[スポンサーリンク]

一般的な話題

天才児の見つけ方・育て方

[スポンサーリンク]

並外れて優秀な子どもたち5000 人を45 年にわたり追跡してきた米国のSMPY による調査から、そうした子供たちに学習意欲を持ち続けさせるためには手助けが必要なことが分かってきた。彼らは、自分自身で興味のあるものを見つけ、自力でその力を伸ばしていくことができると考えられがちだが、そうではないのだという。

タイトルはシュプリンガー・ネイチャーの出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」12月号から。最新サイエンスを日本語で読める本雑誌から個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。

天才児の育て方

今月号の特集。ちょうど乳児・幼児をもつ親として気になってしまいました(笑)。記事は1968年ジョン・ホプキンス大学の教授であったJulian Stanley(写真)が、若干13歳でジョン・ホプキンス大学に入学したJoseph Batesという少年に会ったところから始まります。この出会いがきっかけとなり、その後、Stanley教授はSMPY(Study of Mathematically Precocious Youth:早熟な数学的才能を示す児童の研究)を大学で立ち上げ、長期間に渡り、英才児を見つけては支援してきました。その数なんと約5000人

その支援した英才児の経過を追うことによって様々なデータを集めることができたStanley教授らのグループ。記事はそのデータに基づいた英才児の識別方法、彼らの特徴や、その育て方について紙面の6ページを割いて述べています。現在では「頭脳や才能は出発点にすぎず、能力は努力と知的冒険を通じて伸ばすことができる」という考え方に至っています。

今後の研究により「英才児には特に手を貸さなくても、自分1人で成功をつかむことができるという長きにわたる誤解を打ち崩すことになるかもしれない。」とのこと。

ちなみにBates少年のその後は、記事にも記載がありますが、若干31歳でカーネギー・メロン大学の教授となり人工知能研究のパイオニアとなりました。その後、2005年に退職してSingular Computingという会社を立ち上げ、現在60歳だそうです。最初にStanley教授に見出されていなければどうなっていたことでしょうか。それについては誰にもわかりません。

理想的な鎮痛薬を計算科学で設計

オピオイドと同等の鎮痛活性を有し、オピオイドよりも副作用が少ない薬剤が、構造に基づいたコンピューターシミュレーションによって開発された。

in silicoでの医薬品開発はすでに製薬会社をはじめとして盛んに行われています。一時期は得られた「結果」の説明は可能だが、医薬品開発の「予測」には全く役に立たないといった印象でした。しかし、近年の医薬品の受容タンパク質の構造決定技術の進歩により、タンパク質の結晶構造が比較的容易に得られるようになりその結果、合成すべき薬剤候補化合物がかなり予測できる状況になってきています。

スタンフォード大学のManglik博士らは鎮痛剤として古くから利用されているオピオイド(モルヒネとその誘導体など)の中毒作用などの副作用を起こさない完璧な鎮痛剤の実現に向けて、300万種の分子についてミューオピオイド受容体(μOR)結合ポケット*とドッキング計算を行いました。

その結果、βアレスチンと複合体を形成しない有力な候補を選定することができ、合成、誘導化によりPZM21という新しい構造を有する医薬品項を発見することができたそうです。記事はオピオイド研究と計算科学の貢献について詳細に述べられています。

*モルヒネはμORと結合して鎮痛作用を有するGi/oタンパク質と活性化複合体を形成するが、同時に副作用を有するβアレスチンとも複合体を形成してしまう。

a. モルヒネと鎮痛作用および副作用 b. 今回の研究の流れ(出典:Natureダイジェストより)

関連文献

  • Manglik, A.; Lin, H.; Aryal, D. K.; McCorvy, J. D.; Dengler, D.; Corder, G.; Levit, A.; Kling, R. C.; Bernat, V.; Hübner, H.; Huang, X.-P.; Sassano, M. F.; Giguère, P. M.; Löber, S.; Da Duan; Scherrer, G.; Kobilka, B. K.; Gmeiner, P.; Roth, B. L.; Shoichet, B. K. Nature 2016, 537, 185–190. DOI; 10.1038/nature19112

その他

今月号の無料公開記事は2つ。

考古学分野から「サルの「石器」が投げかける疑問」としてブラジルに生息するオマキザルの意図しない”石割り”によってできた”石片”が、旧石器時代の人類が作製したといわれる剥片石器によく似ていることが報告された話。え、じゃあ剥片石器ってなんなの?となりかねない重要な発見です。

剥片石器

オマキザルの”石割り”の動画はこちら。

もうひとつは、「データ共有と再利用促進のための新方針」としてNatureおよび関連12誌において、2016年9月号から論文作成に利用されたデータセットの利用可能性と利用方法の明記を義務化したことについての記事です。無料ですのでぜひお読みください。

ノーベル賞関連記事も

今回は先日授賞式が行われたばかりの2016年ノーベル賞に関連した記事もあります。

年末年始のお供に

さて今年も終わりまで3週間となりました。忘年会などで忙しい時期と思いますが、1年間の科学を振り返ってみてはいかがでしょうか。Nature ダイジェストを購読すればすべてのバックナンバーに遡って最新科学を学ぶことができます。購読はこちら

過去記事はまとめを御覧ください

外部リンク

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. ジアルキル基のC–H結合をつないで三員環を作る
  2. 君には電子のワルツが見えるかな
  3. 第4回CSJ化学フェスタに参加してきました!
  4. 有機合成化学協会誌2021年9月号:ストリゴラクトン・アミド修飾…
  5. 近赤外光を吸収する有機分子集合体の発見
  6. ADC薬 応用編:捨てられたきた天然物は宝の山?・タンパクも有機…
  7. 光触媒で人工光合成!二酸化炭素を効率的に資源化できる新触媒の開発…
  8. 「遷移金属を用いてタンパク質を選択的に修飾する」ライス大学・Ba…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. トリメチルアルミニウム trimethylalminum
  2. 小型質量分析装置expression® CMSを試してみた
  3. カイコが紡ぐクモの糸
  4. 高懸濁試料のろ過に最適なGFXシリンジフィルターを試してみた
  5. カルボン酸β位のC–Hをベターに臭素化できる配位子さん!
  6. フルオロシランを用いたカップリング反応~ケイ素材料のリサイクルに向けて~
  7. 第15回光学活性シンポジウム
  8. Chem-Station 6周年へ
  9. 化学に関係ある国旗を集めてみた
  10. 有機合成化学協会誌2019年11月号:英文版特集号

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年12月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ

ナノゾラ®皮下注30mgシリンジ(一般名:オゾラリズマブ(遺伝子組換え))は、A…

大正製薬ってどんな会社?

大正製薬は病気の予防から治療まで、皆さまの健康に寄り添う事業を展開しています。こ…

一致団結ケトンでアレン合成!1,3-エンインのヒドロアルキル化

ケトンと1,3-エンインのヒドロアルキル化反応が開発された。独自の配位子とパラジウム/ホウ素/アミン…

ベテラン研究者 vs マテリアルズ・インフォマティクス!?~ 研究者としてMIとの正しい向き合い方

開催日 2024/04/24 : 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足…

第11回 慶應有機化学若手シンポジウム

シンポジウム概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大…

薬学部ってどんなところ?

自己紹介Chemstationの新入りスタッフのねこたまと申します。現在は学部の4年生(薬学部)…

光と水で還元的環化反応をリノベーション

第609回のスポットライトリサーチは、北海道大学 大学院薬学研究院(精密合成化学研究室)の中村顕斗 …

ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)

概要分子が溶けた溶液に光を通したとき,そこから出てくる光の強さは,入る前の強さと比べて小さくなる…

活性酸素種はどれでしょう? 〜三重項酸素と一重項酸素、そのほか〜

第109回薬剤師国家試験 (2024年実施) にて、以下のような問題が出題されま…

産総研がすごい!〜修士卒研究職の新育成制度を開始〜

2023年より全研究領域で修士卒研究職の採用を開始した産業技術総合研究所(以下 産総研)ですが、20…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP