[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第六回 電子回路を合成するー寺尾潤准教授

[スポンサーリンク]

さて第六回目は京都大学大学院工学研究科准教授の寺尾潤先生にインタビューを行ないました。先生は第二回目の伊丹健一郎教授、第四回目の村橋哲郎准教授と2人からのご推薦でした。現在、タイトルにありますように合成化学的手法を利用して電子回路を合成するというチャレンジングで大変興味深いテーマに取り組んでいます。化学に熱く、そして何事にもキレのある先生です。それでは御覧ください。

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

昔から好奇心が旺盛で、少年時代は大自然の中で新しい遊びを創り出すことが好きでした。友達がその遊びで楽しんでくれた時は、何とも言えない喜びを覚えたことを記憶しています。今でも自分の研究が他の人にも面白いと共感してもらえた時に、この頃味わった感覚が甦ります。化学者になりたいと思ったのは、研究室配属後、自分で計画して実験できるようになってからのことです。発想次第で無限に楽しめる子供時代の体験と化学とが時には重なり、好奇心がどんどんと駆り立てられるようになったからだと思います。博士課程へは化学者としてのセンスの有無を確かめるべく進学しました。そこで新しい研究テーマを立ち上げることができたことと、リサーチプロポーザルでの高評価が私にとって大きな自信となり、化学者への道に進む決意をしました。現在も、自分の思い描く化学者を目指し、さらなる化学的センスを磨くべく日々努力をしています。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

日に日に化学が面白くなってきているので、これよりも夢中になれそうなことはなかなか思い浮かばないです。ただ、学生時代に熱中したサッカーとバンド活動では自らの才能とセンスの無さを痛感したので、もはや「日本代表」と「ボーカリスト」の夢に未練はありません。最近は、やはり化学者が自分の天職かもしれないとそのように思います。

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

情報処理デバイスはトップダウン的手法により高集積化が図られていますが、ムーアの法則に従えばこの微細化法は2020年に物理的・経済的限界に達すると予想されています。この現況を踏まえ、合成化学的手法による分子デバイスの作製に挑戦しています。これが実現すれば、従来の高エネルギーを必要とする高価な微細加工装置やレアメタルを用いることなく、安価な反応装置と有機分子により電子回路の作製が可能になると期待できます。最近の成果としては、被覆型分子ワイヤの合成、クロスカップリング反応によるナノ電極への分子配線、光スイッチングデバイスの作製に成功しています。現在は、ムーアの法則を覆し、産業と社会を大きく変える分子素子作製技術の開発を目指し研究を行っています。

ムーアの法則

ムーアの法則

 

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

この質問を見て、3年前のMBLA講演ツアーで、全米の合成化学分野のスーパースターと呼ばれる先生方と夕食をご一緒したことを思い出しました。この時に一番興奮したことは、お互いの研究経緯についてではなく、これからの科学について語り合ったことでした。歴史上の人物と会えると言うことは、ついにタイムマシンが完成したということですよね。それならば是非、未来の科学者と話がしてみたいです。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

数ヶ月前に、卒業した学生の論文を提出した際に、レフリーに指摘された内容の追加実験を行いました。いつものことですが、やはり学生が卒業する前に論文発表しておくべきだったとつくづく思いました。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

音楽となると、たくさん解答があって難しいです。一曲だけなら、どんな時でもモチベーションを高めてくれるVAN HALENの「DREAMS」で、CD一枚なら、小学校の時から愛聴しているQUEENの「Greatest Hits」ですね。

[amazonjs asin=”B00DE6AOLM” locale=”JP” title=”Dreams”] [amazonjs asin=”B000024A70″ locale=”JP” title=”Greatest Hits”]

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

私より少し上の世代の方で伊藤肇先生(北大教授)、寺田眞浩(東北大教授)、野崎京子先生(東大教授)を推薦致します。いつもワクワクする研究を展開されている先生方です。

 

関連リンク

 

寺尾 潤准教授の略歴

jun_terao_picture寺尾 潤

京都大学大学院工学研究科准教授。1999年大阪大学大学院工学研究科分子化学専攻博士課程終了、その後大阪大学工学研究科助教、講師を経て、2008年より現職。専門は有機合成化学、超分子化学、分子エレクトロニクス。

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第92回―「金属錯体を結合形成触媒へ応用する」Rory Wate…
  2. 第24回「アルキル-πエンジニアリングによる分子材料創成」中西尚…
  3. 第127回―「生物学的に取扱困難な金属イオンを研究する」Ann …
  4. 第58回「新しい分子が世界を変える力を信じて」山田容子 教授
  5. 第168回―「化学結晶学から化学結合を理解する」Guru Row…
  6. 第87回―「NMRで有機化合物の振る舞いを研究する」Daniel…
  7. 第165回―「光電変換へ応用可能な金属錯体の開発」Ed Cons…
  8. 第99回―「配位子設計にもとづく研究・超分子化学」Paul Pl…

注目情報

ピックアップ記事

  1. 東京化成工業がケムステVシンポに協賛しました
  2. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」③
  3. CO2が原料!?不活性アルケンのアリールカルボキシ化反応の開発
  4. TriBOT ~1分子が3倍活躍するベンジル化試薬~
  5. 周期表を超えて~超原子の合成~
  6. CEMS Topical Meeting Online 機能性材料の励起状態化学
  7. ウィリアム・リプスコム William N. Lipscomb Jr.
  8. Accufluor(NFPI-OTf)
  9. アメリカで Ph.D. を取る –結果発表ーッの巻–
  10. 炭素文明論「元素の王者」が歴史を動かす

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年10月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

河村奈緒子 Naoko Komura

河村 奈緒子(こうむら なおこ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の有機化学者である。専門は糖鎖合…

分極したBe–Be結合で広がるベリリウムの化学

Be–Be結合をもつ安定な錯体であるジベリロセンの配位子交換により、分極したBe–Be結合形成を初め…

小松 徹 Tohru Komatsu

小松 徹(こまつ とおる、19xx年xx月xx日-)は、日本の化学者である。東京大学大学院薬学系研究…

化学CMアップデート

いろいろ忙しくてケムステからほぼ一年離れておりましたが、少しだけ復活しました。その復活第一弾は化学企…

固有のキラリティーを生むカリックス[4]アレーン合成法の開発

不斉有機触媒を利用した分子間反応により、カリックスアレーンを構築することが可能である。固有キラリ…

服部 倫弘 Tomohiro Hattori

服部 倫弘 (Tomohiro Hattori) は、日本の有機化学者。中部大学…

ぱたぱた組み替わるブルバレン誘導体を高度に置換する

容易に合成可能なビシクロノナン骨格を利用した、簡潔でエナンチオ選択的に多様な官能基をもつバルバラロン…

今年は Carl Bosch 生誕 150周年です

Tshozoです。タイトルの件、本国で特に大きなイベントはないようなのですが、筆者が書かずに誰が…

ペンタフルベンが環構築の立役者!Bipolarolide D の全合成

4つの五員環が連結するユニークな構造をもつ天然物bipolarolide Dの全合成を達成した。エナ…

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP