[スポンサーリンク]

海外化学者インタビュー

第160回―「触媒的ウィッティヒ反応の開発」Christopher O’Brien博士

[スポンサーリンク]

第160回の海外化学者インタビューは、クリストファー・オブライエン博士です。ダブリン市立大学化学科に所属(訳注:現在はAlmac社に勤務)し、堅牢な触媒合成方法の開発や標的指向型合成に取り組んでいます。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

もともと化学が好きで、幼い頃からその美しさに驚かされていました。どういう経緯で今の仕事をしているのかについては、父方の祖母との会話から話が始まります。私がUMISTに入学した頃か、その少し前だかに、祖父が初期のアルツハイマー病と診断されました。祖母とのその会話は、祖父が私のことを忘れてしまう前だったのか、後だったのかは覚えていません。医者はいつものように偽の希望を与えて、藪をつついていました。そこで私は祖母に、これから起こることを率直に伝え、遅かれ早かれ彼は祖母のことが誰であるかわからなくなるのだから、お別れをするべきだと言いました。アルツハイマー病は急速に進行する可能性があります。私の祖父の場合、1年のうちに私が誰だかを忘れてしまったのです。これを示す話ですが、私は1年間休学し、フィリップスのヨーロッパ支社へ働きに出たことがあります。出発時には、祖父は私が誰だか分かっていましたが、戻ってきたときには分からなかったのです。そのうちに、彼はほとんどの人を忘れてしまいました。興味深いことに、アルツハイマー病患者は死ぬ直前、ある瞬間だけ明晰になることがあります。幸運にもこのときに、アリス(祖母)はレン(祖父)に別れを告げることができました。

だから私は現在、化学合成法を開発することで、創薬化学者などが必要とするツールを手に入れようとしています。将来の誰もが、私のような会話を祖母としたり、愛する人がゆっくりと崩壊していくのを目の当たりにすることがないよう願っています。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

特許弁護士かコンピュータ・プログラマーになるでしょう。10代前半の頃、Acorn Electronで何時間もかけてプログラムを作っていたのを覚えています。動作しないスプライトを修正していたことを今でも覚えています。また、大学では特許法を学びましたが、それがとても役に立っています。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

現在、私は選択的な触媒プロセスに取り組んでいますが、これをより大きな複数の触媒から成る自己組織化アレイに統合したいと考えています。また私のグループでは、特定の生物学的課題を解決する化合物を標的とした合成化学にも取り組んでいます。

Q.あなたがもし、歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

人は歴史から学ばなければ同じことを繰り返すと思いますが、人を偶像化することの効能を信じてはいません。ですから、歴史上の人物に会いたいとは思いません。代わりに、私の祖父たちと一緒に食事をしたいと思っています。祖父たちが亡くなる前、あるいはアルツハイマー病によって記憶を失う前に、彼らと話す機会がなかったからです。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

数週間前のことです。触媒的Wittig反応に用いる特別な塩基の生成でした。なるべく研究室には居残るようにしています。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

SASのサバイバルハンドブックを持っていきます。無人島に長く滞在するつもりはないし、やることもありますからね。音楽は、やる気を出すために「The Great Escape」のテーマ曲がいいかもしれません。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

ETHチューリッヒのRyan Gilmourは面白い化学をやっていると思うので、ぜひインタビューしてほしいですね。

原文:Reactions – Christopher O’Brien

※このインタビューは2011年6月16日に公開されました。

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 【第二回】シード/リード化合物の合成
  2. 第18回「化学の職人」を目指すー京都大学 笹森貴裕准教授
  3. 第78回―「膜タンパク質の分光学的測定」Judy Kim教授
  4. 第132回―「遷移金属触媒における超分子的アプローチ」Joost…
  5. 第162回―「天然物の合成から作用機序の解明まで」Karl Ga…
  6. 第59回―「機能性有機ナノチューブの製造」清水敏美 教授
  7. 第42回「激動の時代を研究者として生きる」荘司長三教授
  8. 第50回―「糖やキラル分子の超分子化学センサーを創り出す」Ton…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2011年人気記事ランキング
  2. プラスマイナスエーテル!?
  3. ボロン酸の保護基 Protecting Groups for Boronic Acids
  4. 水溶性ニッケル塩を利用したグリーンな銅ナノ粒子合成法の開発
  5. 池田 富樹 Tomiki Ikeda
  6. 還元的にアルケンを炭素官能基で修飾する
  7. (–)-Vinigrol短工程不斉合成
  8. Nsアミン誘導体
  9. 論文チェックと文献管理にお困りの方へ:私が実際に行っている方法を教えます!
  10. ルイスペア形成を利用した電気化学発光の増強

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年8月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

注目情報

最新記事

材料開発の変革をリードするスタートアップのデータサイエンティストとは?

開催日:2023/06/08  申し込みはこちら■開催概要MI-6はこの度シリーズAラウ…

世界で初めて有機半導体の”伝導帯バンド構造”の測定に成功!

第523回のスポットライトリサーチは、千葉大学 吉田研究室で博士課程を修了された佐藤 晴輝(さとう …

第3回「Matlantis User Conference」

株式会社Preferred Computational Chemistryは、7月21日(金)に第3…

第38回ケムステVシンポ「多様なキャリアに目を向ける:化学分野のAltac」を開催します!

本格的な夏はまだまだ先ですが、毎日かなり暖かくなってきました。皆様お変わりございませんでしょうか。…

フラノクマリン -グレープフルーツジュースと薬の飲み合わせ-

2023年2月に実施された第108回薬剤師国家試験において、スウィーティーという単語…

構造の多様性で変幻自在な色調変化を示す分子を開発!

第522回のスポットライトリサーチは、北海道大学 有機化学第一研究室(鈴木孝紀 研究室)で博士課程を…

マテリアルズ・インフォマティクス適用のためのテーマ検討の進め方とは?

開催日:2023/05/31 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

リングサイズで性質が変わる蛍光性芳香族ナノベルトの合成に成功

第521回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科理学専攻 物質・生命化学領域 有機化…

材料開発の変革をリードするスタートアップのプロダクト開発ポジションとは?

開催日:2023/06/01 申し込みはこちら■開催概要MI-6はこの度シリーズAラウン…

種子島沖海底泥火山における表層堆積物中の希ガスを用いた流体の起源深度の推定

第520回のスポットライトリサーチは、琉球大学大学院 理工学研究科海洋自然科学専攻 地殻内部水圏地化…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP