞しました。

左:SiCインゴット 右:SiC単結晶基板(出典:レゾナックプレスリリース

1件目の内容は、半導体の構造が進化することで生じる課題に対応して製品を改良した結果であり、先を見据えた開発の良い事例ではないでしょうか。また半導体の性能向上にはいろいろな技術が必要で、化学もその一端を担っていることがよく分かる例だと思います。3次元実装技術について一見、材料が関係ないと思われる変化でも意外な課題があり、乗り越えるために化学からのアプローチが必要な時があるようです。

2件目についてレゾナックでは2009年からSiCウェハーの量産を始め、特性均一性、低欠陥密度などの優れた品質により現在では世界で大きなシェアを有しているそうです。そして6インチより大きなウェハーの開発も進められており、2022年9月には自社製SiC単結晶基板を使用した200mm SiCウェハーのサンプル出荷も開始しています。電気自動車などの普及に伴いSiCパワー半導体の需要も高まって技術発展が加速する可能性があります。今後の発展に期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4781316840″ locale=”JP” title=”2023年版ファインケミカル年鑑”] [amazonjs asin=”B09D64WGSF” locale=”JP” title=”SiC半導体の基礎からわかりやすく丁寧に: エネルギーバンド・ダイオード・スイッチング素子・製法に関して”]

半導体に関するケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. DNAに電流通るーミクロの電子デバイスに道
  2. UBEの新TVCM『ストーリーを変える、ケミストリー』篇、放映開…
  3. L・スターンバック氏死去 精神安定剤開発者
  4. トムソン:2008年ノーベル賞の有力候補者を発表
  5. シロアリに強い基礎用断熱材が登場
  6. 新コース開講! 東大発の無料オンライン英語講座!
  7. 秋の褒章2010-化学
  8. ポリエチレンなど合成樹脂、値上げ浸透

注目情報

ピックアップ記事

  1. スルホニルアミノ酸を含むペプチドフォルダマーの創製
  2. 向かう所敵なし?オレフィンメタセシス
  3. 2009年ノーベル化学賞は誰の手に?
  4. 化学者たちの感動の瞬間―興奮に満ちた51の発見物語
  5. 日本薬学会第125年会
  6. もう入れたよね?薬学会年会アプリ
  7. 乙卯研究所 研究員募集 2022年度
  8. 三井化学岩国大竹工場の設備が未来技術遺産に登録
  9. ケミストリー通り
  10. 「オプトジェネティクス」はいかにして開発されたか

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年2月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP