[スポンサーリンク]

一般的な話題

2009年ノーベル化学賞『リボソームの構造と機能の解明』

[スポンサーリンク]

 

スウェーデン王立科学アカデミーは7日、09年のノーベル化学賞を、英MRC分子生物学研究所のベンカトラマン・ラマクリシュナン博士(57)と米
エール大のトーマス・スタイツ教授(59)、イスラエルのワイツマン科学研究所のエイダ・ヨナス博士(70)の3氏に授与すると発表した。

授賞理由は細胞内でたんぱく質を合成する小器官リボソームの構造と機能の解明。細菌のリボソームに抗生物質が結合して、細菌の働きが阻害される様子をエックス線構造解析で明らかにした。これにより、新たな抗生物質をつくることが可能になった。(引用・毎日jp)

 

2009年のノーベル化学賞が発表になりました。今年は三名が受賞です。

今年こそは有機化学だろう!と思えたのですが、残念ながら予想的中ならず・・・。

またもや生化学領域からです。今年の医学生理学賞もテロメア・テロメラーゼ=生化学だったのですが。今の判定基準だと対象者が多すぎて医学生理学賞だけではカバーしきれなくなっており、化学賞にまで進出してるような印象を受けますね。

有機化学を専門とする身から見ればちょっと残念な事態ではあります。「ノーベル生物学賞」とか作っても良いぐらいなんじゃないでしょうか。まぁそれだけ化学が多方面に触手を伸ばしているという証なのかも知れませんが・・・。

今年の受賞対象は、「リボソームの機能と構造解析」についてです。

 

リボソームとはタンパク質を合成する細胞内器官の一つです。

具体的には、遺伝物質DNAのコピーであるメッセンジャーRNA(mRNA)からの情報を読み、それをもとにアミノ酸を順序よく結合させ、必要なタンパク質を合成する、という一連の作業を担う器官です(下記アニメーション参照)。

いわば私たちの身体を作り上げている場所、「タンパク質合成工場」がすなわちリボソームだと言うことです。

 

最も重要な細胞内器官の一つなのですが、その3次元構造を原子レベルで明らかにすることは、多くの科学者からほぼ不可能と考えられていました。

それも理由を考えれば納得で、リボソームは50以上ものタンパク質と、数千ものRNA・ヌクレオシドの複合体から成るという、常識外れに巨大な超複雑構造をもつのです。こういったものを構造解析すること自体、並大抵の難度ではないというのは全く理解できます。

 

英MRC研究所のベンカトラマン・ラマクリシュナン(写真左)、米イェール大学のトーマス・ステイツ(写真中央)、ワイズマン研究所のエイダ・ヨナス(写真右)はリボソームのX線結晶構造解析を行い、それぞれ独立に、かつほぼ同時期に3次元立体構造を発表しました。(Nature. 2000,407, 327, Science 2000, 289, 905, Cell 2000, 102, 615.) 今回の受賞は、この時の業績が評価されてのことだと思われます。

3Dribosome.gif(画像:www.pbs.org)

 

またごく最近、リボソームとmRNA/tRNA複合体の3次元構造も明らかとされました。

この一連の研究によってリボソームがどのようにmRNAを読み、どのようにタンパク質を合成していくか、と言うことに対する原子レベルでの機能理解が大きく進みました。

3Dribosome_2.gif
(画像:www.biologyreference.com)

リボソームは生命活動に必要不可欠な器官ですので、様々な種類の医薬品開発のターゲットともなりえます。

例えば実用されている抗生物質・ストレプトマイシンテトラサイクリンなどは、菌のリボソームをターゲットとしています。これは菌に存在するリボソームだけを選択的に阻害し、人間に存在するリボソームにはそれほど影響を与えません。このため副作用の少ない(選択毒性の高い)抗生物質として働くわけです。

streptomycin.gif tetracycline.gif

こういった既知医薬品のメカニズムを調べ、新たな医薬品開発につなげていく為には、ターゲットの構造を知ることがまず何より重要となります。3次元構造が分かれば、それを元にしたドッキングスタディなどをコンピュータ上で行えるため、どんな形状の化合物が医薬候補たり得るのか当てを付けたり、短時間で網羅的に可能性を調べることもできるようになるのです。

このように、リボソームのような医薬ターゲットたりうる重要生体高分子の立体構造が明らかにされることは、医薬品開発効率化という観点からも、大変重要な意義を持ちます。

あらゆる方面にインパクトを与える基礎研究ですし、ノーベル賞をもらって然るべき業績であるのは疑いありません。むしろまだもらってなかったのか、とすら思えてやや意外な感じです。兎にも角にもリボソームの構造解析自体が大変な難易度故に、それが意外と最近の出来事だった、というのが大きな理由なのでしょうね。

ともあれ今年は生化学ばかりだったので、筆者としては、来年こそ有機化学と日本勢の受賞に期待したいところですね。クロスカップリングやカーボンナノチューブは、実際いつとってもおかしくない分野でもありますし、順番的にはそろそろなはずにも思えるので。

 

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 除虫菊に含まれる生理活性成分の生合成酵素を単離
  2. とある社長の提言について ~日本合成ゴムとJSR~
  3. 研究者のためのCG作成術①(イントロダクション)
  4. 第20回次世代を担う有機化学シンポジウム
  5. 中国へ行ってきました 西安・上海・北京編②
  6. とある難病の薬 ~アザシチジンとその仲間~
  7. ロータリーエバポレーターの回転方向で分子の右巻き、左巻きを制御!…
  8. Wiiで育てる科学の心

注目情報

ピックアップ記事

  1. 二丁拳銃をたずさえ帰ってきた魔弾の射手
  2. イオン液体のリチウムイオン電池向け電解液・ ゲル電解質への応用【終了】
  3. 4-ベンゾイル安息香酸N-スクシンイミジル : N-Succinimidyl 4-Benzoylbenzoate
  4. アメリカで Ph.D. を取る –結果発表ーッの巻–
  5. ホフマン脱離 Hofmann Elimination
  6. 電子を閉じ込める箱: 全フッ素化キュバンの合成
  7. 第47回天然物化学談話会に行ってきました
  8. ジェフ・ボーディ Jeffrey W. Bode
  9. ゴールドバーグ アミノ化反応 Goldberg Amination
  10. Undruggable Target と PROTAC

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

第55回複素環化学討論会

複素環化学討論会は、「複素環の合成、反応、構造および物性」をテーマとして、化学・薬学・農芸化学など幅…

逐次的脱芳香族化と光環化付加で挑む!Annotinolide B初の全合成

Annotinolide Bの初の全合成が報告された。キノリンの逐次的な脱芳香族化と分子内光環化付加…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP